LOGIN「繋がっていない様で繋がっている」をテーマに夜勤で肉を切っている間に妄想したままを書いています、宜しければどうぞ。 風光明媚な小さな町(1)を舞台に始まる俺の妄想をコメディっぽく描いてみようと思います、 巨大財閥が買い取った高校(2)における主人公たちの奮闘模様や、 「らしくない異世界(3·4·7)」で繰り広げられるドタバタ劇、 そして現実世界(5·6)を舞台にしている過去の恋愛等を自分なり(マイペース)に更新していく予定ですのでお気軽にクスクスと笑いながらお楽しみ頂ければと思います。 こちらの作品は「エブリスタ」にも掲載しています https://estar.jp/novels/26278127
View More独身、童貞、実家暮らし、そして包茎。男としてのダメ要素が4つも揃ってしまっている俺。
元いじめられっ子の会社員として昼夜逆転生活をしているが故に生まれてしまった「退屈」という感情をなんとかしようと始めたのが「妄想」だ。これなら誰にも邪魔されず、文句も言われることも無い。そして、迷惑を掛ける事も無い。正直言って何よりも自由な世界だと思った。
そんな俺の妄想は、湖とくねくねとした峠道のある山の近くの風光明媚な街を舞台に始まる。
さて、そろそろ俺が自由に思い浮かべた妄想の世界に皆さんを誘おう。
夜勤族の妄想物語 1.「私の秘密-赤鬼-」
佐行 院
仕事に追われ1日1日が過ぎてゆき、一般では「花金」と呼ばれる週末。明日からの土日という楽しい2日間をどう過ごそうか、それとも今夜どう楽しもうかを沢山の人たちが考えているこの時間帯、開いている店と言えば飲み屋やコンビニ、そして最近増えてきた24時間営業のスーパーぐらい。他には夜勤で働く人たちがいる工場などがちらほらとあり建物から明かりが漏れている場所がほとんどなく電灯の明かりが優しく照らされる夜の街で独身の冴えない眼鏡女子の会社員、赤江 渚(あかえ なぎさ)は家路を急いでいた。
毎日朝の9時から出社しての8時間勤務、1時間休憩を含め18時が定時での退勤なのだがそういう訳にも行かない、金曜日は特になのだが帰り際に上司の取口(とりぐち)部長から必ずと言って良いほど呼び止められて書類を押し付けられ毎日の様に残業が加算されすぎており毎月60時間以上の計算となりため息の日々。正直三六協定はどこへやら・・・。 ある週の金曜日、毎度の様に帰り際の渚を取口が呼び止めた。取口「渚ちゃーん、今週も頼むよ、うちのチーム書類が立て込んでいるから進めておかないとね。」
渚「はーい・・・。」正直言ってしまうと原因は取口による書類の記入ミスや漏れによるものなのだが、本人は早々と定時に上がり気の合う仲間と逃げる様に近くの繁華街へ呑みに行ってしまう。今週に至っては残業はタイムカードを切ってから行うようにとも言いだした。何て卑怯な奴なんだと、やはりブラック企業の従業員の扱いは酷いなと身をもって学んだ今日この頃。
そんな中、最近巷で噂になっている事があった。特に地元の暴走族や走り屋を中心になのだが『赤いエボⅢに見つかると警察に捕まる』との事だ。通称『赤鬼』。毎週金曜日の夜に県内の暴走族や走り屋のスポットとなっている山に4WD車1台で行っては暴走行為、走り屋行為をしている奴らを一掃しているらしい。正体は未だ不明で年齢や性別など諸々全てが分かっていない。一部の人間には『赤鬼は警察の人間だ』とも言われている。 会社でもその噂で持ちきりだった。丁度よく今日は金曜日。取口「皆聞いたか、先週の金曜日にまた『赤鬼』が出たらしいぞ。今夜も出るかもな。」
