その時、男はもう圭介が自分を助けられるかどうかなど、考えている余裕はなかった。
彼はすべてを語った。
「息子があいつらに人質に取られてるんだ。俺たちは仕方なく、やつらの命令に従ってたんだ。だが……すぐに遺体が見つかるだろう。俺は妻を助けに戻らなきゃならない。君は家族に連絡して、助けに来てもらえ」
そう言って男は、以前圭介がかけていた番号を探し出し、代わりに発信までしてくれた。
目が見えない圭介には、正確に番号を押すのが難しいと考えたのだ。
「……気をつけろ」
そう一言だけ残し、男は銃を手にその場を去った。
男が去った直後、電話の向こうから香織の焦った声が飛び込んできた。
「圭介!」
圭介は耳に受話器をあて、冷静な声で答えた。
「まず落ち着いて聞いてくれ。越人に、この携帯の位置を特定させて、こっちへ向かわせてくれ。ただし絶対に一人では来るな。こっちは危険かもしれない。しっかり準備をして――心配するな、俺は無事だ」
最後の一言は、香織を安心させるためのものだった。
彼女が取り乱すのを避けるために。
……
香織は隣にいた誠の腕をつかみ、圭介の言葉を伝えながら急かした。
「急いで!」
誠はすぐに車内の追跡装置を起動した。
圭介を探すため、彼らはトラッカーを搭載していた。
香織は携帯を強く握りしめ、その手は震えていた。
「大丈夫……なの?」
「……ああ」
低く抑えた声が返ってきた。
香織は電話越しに風の音を聞き取った。
「……外にいるの?」
「そうだ」
誠は眉をひそめていた。
圭介の側の信号があまりにも弱く、データの読み込みに時間がかかっていた。
香織はパソコン画面を睨みながら話し続けた。
「誠が今位置を特定しているわ」
圭介は目が見えないため、携帯のバッテリー残量がわからなかった。
この山奥では、もし携帯が電池切れになったら、誰にも見つけてもらえない。
「わかった」
彼は静かに答えた。
運転席にいる憲一が声をかけてきた。
「まだか?」
「もうすぐです」
誠は答えた。
今ちょうど次の目的地に入ろうとしているところだった。
まだ正確な位置は割り出せていないから、憲一は車を停めるべきか、それとも走り続けるべきか迷っていたのだ。
突然、圭介の携帯からバッテリー警告音が鳴った。
だが、こっちの画面にはまだ