Chapter: 5. 「あの日の僕ら」㊵-㊵ お盆特別編⑦・旅立ちと土産- 中華料理の店など、駅地下での呑みを存分に楽しんだ翌日の事だった。好美達が日常を過ごす街へと帰る日となった、桃は荷物が香川の実家にあった為に先に好美の実家を出発していた。 そろそろ出発しようかとしていた昼前、操が2人に渡すものがあると呼び止めた。操「これ、好きじゃっただろ、帰り道で食い。ビールも入れとるから。」好美「父ちゃん・・・。」瑠璃「行ってまうんじゃな・・・、寂しくなるわ、好美。」 瑠璃は目に涙を浮かべながら別れの言葉を言った。好美「母ちゃん・・・。」操「また帰って来るんじぇ、いつまでも待っとるけん。」 家からすぐの最寄り駅に汽車が入って来た、2人は駅のホームへと向かった。美麗「楽しかったです、また来ていいですか?」瑠璃「勿論じゃ、今度は彼氏さんと一緒に来ぃ。」操「お前もじぇ、好美。」好美・美麗「行って来ます!!」瑠璃・操「行ってらっしゃい。」 「さよなら」を言ってしまうと悲しくなってくる気がした夫婦は旅立つ2人の家でいつまでも待つという意味で「行ってらっしゃい」を、そしてまた新たな未来への旅立ちの意味で女子大生達は「行って来ます」を告げた。これは決してお別れでは無いという意味を込めて・・・。 瑠璃は別れ際、2人にスーパーの小さな袋を渡していた。中には筒に入った海苔が入っていた、これも好美の大好物だった。好美「大野海苔・・・。」美麗「ただの・・・、海苔?」好美「違うんだな、これは徳島県民の大好物の1つで独特の食感にハマっちゃう1品なの。」美麗「へぇ・・・、帰って食べてみよう。」好美「勿論御飯にも合うけどそのまま食べるのがおすすめだから是非。」美麗「それでビールと一緒のこっちは?」 美麗は操に渡された袋を取り出した、中には冷えたビールと一緒に微かにカレーの香りのする薄っぺらな揚げ物が入っていた。好美「フィッシュかつ!!しかも揚げたてじゃん、急いで食べなきゃ!!」 好美の事をよくわかっている夫妻、流石としか言えない。 2人はビールを取り出し、フィッシュかつを1口齧った。美麗「合うね、美味しいね!!」 酒と名物を楽しむ2人を乗せた汽車は徳島駅の3番乗り場に入った、2人はそこからまた特急列車と高速バスを乗り継いで街に戻って来た。最寄りの駅に・・・、守と金上がいた。 守・金上
Last Updated: 2025-09-17
Chapter: 5. 「あの日の僕ら」㊴-㊴ お盆特別編⑥・駅は呑む場所- かずら橋を渡り終えた5人は車へと乗りこみ勝ち取った食事の場所へと向かった、ゆっくりと車に揺られ着いた場所は広めの駐車場だった。操「こっから歩いていくじぇ。」 駐車場の先の下り坂を下った先で行列が出来ていた、狸の置物が人々を迎えていた。 操が受付らしい場所で5人前の料金を払うと、順番を待った後に席に案内された。好美「懐かしいね、いつ振りだろう。」操「昔過ぎて忘れたわ、それにしても腹減ったのぉ・・・。」美麗「何が来るんですか?」瑠璃「この辺りの名物じゃ。」 暫くすると店員達が人数分のつけだれと大きなたらいを持って来た、たらいの中はいっぱいのお湯と太めのうどんで満たされていた。操「来た来た、「土成のたらいうどん」!!」瑠璃「相も変わらず熱々じゃ・・・。」 好美は桃の方を向いてニヤケついた。好美「流石に飲めないでしょ。」桃「こう熱いとな・・・。」 桃は手を震わせながら麺を持ち上げた、水分をたっぷり含んだ麺はとても重かった。熱々の麺をつけだれにダイブさせて1口・・・。桃「物凄く熱いけど美味しいね、意外と私好きかも。」瑠璃「香川の人が美味しいって言うてくれて嬉しいわ、父ちゃん連れて来て良かったな。」