男の問いかけに、美苑は甘えたように声を上げた。
「その話すると、また腹が立っちゃうの。爆発の音がしたとき、ひよりはまるで計ったかのように、私のお守りを奪い取ったのよ。まったく……死ぬ間際まで、ほんとケチなんだから」
その一言を聞いた瞬間、颯真の胸に冷たいものが走った。
もし命を引き換えられるのなら――
死ぬべきだったのは、美苑の方だったのかもしれない。
そんな考えが一瞬でも浮かんだ自分に、愕然とする。
視線を戻し、目の前の女をじっと見つめた。
ひよりは、決して命を軽んじるような子じゃなかった。
誰かが少しでも親切にしてくれれば、きっと一生忘れなかった。
ましてや、こんな自分本位な言葉を口にするような人間では、決してない。
颯真は、美苑が腰に巻きつけていた脚を乱暴にほどいた。
そのまま、ひよりが使っていた部屋へ向かう。
室内は、まだ修復されておらず、黒く焼け焦げたままだった。
焼け残った箱の中、仏経だけが水に濡れて、かろうじて原型を保っていた。
ページの端に、整った小さな文字で書かれた言葉がある。
「颯真、あなたの代わりにお母さんの冥福を祈って写経したよ。だからもう、自分を責めないで――残りの人生、どうか前を向いて」
――かつて、ひよりはいつも彼のそばで、よくしゃべる子だった。
七年前の火事をきっかけに、颯真は仏の道を信じるようになった。
その後も彼女は一度も責めたりせず、黙ってそばにいて、
ひたすらに彼の代わりに祈りを捧げ続けてくれた。
自分は、朝霧家の中でもっとも疎まれてきた私生児だった。
幼いころはいつも、郊外の古びた屋敷にひとり閉じ込められていた。
その扉越しに、いつも世話をしてくれたのは――隣家の樅山の母だった。
そして鉄門の向こうから、遊びに来てくれていたのが――ひよりだった。
あの火事のあと、朝霧家は「颯真は災いを退ける強運の持ち主」と言い出し、罪滅ぼしのように彼を本家に引き取って育てることにした。
それ以来、彼はひよりを見るたびに、取り返しのつかない罪を背負っているような感覚に苛まれてきた。
だからこそ、家が決めた政略結婚を素直に受け入れ、すべての「愛」を美苑に向けようとした。
――けれど、どうしても心を制御できなかった。
本心では、ひよりに