奈津美は冬馬に見つめられて、落ち着かなかった。
冬馬は根っからの悪人で、全身から金儲け主義の臭いが漂っている。
奈津美が冬馬に近づいたのは、自分の将来を守るためだった。まさか冬馬がこんなに付き合いづらい男だとは知らなかった。
奈津美はどうして冬馬のような男が、将来綾乃に夢中になるのか、ますます分からなくなった。
「分かった。入江社長の好意はありがたく頂戴するが、念書を書いてもらう」
「何だ」
「今後、入江グループが何か問題を起こしても、私は一切関知しない」
「滝川さん、それではあまりにも冷たいだろ」
「あなたとは、そういう関係じゃないでしょ」
奈津美は言った。「サインしてくれたら、この株式譲渡契約書を受け取る。でも、サインしてくれなかったら......」
冬馬は静かに奈津美を見つめ、彼女が何を言うのか待っていた。
奈津美は深呼吸をして言った。「サインしてくんないと、自首するよ。どうせ、あんたも終わりだ」
奈津美の言葉を聞いて、冬馬は珍しく笑みを浮かべた。傍らの初も笑いをこらえきれず、奈津美を見て言った。「滝川さん、あなたは状況を理解していないようですね。あなたが自首しても、冬馬は痛くも痒くもないでしょうが、あなたはただでは済まなくなるでしょう」
奈津美は冬馬が海外で力を持っていること、そして神崎でも新興勢力として注目されていることを知っていた。
しかし、冬馬が相手にするのは、只者ではない涼だ。
冬馬がどれだけ力を持っていたとしても、涼は地元で力を持っている。本気で敵対した場合、どちらが勝つか予想するのは難しい。
将来巻き添えを食らうくらいなら、自首して冬馬との関係を断ち切った方がマシだ。
「いいだろう、サインしよう」
冬馬は承諾した。
傍らの初は言った。「滝川さん、これは信頼の問題ですよ。冬馬は契約通りに行動することなどありません。サインしたところで、法的効力があろうとなかろうと、彼にとってはどうでもいいことです」
初は真剣な表情で言ったが、冬馬に睨まれた。
初はすぐに口をつぐんだ。
奈津美は言った。「それは海外の話でしょ。ここは神崎よ。サインすれば法的効力を持つわ。入江社長は神崎に来たばかりで、まだコネもないんでしょう? 私は怖くないわ」
「その通りだ。今回は約束を守る」
冬馬はまるで子供をあやすように言い、すぐに牙