松本若子は、遠藤西也が何か質問するだろうと思っていた。特に、先ほどの場面は非常に気まずく、複雑だったため、誰でも好奇心を抱くだろう。
しかし、遠藤西也は何も聞かず、黙って彼女の隣に座っていた。
これ以上の問いかけがなかったことに、松本若子はかえって安堵した。
二人はしばらくの間、沈黙していたが、やがて松本若子が口を開いた。「遠藤さん、明大の最大の寄付者だなんて、知らなかったわ」
遠藤西也は軽く頷き、「雲天グループは、多くの学校に投資しているんだ」
「雲天グループ?」その名前を聞いた松本若子は驚いた。「あなたは雲天グループの…」
男性は手を差し出し、微笑みながら言った。「改めて自己紹介させていただきます。私は遠藤西也、雲天グループの総裁です」
松本若子は、遠藤西也がただ者ではないことをようやく実感した。
雲天グループは大手企業で、多くの人々がその福利厚生を求めて競い合う場所だ。SKグループと同様に、雲天グループも国際的な企業であり、財力が豊富だ。しかも、二つのグループは一部の事業で競争関係にある。
松本若子は手を伸ばして彼と握手した。「はじめまして、私は松本若子です」
握手が終わると、二人は手を引き戻した。
「それでは、今後はあなたを奥さんとお呼びします」
「いや、それはもうすぐ使えなくなるわ」松本若子は淡々と答えた。
遠藤西也はその言葉に何かを察したようだったが、特に何も言わなかった。賢い人間ならば、何かを悟ることができるだろう。
二人はしばらく話をした後、再び病院内を歩き回り、最後に病室に戻った。
松本若子は藤沢修の姿を見つけることができず、彼がもう帰ったのかどうかはわからなかった。彼らの以前のやりとりを考えると、桜井雅子が何を求めても、藤沢修はそれを彼女に与えるだろう。
遠藤西也は松本若子の顔に浮かぶ悲しみを感じ取ったが、それについて何も言わなかった。
松本若子は病院で遠藤西也と約二時間を過ごし、多くのことを話した。彼女は遠藤西也と多くの面で共通点があり、二人の価値観が合うことに驚いた。
気の合う相手とは、いくらでも話が尽きないものだ。時間を忘れてしまうほどの会話が続いたが、突然、彼女の携帯電話が鳴り出した。
画面に表示された名前は藤沢修だった。
彼女は電話を取り、「もしもし」と答えた。
「家に帰れ。話がある」
「何の