女性「怖い、今夜は私も早く家に帰ろう。」 渚「何言ってんの、今日も残業でしょ・・・。」 女性「噂なんだけどさ、『赤鬼』って本当はとっても綺麗な女子なんだって。あんたとはかけ離れているね。」 渚「何馬鹿なこと言ってんの、早く仕事終わらせようよ、帰ってドラマ見たいもん。」その頃警察署長の宇治(うじ)に連絡が入った。M山に暴走族と走り屋の集団が今夜集まろうとしているらしい。走り屋の集団には住民に迷惑を掛ける人間達のチームと掛けない人間達のチームに分かれていて今夜集まるのは迷惑を掛けない方のチームらしい。このチームのリーダーはかなり真面目で休日はボランティア活動に勤しみ警察にも協力的だ。
しかし問題は暴走族の方だ、近所での暴走行為、騒音によるトラブル、暴力沙汰と迷惑のオンパレードだ。対策を練る必要があると思い宇治は走り屋チームのリーダーである阿久津(あくつ)に連絡を入れ救済を求めた。阿久津「そうですか、僕たちに出来る事なら何でも仰ってください。」
宇治「助かりますよ、あなたがいてくれてよかった。さてと・・・。」 阿久津「どうしたんですか?」 宇治「いや、何でもないです。では、ご協力をお願いします。」押し付けられた書類を21時頃に済ませ渚は自宅に着いてすぐに衣服を着替えメイクを直し愛車に乗り込み隣町の山へと向かう。自分には似合わないなと思いながら学生の頃から憧れていたこの車に今自分が乗っていると思うとぞくぞくする。エンジンを付けようとした時に電話が鳴った。
渚「・・・分かりました。お任せください。」
愛車は赤いエボⅢ、そう、実は渚が通称『赤鬼』なのだ。先程の電話は宇治からの物で協力を求めてきた。阿久津のチームと協力して暴走族を止めておいて欲しい、山の反対側の出口でパトカーを集めて防衛線を張っておくからとの事だった。
山頂で阿久津のチームを見つけ車を止めると阿久津が近づいて来た。出来るだけ顔を見られたくないので窓を少しだけ開けて目だけを出した。度入りのカラコンを使用しているのでよくある事なのだが・・・。阿久津「初めまして、地元で走り屋のチームをしてます阿久津と言います・・・、外人さん?!英語喋れるかな・・・。Nice to mee…」
渚「日本語で大丈夫、初めまして、『ナギ』と呼んでください。」『ナギ』って・・・、自分でもセンスのないネーミングだと思いながらため息をついた。普段とは違いクールなキャラを保っていた。
阿久津「今夜の作戦は聞いてますか?」
渚「山の向こう側の出入口にパトカーで防衛線を張ってるから私たちで暴走族を追い込む・・・、ですよね?」 阿久津「その通り、そして後ろからも数台警察の人たちが俺たちに紛れて追いかけて来るから挟み撃ちにしていく作戦だ。宇治署長に言って一応障害物として廃車になっている車を数台置かせて貰っているからうまく避けて欲しい。」 渚「私たち避けれるかしら。」 阿久津「ナギさんはそこまで下手じゃないでしょ。」 渚「それはお互い様でしょ。」 阿久津「ははは、この無線機を付けておいて欲しい、話せると助かる。それと暴走族が来るまでは目立たないように車にこの黒いカバーをしておいて。」渚は言われた通りにカバーをして車の陰で息をひそめていた。しばらくしてけたたましい排気音(エキゾースト)を轟かせ暴走族のバイク集団が現れた。車線なんてお構いなしだと言わんばかりに横一線に広がっている。彼らは阿久津や渚の車に気付くことなく向こう側の出入口に向かって山道を降りていった。
走り屋たちはカバーを取り静かに車を走らせた、排気音を少しでも出すと作戦がバレてしまう。 数か所のコーナーというコーナーをドリフトでクリアしていく。ガードレールに取り付けられたライトで道路が明るく照らされていたため本当はいけないのだがヘッドライトを切ってでも走れる状態だったので暴走族のバイクには簡単に近づけた。暴走族「んだぁ、こいつらぁ!!」
暴走族「ざけんじゃねぇ、撒くぞごるぁ!!」暴走族がスピードを上げる。山の中腹に差し掛かる。無線機から阿久津の声がした。
阿久津「ナギ、そろそろ障害物の廃車が見えてくるから上手く避けてくれ。」
