私は全てを手に、道路脇に立っていた。一瞬、途方に暮れ、どうすればいいのか分からなくなった。
しかし、30年以上も騙され続けてきたことを思い出すと、全身に力がみなぎってきた。
私はただの平凡な人間で、人混みに紛れて、これまでの人生を臆病で不自由なまま生きてきた。
今日こそ、もう我慢するのはやめよう。私を傷つけた人間には、当然の報いを受けさせよう。
タクシーに乗り込み、私は病院へ向かった。まずはこの体の中毒状態を確認してもらうためだ。
若い頃は働きすぎで、腰や関節が悪く、常に不快感を感じていたため、長年鎮痛剤を服用して痛みを抑えていた。
今日家を出る時にも、いつも通り薬を飲んでいた。
検査結果はすぐに出て、確かに中毒症状が出ていたが、幸いにも中毒は深くなく、早期発見できたため、医師は薬を処方してくれた。
解毒後、私はそのまま婦人科へ向かった。
子供の件は私の人生の執念であり、どうしても真実を知りたかった。
検査結果が出たが、報告書の内容がよく分からなかったので、診察室で医師に診てもらおうとした。
その時、思いがけず加藤拓也と鉢合わせた。
加藤拓也はスマホを手に持ち、機嫌が悪そうにしていた。私を見ると電話を切り、怒りながら近づいてきた。
「お前は病室で嫁の看病をしないで、ここで何をしているんだ?」
彼は婦人科の看板を見て、苛立ちと不機嫌そうな視線を向けた。
「こんなところに、お前みたいなババアが来る場所じゃないだろ?」
「さっさと行け!」
私は、加藤拓也が無礼に怒鳴りつけるのを見て、心の中で自嘲した。
以前の私は、本当に目が節穴だった。
今日まで、私の目には息子の加藤拓也はスーツを着こなし、若くて有能な姿に見えていた。
私は自分が育てたこの息子を誇りに思い、彼が懸命に働く姿を見て心から心配し、喜んで彼を助け、彼の負担を肩代わりしてきた。
老いた召使いのように自分を酷使し、彼の洗濯、料理、身の回りの世話をした。
しかし今、この親子が私を騙し、陰で私を陥れようとしていたことを考えると、これまでの私の努力は全て無駄だったと思えてならなかった。
「ここで何をしているかって?診察を受けに来たのよ!」
私は彼に言い返し、相手にする気もなく、検査報告書を持って診察室へ向かおうとした。
心の中では、あの手紙を見た瞬間から、この人たちと既に縁を切っていたのだ。
「お前みたいなババアが、どんな診察を受けるんだ?」
加藤拓也は私の反応が意外だったようで、不思議そうに私を見た。私が診察を受けると言ったことを、全く信じていないようだった。
「どうせ暇で病院に来てるんだろ。お前がどんな病気にかかるっていうんだ!」
彼はわめきながら、私の手から報告書を奪い取った。
報告書の内容を確認した途端、彼の顔色は絵の具をひっくり返したかのように、めまぐるしく変化した。
彼は平静を装おうと必死だったが、表情は奇妙に歪んでいた。
「この報告書、偽物じゃないのか?母さんは不妊症じゃ......」
彼は驚きすぎて、つい口を滑らせてしまった。
流産と不妊症のことは、私は加藤拓也の前で一度も話したことがなかった。
私はいつも彼を実の息子だと思っており、彼にもそう伝えていた。
こんな個人的なことは、加藤健太郎以外には誰にも話していなかった。
「誰から聞いたの?」
私は彼を鋭く睨みつけて問い詰めた。
加藤拓也は明らかに動揺し、視線を彷徨させながら、ぎこちなく説明した。
「忘れちゃったよ。確か昔、母さんが子供を産めないって話を聞いて、父さんに聞いたんだと思う。父さんが適当に言ったんじゃないかな」
彼の言い訳はあまりにも下手で、演技が下手すぎて、嘘をついていることは一目瞭然だった。
考えてみれば、この何年間、加藤拓也は全く嘘がつけず、演技もかなり下手だった。
ただ、私が彼を子供を見るようなフィルターを通して見ていたため、いつも無条件に彼を信じてしまい、人生の大半を騙され続けてきたのだ。
加藤拓也は下手くそに話題を変え、検査報告書を私の手に押し付けた。
「母さん、騒ぐにしても時間と場所をわきまえろ。でないと、俺がお前と縁を切るぞ」
険しい口調で、私を睨みつけて警告した。