夜の帳が降り、雨が静かに大地を包み込んでいた。
細かな雨粒が銀色の糸のように降り注ぎ、静寂な部屋の窓を叩く。
修は窓辺に立ち、ガラスに滴る雨の軌跡をじっと見つめていた。
胸の奥に広がるのは、終わることのない憂鬱な影。
薄暗い照明の下で、彼の整った顔立ちは雨の帳に溶け込み、より一層その魅力を引き立たせていた。
深い瞳は星空に輝く宝石のようでありながら、底知れぬ痛みと哀しみを秘めている。
僅かに寄せられた眉は、誰にも解けない謎のように複雑な感情を映し出し、言葉にできない秘密を抱え込んでいた。
背筋はまっすぐに伸び、堂々とした姿はまるで動かぬ山のよう。
だが、瞳に宿る苦悩が彼の表情を淡く陰らせ、哀愁の色を帯びさせていた。
彼の手には、一枚の写真が握られている。
映っているのは、若子の笑顔。
その微笑みは、夜空に輝く一番星のように、明るく、まぶしく―そして、もう届かない。
窓辺には一本の酒瓶が置かれていた。
修の胃はもともと弱い。
過去に酒を飲みすぎて胃穿孔を起こし、医者には三年間禁酒を言い渡された。
それに、若子とも約束した。もう二度と酒は飲まない、と。
ちゃんと体を大事にすると。
けれど―
深夜になると、痛みと喪失感がどうしようもなく襲いかかる。
酒に溺れることでしか、己を麻痺させる方法がなかった。
でなければ、衝動のままにこのベランダから飛び降りてしまいそうだった。
―若子、お前は今、そこで幸せに過ごしているのか?
奴と一緒にいるのか?幸せなのか?もう、俺のことなんか忘れたのか?
ノラから彼女の居場所を聞いて、一週間以上が過ぎていた。
だが、修は未だにそこへ行く勇気を持てずにいた。
躊躇っている。
もし彼女に会いに行ってしまったら。
彼女が西也と仲睦まじく過ごしている姿を目にしてしまったら―
きっと、俺は発狂する。
自分を守る唯一の方法は、見に行かないことだった。
彼女がどんな生活をしていようと、知らなければ、まだ心のどこかに幻想を抱いていられる。
けれど、もしこの目で現実を見てしまったら。
その瞬間、自分は完全に壊れてしまう。
一度は考えたこともあった。
―若子が俺を捨て、他の男を選んだのなら、俺も適当に誰かと結婚して、彼女に仕返し