操「頑張って運転した甲斐があったわ。」 熱々の昼食で腹を満たした3人は暫くの間、車内で眠っていた。 暫くして操に起こされたが、そこはまだ好美の家では無く別の山間の場所だった。旅館の様な建物の前。好美「神山温泉じゃ、疲れていたから丁度ええわ。」 5人が各々で入浴を楽しんだ後、3人はお土産を選んだ。各々の恋人達にだろうか。 操の運転で家へと戻ると5人は駅へと向かい、汽車で徳島駅へと向かった。操「そろそろ俺も呑んで良いけ?」 操は1人運転に勤しんでいる中、残った4人が行く所々で酒を楽しんでいたので我慢が出来なかった。 駅地下に降りてすぐのバルらしき店に座る・・・、かと思ったらその店は立ち飲みだった。操「「3種の飲み比べセット」と特製生ソーセージで。」 どうしてもこの組み合わせで呑みたかったらしい、4人も同じものを選んだ。新町川のボードウォークにも同様の店があり、そこでも美味い地ビールを楽しめる様になっていた。好美「父ちゃん、他に肴は頼まなくて良いの?」操「止めとけ、決しておすすめはせんじぇ。」
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Chapter: 5. 「あの日の僕ら」㊳-㊳ お盆特別編⑤・再会と恐怖の観光地- まさかの場所からの電話に驚きを隠せずにいた好美、ただ美麗は冷静だった。美麗「そうか、丸亀はナイターだもんね。」好美「何であんたが知ってんの。」美麗「たまにパパと行くもん。」瑠璃「最近の女子大生の趣味って変わっとんな、好美は最近何にハマっとんえ?」 最近の好美は毎日勉強とバイトに明け暮れていたので自分の時間を上手く取れないでいた、しかしどうにかして会話を繋げたかった。好美「買い物(かいもん)じゃ。」瑠璃「ええね・・・、また今度お母ちゃんとも行かんけ?」 すると、少し離れた所から操の叫び声がした。操「やられたわーー!!」桃(電話)「やった、入った!!」 どうやら桃と操は同じレースの舟券を購入して観戦していたらしい、今日1日通して操は負けたみたいだ。桃(電話)「やった!!38000円取っちゃったよ!!」好美「桃、そんな自慢をする為に電話して来たの?」桃(電話)「ごめんごめん、あたしも明日そっち行って良い?」好美「母ちゃん、良い?」瑠璃「あたしは良ぇけど、父ちゃん、明日って2人を連れて出かけるって言っとらんかったけ?」操「ああ、途中で拾えばいけるわ。」桃「じゃあ、10時頃に駅に着くと思うから。」 翌日、操の運転で徳島駅前のロータリーへとやって来た好美達は桃をすぐに発見して車に乗せた。 汗だくになった桃の姿を見て懐かしむ瑠璃が冷えたペットボトルの麦茶を与えると、桃は待ってましたと言わんばかりに飲み干した。桃「助かりました、ありがとうございます。」瑠璃「久しぶりじゃ、桃ちゃんも元気そうで良かったわ。同じ大学じゃってね。」桃「はい、好美と一緒で心強いですよ。」 桃がスライドドアを閉めた事を確認すると操がゆっくりとハンドルを右に回して車を走らせ始めた。好美「そう言えば今日はどこ行くん?」操「久々にあそこ行こうと思っとんじゃ・・・、因みに度胸が無い奴は今日昼飯抜きじゃ。」瑠璃・好美「まさかあそこ?!」美麗・桃「ん?」 数時間走った車はどんどんと山間部に入って行き、少し進んだ先にある数台分しかなさそうな駐車場へと止まった。操「着いたじぇ。」 近くに設置された小さな入れ物に小銭を入れると、坂道を歩き少し暗めの場所に向かった。歩を進めていった先で多くの観光客が並んでおり、そのまた先で
