沙織が見ているのに気づくと、外国の老人は彼女に微笑んだ。
沙織は視線をそらし、首をかしげながら考えた。
このおじいさんはなんだか変だ。
誰かが知らない言語の国に行くとき、必ずその国の言葉を少しは準備するだろうし、挨拶として「こんにちは」などの簡単な言葉を使うのが普通だ。
でも、その外国のおじいさんはいきなり彼女に名前を尋ねて、しかも英語で話しかけてきた。こんな小さな子供が英語を理解できるとは思っていなかったのだろうか?
彼女が答えると、驚いた様子もなく、まるで彼女が英語を話せるのを知っていたかのようだった。
つまり、そのおじいさんは彼女を知っているような気がした。
でも、彼女はそのおじいさんを知らない。
さっきのおじいさんの目の輝きが気になり、沙織は心の中で不思議な予感が芽生えた。
ケンタッキーで食事を終えた後、由佳と清次は沙織と一緒にショッピングモールをもう少し歩いた。
夕食は星河湾ヴィラで食べた。
そこは二人が離婚する前と全く変わらず、何も変わっていなかった。
食事後、三人はまた近所を散歩した。
二周歩いた後、由佳は時間を見て、「遅くなったから、そろそろ帰らないと。最後の一周を歩いて帰ろうか」
「じゃあ、今晩泊まっていく?」清次は熱い視線を向けながら、試すように言った。
由佳は微笑みながら首を横に振った。
清次は唇を噛んで黙ったが、何も言わなかった。
別荘に帰ると、由佳は門の前で立っていた。
清次は沙織を中に案内し、車の鍵を取ってきて、助手席のドアを開け、由佳に「どうぞ」と言った。
由佳が車に乗ろうとした時、清次は彼女の手首を掴み、近づいて低い声で言った。「本当に帰るか?」
由佳は体を後ろに反らせ、背中が車のドアに当たる。心臓がドキドキと速く打っている。
彼の視線に居心地が悪く、無意識に視線を逸らし、頭を振って言った。「帰るわ」
「なんで?」
清次は再び顔を近づけ、大きな手で彼女の腰を引き寄せ、吐息が顔にかかる。由佳の顔に熟知した香りと男性的な気配が漂っていた。「イリヤは留置所にいるし、一輝も彼女が出てきたらすぐに彼女を離れさせるって約束したから、もう君や子供には害を及ぼさない」
二人の顔がほんの数センチの距離に近づく。