「何か見たのか?」
婦人がぽつりと尋ねた。
その瞬間、男がすかさず妻を叱りつけた。
「余計なことを言うな!ここはただのブドウ園だ。こいつに見えるのは、一面に広がる熟れたブドウだけだろう!」
しかし、圭介は女の言葉の核心を聞き逃さなかった。
何か見た?
これは明らかに、ここには見られてはならないものがあると言っているに違いない。
おそらく、このブドウ園はただのカモフラージュだ。
だが、この夫婦は悪人には思えない。
本当に悪人なら、とっくに命はなかっただろう。
それが逆に、彼らが完全な悪人ではないという証明でもある。
「助けてくれた恩は忘れない。もし何か手伝えることがあれば、喜んで力になろう」
婦人はもう軽はずみに口を開くことはせず、ただ慎重に夫の袖を引いた。
それは「この人を信じてみない?」という無言の提案だった。
だが男は妻のように簡単には人を信じなかった。
慎重な性格なのだ。
彼は妻を一瞥し、軽々しく人を信じるなと警告した。
「ついてこい」
彼は籠を手にし、圭介に言った。
男は圭介が逃げることを恐れていなかった。
理由は二つある。
一つには、ここが人里離れていて脱出が難しい。
二つには、彼が目が見えないからだ。
普通の人間でも道を見失うこの場所で、ましてや盲目の男に逃げられるはずがない!
「最近のニュースを見てみるといい」
圭介は言った。
その言葉に、男は足を止めて振り返ったが、結局何も言わず、そのまま大股で歩き去った。
婦人も男の後に続いて出て行った。
昼には食事を作りに戻ってくるだろう。
圭介は彼らが悪人ではないと確信し、婦人が持ってきた食事を口にした。
婦人はいつものように夫の昼食を持って、ブドウ畑に向かった。
男が葡萄の木の下に座り、熟した赤い葡萄を口に放り込みながら、携帯を見ている姿が見えた。
彼らの携帯は普段、あの連中と連絡を取るためのものだ。
男が電話に出る度に、婦人はいつも胸を締め付けられる思いがした。
彼女は少し離れたところに立ち止まった。
男は彼女に気づくと、手招きした。
婦人は近づいていった。
立ったまま、食事を置くことさえできなかった。
悪い知らせを聞くのが怖かったのだ。
男は婦人の手を取って自分のそばに座らせ、携帯を見せた。
圭介のあの一言が、彼の胸に残ってい