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Chapter: 5. 「あの日の僕ら」㊲-㊲ お盆特別編④・桃の父の趣味- 操は美麗の方に目をやった、娘の隣にいた友人がチャイナ服を着ていた為に少し焦っていた。美麗にとってはよくある事なので予想通りだった。操「この子が言ってたお友達け?あかんでぇ・・・、中国語話せんじぇ。」 今回の帰省でこの件は2回目、これはハーフの運命(さだめ)なのだろうか。美麗「大丈夫ですって、私ハーフですので。」操「良かったわ・・・、日本語ペラペラなんじゃ。」美麗「私、中国行ったことも無いんです。」 ただ瑠璃にとってはそれ所では無い情報が1つ。瑠璃「ほれより、父ちゃん大変じゃ。好美に男が出来たって!!」操「好美に・・・、男・・・!!遂に人の物になってしもうたんか!!」好美「まだ結婚していないわ!!」操「ほうけ、ほれより母ちゃん小豆買うて来ぃ!!赤飯炊くじぇ!!」好美「2人揃って同じ事言わんとって、ほら父ちゃん呑みぃ!!」操「お前と・・・、ほう言えばお友達の名前聞いてなかったわ。何て言うんけ?」美麗「美麗(みれい)です、松戸美麗。」好美「そう言えば、どうして女将さんは美麗(メイリー)って呼んでんの?」美麗「2人だけの時とかパパに知られたくない事を話す時とかは中国語を使うからね、でも今まで通りどっちでも大丈夫だよ。」 瑠璃は好美の言葉に不自然さを覚えた。瑠璃「女将さんって誰え?」美麗「中国出身の私の母です、好美ちゃんはウチのお店でアルバイトをしているので。」操「良かったわ、ちゃんと働いとんじゃな。安心したわ。」 3人で盛り上がっていると、美麗の携帯に着信があった。2人が無事に徳島に着いたかどうか心配になった王麗だった、流石は学生達のもう1人の母と言える。 美麗はスピーカフォンにして電話に出た、ただこの行動は一瞬で意味の無い物になってしまった。王麗(電話・中国語)「美麗(メイリー)?あんたなかなか連絡してこなかったから心配したじゃないか、もう好美ちゃんの家に着いたのかい?」美麗(中国語)「今着いたの。それよりお母さん、この電話皆に聞こえているから日本語にして貰って良い?それとも何か秘密でもあるの?」操「おい、何て言っとんじゃ?」好美「うん、全然分からん。」 電話の向こうの雰囲気を察したのか王麗は日本語で話し始めた。王麗(電話・日本語)「あらま、私とした事が。ごめんなさいね、うちの娘
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Chapter: 5. 「あの日の僕ら」㊱-㊱ お盆特別編③・気まずくなっていた父との再会- 気を利かせた美麗が横から声を掛けた。美麗「好美の彼氏の守君ですよ、宝田 守君。」瑠璃「えっ?!好美に彼氏が?!騒動じゃ、御赤飯炊かなあかんわ!!」好美「お母ちゃん、大袈裟じゃあ!!」 早く呑みたい好美は早々に電話を切って料理を取り始めた、好美は多種多様の料理を少量ずつ取っていた。 料理をテーブルに置いて酒を取りに行った、駅前にあるロータリーの方向からぞめきの音が聞こえて来た。 乾杯を交わした3人は暑い中でキンキンに冷えたビールを一気に煽った、女子大生達は先程まで呑んでいたのにも関わらず美味そうに呑んでいた。瑠璃「あんたら、この後踊り見に行くじゃろ?」 好美と美麗の荷物は予め送っていたので身軽だった、なので自由に行動が出来た。好美「行く、美麗も行くよね!!」美麗「も・・・、勿論・・・。」 やたらと興奮している好美を見て少しタジタジとしてしまう美麗、でも折角徳島に来たのだから出来るだけ楽しんで行きたい。 3人は十分顔を赤くするとビアガーデン会場を出てエレベーターで下まで降りた、ただ酔った所為でボタンを押し間違えて一度地下に行ってしまったが全く気にしていなかった。 