渚「了解・・・。」そこから数キロ走ったところにある廃車に数台のバイクが引っかかっていた。後ろから追いかけてきた警官が暴走族を逮捕していき、バイクをトラックの荷台に乗せていく。
そして最終コーナーを回り阿久津と渚の前にはバイクが2台・・・、多分総長クラスだろう。出入口に差し掛かりパトカーや交通機動隊の白バイで張られた防衛線で2台を止めようとしたので暴走族は引き返して逃げようとした。そこを阿久津と渚が息をピッタリと合わせ車を横に向け通せんぼうをする、諦めてバイクを乗り捨てた暴走族は横から逃げようとしたが駐車場付近の茂みに落ちて警察の用意した深めのマットに落ち込んで逮捕された。暴走族「こん畜生!!!」
暴走族「覚えてろ!!!」パトカーに押し込まれる暴走族を横目に宇治が渚と阿久津に近づいてお礼を言おうとしたが車は2台とも消えていた。電話を掛けたが2人共繋がらなかった上に走り屋たちの無線機にも反応がない。
宇治「まぁ、いいか。」
新人警官「よろしいのですか?」 宇治「ああ、君もいずれは分かるだろうさ。撤収だ、帰って呑むぞ!!!」月曜の朝まで2人を見た者はいなかったという・・・。
月夜が照らす海を背景にただスキール音が響き渡っていた・・・。-⑩ 真実を知る- 卒業式の後、友人に呼び出された真帆は守の制服から第2ボタンを引きちぎり大事に持ちながら友人の元へと向かった。本当は守が行く予定の高校を聞いた後、告白するつもりだったのだがどうやら次の機会になりそうだった。 守も地元の公立ではなく私立の「西野町高校」に通う事をこの日に伝えるつもりだった、なので校門前か先日の駄菓子屋でずっと待つつもりだった そんな中、校庭中に爆音が響き渡った。そこにいた全員が音の方向を見ると紫色のスポーツカーが土煙を上げて走っていた。 皆と同様に爆音に驚いた真帆は汗をかきながら音の方向を見た。真帆(当時)「何あれ・・・。」友人(真帆)「あれ、「紫武者(パープルナイト)」じゃない。ほら、「赤鬼」と一緒でここら辺で有名な走り屋。」真帆(当時)「あれがそうなの?初めて見た。」 そう、真帆は「紫武者」を見た事が無かったのだ。幼少の頃、真希子が愛車にカバーを被せていたのがその理由だった。 皆が紫のスポーツカーに憧れの視線を向ける中でただ1人、守は嫌な予感がしていた。守(当時)「ま・・・、まさかな・・・。」 そのまさかだった。母の真希子が愛車で卒業式に来ていたのだ、しかもド派手な着物で。真希子の車は校門前に立つ守の目の前に止まった。真希子(当時)「守、早く乗って。そこら辺の奴らがじろじろ見るもんだから急いで帰るよ。」守(当時)「母ちゃん・・・。これで来るからだろ、流石に目立つって思わなかったのか?」真希子(当時)「仕方ないじゃないか、いつものバンが修理中なんだから。ほら早く乗って、またじろじろ見られているから。」守(当時)「真帆ちゃんを待っているんだよ、まだ県立じゃなくて西野町高校に行く事を言ってなかったからさ。」真希子(当時)「そんなの後で言えば良いだろ、それより買い物に行くから手伝っておくれ。」守(当時)「おいおい・・・、まさかこれで行くのか?流石に1回帰ろうぜ、それに母ちゃん着物だろ?!」真希子(当時)「今はこれ以外足が無いんだから、ほら行くよ。」守(当時)「ったく・・・。」 守は仕方なく車に乗り込んだ、これがきっかけで「紫武者」が守の母親だとバレてしまった様だ。 守が車に乗ってから数分後、息を切らしながら真帆が戻って来た。しかし辺りを見廻しても守の姿は無い、その真帆に守の友人が声を掛けた。友
