―まさか、自分はそんなにも簡単に踏みにじられる存在なのか?
あいつは、そんなにも自分を苦しめるのが楽しいのか?
なら、いっそみんなで一緒に地獄を味わえばいい―!
修はじっと、無言のまま若子を見つめていた。
十秒以上はそうしていただろうか。やがて口を開いた。
「侑子、離れてろ」
「修、何するつもりなの?」
侑子は不安そうに彼の服を掴み、必死に止めようとする。
「騙されないで!あの女、頭おかしいのよ!行こ、ね?一緒に帰ろう?」
侑子は修の腕を引っ張ろうとした。でも、修はびくとも動かない。
むしろ、自分から彼女をそっと押しやって、やさしく地面の方へと倒した。
「侑子、ここにいろ。動くなよ」
そう言って、修はゆっくりと若子の前へ歩み寄る。
「修っ!」
侑子は追いかけようとしたが、修が振り返り、きっぱりと告げた。
「動くな。次に動いたら、お前のこと無視するぞ」
その声に、侑子はびくっと体を震わせた。
修の真剣な顔つきに、何も言い返せず、その場で立ち尽くす。
ただ、大きく潤んだ瞳で彼の背中を見つめることしかできなかった。
そして、修は再び若子へと向き直る。
「若子、今は―」
パシンッ!
その言葉が終わる前に、若子の平手が修の頬を打った。
「あなたが『文句あるなら俺に言え』って言ったんでしょ?だったら今、この怒りは......全部、教えてあげるわ!」
修は拳を握りしめ、ぐっと息を吸い込む。
それから、かすかに笑った。
「......ああ、それでいい。お前はそうやって、俺にぶつければいい。何発でも殴れ、殺したいなら殺せばいい。お前が笑えるなら、それで全部構わない」
「藤沢修!!」
若子はさらに手を振り上げ、容赦なく彼の頬をまた打った。
パシンッ、パシンッ、パシンッ―音を立てて、次々に。
修の頬は真っ赤に腫れ上がっていく。
「......これが、あなたの望んだ『俺に言え』の結果よ、分かった?」
「まだ足りねぇ、もっとだ、お前、俺に甘すぎるんだよ」
修は歯を食いしばりながら言い放つ。
「もっと強く殴れ......思いっきり来い」
その顔は真っ暗に曇っていた。怒りの炎が、瞳の奥で燃え上がっている。
握られた拳は白くなるほどに力が入り、震える手から