-62 寡黙なドライバーの過去-
レースは50周目に差し掛かろうとしていた、依然トップは⑨番車で車を操る寡黙なドライバーはまだまだペースを上げて最速ラップタイムを更新していった。数年もの間、続いて来たレースだがここまでの記録が出たのは初めてだと言う。
⑨監督「おいおい、疲れて来てないか?そろそろピットに入って交代していいんだぞ。」
⑨ドライバー「まだ・・・、行ける・・・。と言うか、行きたい・・・。」
⑨監督「そうか・・・、お前が良いなら良いが、無理だけはするなよ?」
⑨ドライバー「ああ・・・、感謝する・・・。」
カバーサ「未だに記録が更新されていきますが、それに連れドライバーさんもがどんどん寡黙になっていきます。」
コースのコツを掴んだのか、彼にとったら現在このレースはただのドライブ感覚となっていた。彼はフルフェイスの顔部分を上げ、傍らに置いていた煙草を燻らせ始めた。
⑨監督「お前、このチームに来て今年で3年目だったはずだが大分貫禄が出て来たな。まさかレース中に煙草を吸う程の余裕まであるとは。」
⑨ドライバー「ふぅー・・・(煙草)、駄目か?」
⑨監督「駄目とは・・・、言わないけどさ。タイヤは平気か?」
ドライバーはタコメーター横のパラメーターにチラリと目をやった。
⑨ドライバー「まだ・・・、走れる・・・。すまんが、一人にしてくれ。」
⑨監督「ああ・・・、いつでも交代するから言えよ?」
⑨ドライバー「分かった・・・。」
ドライバーは短くなった煙草を灰皿に捨てると新たにもう1本煙草を燻らせ始め、1人思い出に更け始めた。カバーサが実況席を通し彼の回想を音声に変えて観客全員に行き渡らせ始めた、ドライバーは気付いてないらしい・・・。
⑨ドライバー(回想)「そうか・・・、俺もこのチームに入ってもう3年目か。あの頃の俺はこうやって走っているだなんて想像も付かなかっただろうな。確か異動は急な話だったはず、前は営業3課にいたはずだな・・・。ホント・・・、課長がうるさかったな。一応・・・、このチームがあるから会社に入ったんだが・・・。」
課長(回想)「キュルア(⑨ドライバー)!お前は相変わらず役に立たん奴だな!お前だけだぞ、この3課でノルマを達成出来ていないのはよ!何もしない癖に椅子にドカッと座って飯だけはいっちょ前に食いやがってよ、次の異動とボーナスを楽しみにしているんだな