-⑨ 離れた理由- ラムネと駄菓子を存分に楽しんだ高校生たちは各々の家路についた、1つ先の通りにある交差点で二手に分かれて帰って行った。 まだ昼の2時だったのでゆっくりと景色を楽しみながら守は家までの道を歩いた、無意識に笑顔がこぼれて自然に鼻歌や口笛が出ていた。 守が家に到着し、玄関の鍵を開けて引き戸を開けると奥からテレビの音が漏れていた。守(当時)「あれ?母ちゃん、今日休みなのかな・・・。」 普段、母の真希子はパートの仕事に出ているはずの時間帯なので音がはずは無かったのだが今日は違うみたいだ。 廊下を歩くと、リビングの入り口から真希子がテレビを見ているのが見えたので守は一先ず一言声を掛けた。守(当時)「母ちゃん、ただいま。」真希子(当時)「ああ、守。お帰り、あれ?あんた今日お昼までじゃ無かったのかい?思ったより遅かったじゃないか。」守(当時)「ああ、ごめん。久々に真帆ちゃんに会ってね、一緒に駄菓子屋に行ってたんだ。」真希子(当時)「真帆ちゃんって、あの圭ちゃんの親戚の子かい?子供の時からずっと髪型が変わらない子だね。」守(当時)「母ちゃん覚えてたのか、すごいな。」真希子(当時)「あんた、まさかあんな可愛い女の子の事を忘れてたとか言わないよね。」 何故か言葉に圧がある真希子、守は少したじろぎながら答えた。守(当時)「ちゃ・・・、ちゃんと覚えてたさ。」真希子(当時)「本当かい?まぁ、いいか。それにしても寄り道して駄菓子屋だなんて、今の学校は随分寛大なんだねぇ、まっすぐ帰れって言われなかったのかい?」 何故かやたらと詮索してくる母、守はこれはただ事じゃないと察知してリビングに入りソファに座った。守(当時)「全然、それに母ちゃんも昔寄り道とかしたろ?」真希子(当時)「そりゃあね、母ちゃんも昔はよく渚と寄り道して商店街にある肉屋のコロッケを買ったもんさ。それはそうとあんた、ちょっと話があるんだ。取り敢えず着替えてからまたここに来てもらえるかい?」守(当時)「嗚呼・・・。」 守はそら来たと思いながら自室に戻り、制服から部屋着に着替えた。話が終わり次第やろうと思っているので、鞄から数学の問題集を取り出しておいた。 守がリビングに戻ると真希子は先程と同じ体制で座っていた、息子に緊張感を持たせない為なのだろうか。守(当時)「母ちゃん、来
-⑧ 懐かしい顔に- 突然だが話は守達が中学生だった頃に遡る、当時地元の中学校に通う守達が3年で高校受験を控える中、同じ中学校に真帆が入学して来た。その頃も、そして今も変わらず幼少の頃のショートボブを貫いていた。 幼少の頃から見慣れていたショートボブを見かけた守と真帆はほぼほぼ同時に互いの存在を認識したのだという、実は真帆が密かに守に対して想いを寄せていたので守に自分だとすぐに気づいて貰える様にする為ずっと同じ髪型をしてきたそうだ。 桜の花が舞い散る中学校の体育館で、丁度真帆達1年生の入学式が終わった時だった。式を終えて友人と共に教室に戻ろうとする守に、大声で真帆が話しかけた。真帆(当時)「守兄ちゃん!!」守(当時)「ん?」 聞き覚えのある言葉をかけては来たがすっかり成長した真帆の声に守は一瞬違和感を感じていた、しかし制服を着た見覚えのあるショートボブの女の子が守に向かって手を振りながら近づいて来る所を見て幼少の頃よく遊んだ真帆だと分かったらしい。真帆(当時)「ここの中学校に通ってたんだね。」守(当時)「もしかしてあの真帆ちゃんか?!」真帆(当時)「そうだよ、いつも遊んでた真帆だよ!!一緒に缶蹴りした真帆だよ!!ねぇ、今日一緒に帰らない?」守(当時)「俺は良いけど、真帆ちゃん家は逆方向だろ。」真帆(当時)「ちょっと寄りたいところがあるの。」 守を見つけてキラキラと目を輝かせている真帆の表情は本当に嬉しそうだった、少し不安に思っていたこれからの中学生活が守の存在を知ったお陰で見違える様だった。 ただ、守は別の方向から鋭い視線を感じていた。そう、笑顔の可愛い女の子と話す守を見た友人達が嫉妬していたのだ。友人①「おい守、あの子もしかしてお前の彼女か?」守(当時)「そんな訳ねぇだろ、俺モテた事ねぇもん。」友人②「そう言う割には見せつけてくれるじゃねぇか。」守(当時)「馬鹿言ってんじゃねぇよ、教室戻るぞ。」友人①「顔赤くしやがって、こいつめ。」友人②「やっぱり顔が良い奴は違うね。」守(当時)「アホか!!」 守達が教室に戻ってから暫くして、担任が教室に入りホームルームが始まった。担任「今から進路希望調査の用紙を配ります、希望する高校名を記入して下さい。まだ決まっていない場合は上の方にチェックを入れて空欄にしておいて下さい。」 守
