須恵ちゃんが学校の近くに小さな部屋を見つけてくれた。広くはないけれど、私と弟が住むには十分だった。
私たちが引っ越した後、母は毎日のように出前を頼むようになった。しかも、その食事はかなり高価だった。
彼女は伊勢エビやケーキを自分用に頼むだけでなく、父にも届けた。
でも、こういった刺激的な食事を続けていたせいで、父の胃腸が弱り、下痢を繰り返すようになった。
最初のうちは、母も父の世話をしていたが、回数が増えると面倒になり、無視するようになった。
悪臭が漂う部屋にいると吐き気がして、彼女は私を探すよう周りに頼み始めた。
須恵ちゃんが言った。
「お母さん、あなたたちに戻ってきてお父さんの世話をしてほしいって言ってるわ。戻らないなら、家から飛び降りて不孝者だって世間に知らしめるそうよ」
私は手羽先をかじりながら答えた。
「大丈夫。どうせそんなことできっこない」
彼女は私たちを窓から投げ出してまで父を脅した人間だ。自分が外に出るなんて、絶対にしないだろう。
そんな人間に、飛び降りる勇気なんてあるはずがない。
それでも、地域の福祉センターの担当者が私を訪ねてきて、家に帰るよう頼んできた。
その人は、哀れみと無力感の入り混じった表情をしていた。
「晴ちゃん、一度家に帰ってあげて。お母さんは気が狂いそうだし......お父さんは......自分の目で見てきて」