病院に戻る車の中で、イリヤは車窓の外の街並みを眺めながら、拳をぎゅっと握りしめた。頭の中では、自分がオフィスでどう振る舞ったかを何度も思い返した。
たぶん、ボロは出さなかったはずだ。
晴人は高村のことばかりひいきして、自分を警察に何日も閉じ込めた。なのに両親は自分の味方をするどころか、晴人と一緒に自分を追い出そうとしていた。
こんなにえこひいきな親がいるなんて......もう容赦しない!
病院に着いたとき、夕日の光が病室の大きな窓から差し込み、床に柔らかな光を落としていた。
扉を開けると、夏希が窓辺に立っていた。物音に気づいた彼女はすぐに振り返った。
その顔には明らかな不安の色が浮かび、目元は赤く腫れていた。「イリヤ、使用人から聞いたわ......会社に行ったの?」
今日が計画を実行する日だと夏希も知っていた。
つまり、イリヤが自分のそばから離れる日が近いということでもあった。
イリヤはうなずいた。「うん」
夏希はイリヤの表情を細かく観察した。目の周りが赤く、どう見ても泣いた後だった。「会社で何かあったの? 大丈夫だった?」
イリヤの心の中には冷たい笑みが浮かんでいた。この人も、あの計画のこと知ってたくせに、今さら母親のふり?
母親の優しさを信じかけた自分が馬鹿だった。
イリヤは自分の太ももを強くつねると、突然、涙を流し始めた。
夏希は慌ててイリヤの背中をさすりながら、子ども時代のように優しく慰めた。「イリヤ、どうしたの? 泣かないで。どこか痛いの? それとも、お父さんに叱られた?」
イリヤはただしくしくと泣き、言葉を発さなかった。
イリヤがもうすぐ自分のもとを離れてしまうと思うと、夏希の目にも涙がにじみ、喉の奥が熱くなった。
しばらくあやしていると、ようやくイリヤの気持ちも落ち着いてきた。
イリヤをベッドに寝かせた後、夏希は温かい水を入れたコップを手渡した。「イリヤ、教えて。何があったの?」
ウィルソンからはまだ連絡が来ていなかったが、夏希は待ちきれずに真相を知りたかった。
イリヤは水を手にしながら、簡単に出来事の流れを話した。
夏希は目を見開いた。
イリヤがノアを告発した?
その表情を見て、イリヤはまた涙を流しながら語り出した。「ほんとはね......私、ほんとにずっとお兄ちゃんが大嫌いだった。どこか遠くに行って、二