動画には、彼女が涼に縋り付いて、卒業の件を何とかしてくれと頼んでいる様子が映っていた。
動画は短いものだったが、すでに一万回以上も転送され、文部科学省に送ると言う者まで現れていた。
こうなってしまえば、涼でも彼女を庇うことはできない。
綾乃は一気に力が抜けて、椅子にへたり込んだ。
教室の学生たちは、彼女に好奇の視線を向けた。
綾乃の顔からは血の気が引いた。
こんな目で見られたのは初めてだった。
奈津美は教室の外で、静かにこの様子を見ていた。
涼に大切にされているお嬢様が、こんな惨めな姿を晒すなんて。
こんな風に見られるのは、辛いだろう?
カンニングの濡れ衣を着せられた時、彼女もこんな風に軽蔑の視線を向けられたのだ。
今、彼女はそれを綾乃に返しただけだ。
その時、綾乃は教室の外にいる奈津美に気づいた。
彼女はすぐに教室を飛び出し、奈津美の腕を掴んで、狂ったように叫んだ。「あんたがやったんでしょ?!この動画をネットに投稿したのはあんたね!なぜ私にこんなことするのよ?!奈津美!全部あんたが私から奪っていったていうのに!」
「放して!」
奈津美は綾乃を突き飛ばした。
綾乃は奈津美の敵ではなかった。ふらついた彼女は、数歩よろめいた末にそのまま地面に倒れ込んだ。その様子を見ていた人だかりは、ますます増えていった。
奈津美は綾乃を見下ろして言った。「全部、自業自得よ。合格できる点数を取れたのに、欲張って首席になりたかったんでしょう?他人を巻き込んで答えを改ざんするなんて。あなたみたいな人が学生会長なんて務まるわけない。当然、罰せられるべきでしょ。涼さんが一生あなたを守ってくれると思ってるの?甘いんじゃない?」
周りの視線を感じ、綾乃の顔色はさらに悪くなった。「奈津美、あんたが私を陥れたんだ!私はカンニングなんてしてない!あの動画は偽物だ!」
「偽物?じゃあ、あなたと一緒に答えを改ざんした生徒会メンバーも偽物だって言うの?彼らはあなたに言いたいことがたくさんあると思うわ。あなたがいなければ、彼らが卒業間際に退学処分になることなんてなかったよ」
それを聞いて、綾乃はハッとした。
綾乃と一緒に試験監督の先生の部屋に行って答えを改ざんしたメンバーが、彼女の方に歩いてきた。
かつて自分を慕っていた仲間たちを見て、綾乃は急に居心地が悪くなった。