高峯は黙って、じっと前妻を見つめていた。
しばらくしてから、彼はゆっくりとソファに腰を下ろし、脚を組む。
どこか気だるげな態度だった。
「お前も分かってるだろう?俺がどうしてああしたのか」
「彼女が真実を口にしたからでしょ?それが気に入らなくて、逆上したんじゃないの?」
紀子は皮肉な笑みを浮かべた。
「まさか、社長ともあろう人が、実の娘の言葉すら受け入れられないほど、小さな男だったとはね」
高峯の眉間に深い皺が寄る。
目の奥には、冷たい怒りが滲んでいた。
だが、彼はただ冷笑するだけだった。
「紀子、お前も分かってるはずだ。もし、花が俺の娘じゃなかったら―今ごろお前のところに文句を言いに行く命すら、残ってなかったかもしれないぞ?」
「は?」
紀子は怒りに震えた。
「つまり、娘は父親に殺されかけたことを感謝すべきだとでも言いたいの!?」
「花は俺の娘だ」
高峯はゆっくりとした口調で言う。
「だが、お前とはもう他人だ。俺の人生に、口を出す権利はない。花はまだ何も分かってないくせに、父親の私生活に口を挟もうとする......あいつはお前が甘やかしすぎたな」
「......ふっ」
紀子は乾いた笑いを漏らした。
「甘やかしすぎた?じゃあ、どうすればよかったの?西也みたいに育てろとでも?」
冷たい瞳で、高峯を睨みつける。
「自分のことは、誰よりも分かってるでしょ?私はあんたのやり方には興味がない。だけど、花は私が産んだ娘よ。あんたの所有物じゃない」
彼女は一歩前に踏み出し、鋭く言い放つ。
「だから警告する。もう二度と花に手を出さないで。もし、また傷つけるようなことをしたら―そのときは、私も黙ってない」
これまで、どんなことも冷静に受け止めてきた。
結婚してからずっと、彼女の感情は穏やかだった。
離婚のときですら、彼女は取り乱すことなく淡々としていた。
だからこそ、今の彼女の姿は、高峯にとっても衝撃だった。
こんなにも怒りに満ちた紀子を見るのは、彼にとって初めてのことだった。
「だったら、花にはっきりと言い聞かせておけ」
高峯は冷たく言い放つ。
「これ以上俺に関わるな。ましてや、父親の私生活に口を挟むなんて論外だ......次はどうなるか、俺にも保証はできない