エレベーターを出てすぐの所にあるエスカレーターで上に上がり、出入口から外へと出ると3人は人ごみへと混じって行った。瑠璃「2人、離れんとってな。」 やはり夏だ、浴衣を着て街中を歩いている人達もちらほらいた。 阿波踊り連の衣装で自分達の出番を今か今かと待つ人々もいた、男踊りの衣装を着た女性達を見て何故か美麗が興奮していた。 鳴りやまぬ和楽器の音色が一層盛り上がりを見せていく頃、人ごみによる熱気が凄かったので3人は屋台で冷えた缶ビールを買って煽った。どんだけ呑むつもりなのだろうか。 桟敷席の並ぶ藍場浜の演舞場から移動して道路へとなだれ込む数々の有名連の踊りを見ながらビールを呑んでいく3人、何か肴が欲しくなってきた3人は屋台を探した。美麗「ずっと歩いているからお腹空いちゃったよ、桟敷に座って見るのかと思ってた。」瑠璃「桟敷はお金が高いけん、歩いてちらほら見るのが一般的なんよ。」 駅前から少し離れた東新町のボードウォークに変わった屋台が連なっていたので、そこで何かを買ってみる事にした美麗が1人興奮していた。好美「嗚呼・・・
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Chapter: 5. 「あの日の僕ら」㉟-㉟ お盆特別編②・久々の故郷- お盆直前、春麗の娘である安富花梨(やすとみかりん)が松龍での短期バイトへとやって来た。美麗「本当に大丈夫なの?」 美麗が心配するにはちゃんとした理由があった、以前から店内でも夏にはかき氷を出していたのだがそこで花梨が大量の容器を割ってしまった事があったのだ。龍太郎「大丈夫だよ、俺は梨ちゃんの事信頼しているから。(小声で)今年から紙コップに変更したからな。」美麗「なるほど、じゃあ大丈夫だわ。」花梨「叔父さん、何か言った?」龍太郎「ん?気にしなくても良いよ、大丈夫大丈夫。」 女子大生2人は松戸夫妻達に見送られて最寄りの駅へと向かった。 高速バスと特急列車を乗り継いでやっとの思いで徳島駅の2番乗り場に到着した、阿波踊りを見ようとする観光客や好美と同じ里帰りの人々で駅はごった返していた。 元々は数分後に発車する普通列車で移動する予定だったのだが・・・。好美「ねぇ、乗る時間ずらして地下に行かない?」美麗「いいけど、もう乗り場に「電車」来てるよ。」好美「あ、徳島に「電車」無いから。あれ「汽車」だから。」美麗「えっ?!」 これは徳島ではよくある件なので好美は飽き飽きしていた、一先ず好美の提案通り地下へと向かう事に。美麗「何があるの?」好美「良いから良いから。」 美麗は好美に案内されるがままにエスカレーターを降りて右に折れ、暫く歩くとそこには呑み屋街が広がっていた。そこでは昼限定のランチを食べていたり昼間から呑んでいる人達で盛り上がっていた、母親の瑠璃からこの情報を得ていた好美は徳島に帰ってすぐに吞みたくなってしまっていたのだ。良さげな店はどれだろうと物色しているとエスカレーターから向かって割と手前に大きな唐揚げとハイボールを売りとしているお店があった、我慢出来なくなっていた好美は早速席に座って注文した。 数時間後、すっかり出来上がってしまった2人がふらふらになりながらホームへと向かおうとすると2人に向かって手を振る女性がいた。女性「好美ー。」好美「お母・・・、ちゃん・・・?」 気合を入れて来たのか何故か着慣れないチャイナドレスで2人を歓迎した瑠璃、しかし普段からチャイナ服を着ている美麗と被ってしまったらしい。瑠璃「あら、友達を連れて来るとは聞いとったけど、中国人の子と一緒って思わんかったわ。ニ・・・
Last Updated: 2025-09-13