若子は歯を食いしばり、内心の恐怖を押し殺しながら、消毒針を慎重に回転させて傷の中を清掃していく。
そのたびに、ヴィンセントの全身がぴくりと強張り、唇がぎゅっと閉じられる。
だが、彼は一切声を漏らさなかった。
―この人、耐えすぎ。
やがて作業が一段落すると、ヴィンセントが息を吐きながら言った。
「......生理食塩水とガーゼを取ってくれ。まずは傷口を洗い流して、それから拭き取るんだ」
若子は薬箱を開け、生理食塩水のボトルを取り出す。
震える手でキャップを開けると、そっとヴィンセントの胸元へと傾けた。
血と一緒に、汚れが流れ落ちていく。
すぐにガーゼを取り、やさしく拭き取っていく。
―少しずつ、落ち着いてきた。
ヴィンセントの表情も、ほんの少し和らいだ。
呼吸も穏やかになっていく。
その深い瞳が、じっと若子を見つめる。
まるで夜空を閉じ込めたみたいに、静かで、美しい目だった。
「......これでいい?次は......?」
自分がここまでできるなんて、思ってなかった。
ヴィンセントが低く答える。
「赤いチューブが抗生物質の軟膏だ。それを傷に塗ってくれ」
「うん......わかった」
若子はそっと軟膏を手に取り、震える指で塗り始める。
肌に触れるのが怖くて、ほんのわずかしか当てられない。
痛みを与えたくなくて、それだけで緊張が爆発しそうになる。
「怖がるな。ちゃんと塗ってくれ」
ヴィンセントの声は落ち着いていたが、確かに届いた。
若子は覚悟を決めて、慎重に、でもしっかりと傷口に軟膏を伸ばしていった。
すべてが終わったあと―彼女は深く息を吐いた。
―できた。やりきった......
怖かったけど、逃げなかった。
でも......やっぱり、自分に医者は向いてない。
こんなに手が震えるようじゃ、誰かを殺しかねない。
ヴィンセントみたいな人じゃなきゃ、とっくに危なかったかも。
その後、薬箱から清潔なガーゼを取り出し、丁寧に傷口にかぶせた。
出血や分泌物を吸収しながら、外からの雑菌も防ぐ。
きつすぎず、ゆるすぎず―
包帯を固定しながら、彼女は自分でも驚くほど手際よく仕上げた。
こればかりは、教わらなくてもなんとかなる。
道具を片付けた