-⑦ 懐かしい仲間- 守の言葉を聞いた圭は、学生の頃の自らの気持ちに正直になったが故の行動を反省したのか少し抵抗しながらも守の肩にそっと手を置いた。 圭の手の温かさが無くなった恋人のものに似ていたのか、守の目にはずっと我慢していた熱いものが浮かんでいた。守「くっ・・・。」圭「だ・・・、大丈夫?」 足の力が一気に抜けた守は地べたに座り込んでしまった、小刻みに体が震えている。心の片隅にずっとしまい込んでいた好美への「大好き」と言う気持ちがまた再び溢れ出し始めたのだ。守「悪い・・・、まともに歩けそうにないから少し肩を貸してくれるか?」圭「勿論良いよ、私で良かったら何でも協力するから。」 声を殺しながら涙を流していた守は圭の力を借りて静かに家へと入って行った、廊下をとぼとぼと歩いて奥のリビングに入ってすぐの場所にあるソファに腰を下ろした。 1人では何も出来そうになかった守は隣にいる圭の存在が本当に嬉しかったのか、思わず圭を強く抱きしめて涙ながらに訴えた。守「圭・・・、俺どうすりゃいいんだよ!!全然分かんねえ・・・、俺は好美の為に何が出来るんだよ!!」圭「あの工場長に復讐するって誓ったんでしょ、それに守は1人じゃない。結愛や光明が味方になってくれているんでしょ、安心して。それに私もいるから。」 守は話が全く見えなかった、どうして喫茶店での事を圭が知っているのだろうか。守「お前・・・、あの場所にいなかっただろ?どうして?」圭「真帆が言ってたのよ、森田真帆。ほら、昔そこの空き地で私の2歳下の親戚と遊んだ事あったでしょ。」 ずっと前の小学生時代の夏休みの事だ、当時まだあどけなかった守が朝から正や光明達と近くの空き地で鬼ごっこや缶蹴りをして遊んでいた時に圭が一回り小さいショートボブの女の子の手を引いてやって来た事があった。圭(当時)「入ーれーて。」 守達は缶蹴りの缶を元の位置に戻して圭の元へと向かった。守(当時)「良いよ、でもその子誰?」正(当時)「初めて見る子だね。」圭(当時)「隣町に住んでいる真帆ちゃん、私の親戚なの。この子も一緒に遊んでいい?」 勿論と言わんばかりに守達は真帆を歓迎した、どんな遊びでも大人数でやった方が楽しいからだ。決して仲間外れにする事はなかった。真希子(当時)「もうお家の人が心配するから皆帰りなさいね。」 守達
-⑥ あの時の言葉- 二手に分かれた4人はそれぞれ反対の方向へと向かって行った、光明の作った隠しカメラと悟に知られない為の作戦を完璧に遂行するべく、この行動は必須とも言えた。 親会社「貝塚財閥」の副社長である光明からすれば「貝塚技巧」の工場内の全貌は頭に入っていたので今更見学は必要無かったのだが、少しでも友に協力する為に守と悟が完全に見えなくなるまで演技を続けていった。悟「こちらから作業場に入って行きます。」 悟自ら作業場への引き戸を開けて守を中に案内した、全体的に吹き抜けになっている工場では数人の男女が作業をしていた。 因みに聡の協力の上、光明が守の衣服に仕掛けた小型のマイクを通して2人の会話や周囲の音声が光明と聡に聞こえる様になっていた。これは居場所が被らない様にする為の行動で、怪しまれない様に守には決してマイクを通して声を掛けない様に伝えてあった。 