電話を切った後、若子は改めてこの家の中を見渡した。
この家は二階建ての一軒家で、外から見るとガラス越しに中の様子はまったく見えない。
だけど、中からは外がはっきりと見えるようになっている。
試しにガラスをコンコンと叩いてみると、普通のものとは違う感触がした。
アメリカの住宅は、窓が大きくて簡単に割れそうな家も多くて、なんだか無防備に思えることがある。
もちろん、アメリカでは私有財産の保護が厳しく、不法侵入は重罪だ。
それでも、思い切ったことをするやつがいないとは限らない。
だけど、この家は違う。
どうやら特別な設計がされているようで、ガラスの手触りが独特だった。
透明なのに、普通のガラスとは違う強度を感じる。
もしかすると―銃弾すら通らない防弾ガラスかもしれない。
家の内装はすっきりしていて、ミニマルなデザイン。
清潔感もあって、余計な装飾がほとんどない。
......そう思ったのも束の間。
ふとキッチンのシンクに目をやると、洗われていない皿が二枚。
たったそれだけのことなのに、さっきまでの整然とした印象が一気に崩れた。
気になって仕方ない。
若子はため息をついて、袖をまくると、さっさと皿を洗い、乾燥ラックに並べた。
ついでに冷蔵庫を開けてみると、中には水とビール、そしてシワシワになった果物がいくつか。
......これ、いつのだろう?
この人、普段何を食べてるの?
リビングをひと通り見回すと、ソファのそばに、血のついたハンカチが落ちていた。
若子は拾い上げる。
これは―さっき、彼の傷を押さえるのに使ったものだ。
重傷を負った体で、わざわざこれを拾ったってこと?
なんでそこまでして......
首を傾げながら、ハンカチを持って洗面所へ向かう。
冷たい水で丁寧に血を洗い流し、ラックにかけて乾かした。
その時だった。
「......う......っ」
寝室から微かな声が聞こえる。
若子はすぐに部屋へ駆け込んだ。
ベッドの上では、ヴィンセントが苦しそうに身をよじらせ、うなされている。
額には汗が滲み、眉間には深い皺。
「痛いの......?それとも悪夢......?」
どちらにしても、相当辛そうだった。
若子はそっと耳を澄ます。