下から細い通路だけに見え、全体的にむき出しになっていた2階部分には流石の悟も反省したのか、防災用のネットが張られていた。守「ここで好美が・・・、こいつが好美を・・・。」 そう思った守は一瞬拳を強く握ったが、学生時代のあるエピソードと龍太郎の言葉が守を引き止めた。 当時、悪学生として有名だった成樹に殴られた守がその後龍太郎から受け取ったビールを煽ると、中華居酒屋の店主は煙草に火をつけて燻らせ始めた。座敷で楽しそうに呑んでいた好美達と違って俯く守の表情は決して明るい物では無かった、龍太郎は煙草の煙を深く吸い込み一気に吐き出した。龍太郎(回想)「守、1つ聞かせてくれるか?」守(回想)「うん・・・。」 俯きながら守は小さく頷いた。龍太郎(回想)「お前、本当は悔しかったんじゃないのか?成樹を殴る事で好美ちゃんを守ろうとしたけど出来なかったから悔しかったんじゃないのか?」守(回想)「くっ・・・。」 声を必死に殺す守に龍太郎は続けた。龍太郎(回想)「でもな、俺はお前の事を誇りに思っているんだ。どうしてか分かるか?」守(回想)「いや・・・。」 守が俯いたまま首を小さく横に振った時、龍太郎の放った言葉が重くのしかかった。龍太郎(回想)「あのな、お前からすればうちの母ちゃんが止めたからだとは思うが「殴らなかった」からだ。行動するには勇気がいるが、やめるにはもっと勇気がいる。ただお前があの時成樹を
-⑤ 作戦開始- 結愛が作戦開始に向けた発言をした中、守は未だに1人表情を曇らせていた。まるで心に大きな穴が開いた様な様子、葬儀から数日経過したがきっとまだ好美を失ったショックを忘れる事が出来ていないのだろう。ただ結愛達は当然の事かと黙認していた。島木「まだ辛く感じるのは当然ですよね、私で良かったらご協力をさせてください。」 そんな中、話し合いの場として使われていた喫茶店のアルバイトとして働く女の子が近づいて来た。女の子「失礼します、これ良かったら・・・。」 女の子は守の前にクリームたっぷりの特製カスタードプリンを1皿置いた。守「あの・・・、頼んでませんけど。」 守の言葉を聞いた聡が即座に口を挟んだ。聡「おいおい、お前勝手に何やってんだよ。」女の子「放っとけなくて、お代は私が出しますから。甘い物食べたら少しは元気出るかなと思いまして。」守「えっと・・・、折角なので頂きます・・・。」 守は出されたプリンを1口、そしてゆっくりと咀嚼した。守「うっ・・・、くっ・・・。」 守はまた大粒の涙を流した。島木「守さん、どうしたんですか?」守「すみません、好美がお菓子作りが得意だったことを思い出しまして。特にプリンは本当に美味しかったんです。」 プリンを持って来た女の子は少し罪悪感を感じていた、自らが持って来たプリンにより目の前の客を号泣させてしまったからだ。しかし次の瞬間、守が発した言葉にホッとした。守「ありがとう、嬉しかったよ。でもいいの?お金、払うよ?」女の子「良いんです、奢らせて下さい。私が望んでした事なので、それより大丈夫ですか?」守「うん、なんとか落ち着いたよ。またお店来るね。」 守はそう答えると作戦開始に向けて動き出した、結愛の指示を受けた黒服長の羽田から紙袋を受け取ると首を傾げて尋ねた。守「おい結愛、これ何だよ。」結愛「お前には光明と一緒に貝塚技巧に潜入してもらう、お前が工場長の目を逸らしている間に光明が隠しカメラを仕掛けるって作戦だ。昔やっただろ。」守「そんな事もあったかな・・・、いや無かった様な気もするけど。正直言って昔過ぎて覚えてねぇよ。いやでも待て・・・、確かあん時は深夜に仕掛けた隠しカメラと小型のドローンを使って無かったか?」結愛「まぁ・・・、俺も記憶がうやむやだから仕方ねぇか。」桃「あんた達、どういう過
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