近藤家は海城で名の知れた一族。
近藤母の誕生日パーティーには、当然多くの人が招かれていた。
私は6ヶ月目のお腹を支えながら、会場の準備を取り仕切っていた。
智也は私の後ろにぴったりとつき、私が誰かにぶつからないように気を配り、こっそり腰を揉んでくれる。
「こんなこと、他の人に任せろよ。俺の小さな女神様、少しは休めよ」
私は智也の手を取り、優しく微笑む。
「お母様の誕生日ですもの。やっぱり顔を出すべきです」
智也は一瞬ぽかんとした顔をして、周りに誰もいないのを確認すると、突然私にキスをしてきた。
「本当にすごい女だよな。近藤家の坊ちゃんをあそこまで従わせるなんて」
「若い旦那さんはともかく、年寄りまでは騙せないだろうよ。お腹があんなに大きいのに、まだこんな場に出てくるなんて」
「近藤家の二人のご両親、あの顔見てみろよ。不機嫌さが隠せてないじゃないか」
何人かが集まり、笑いながらそんなことを話している。
その嘲笑は隠す気もなさそうだった。
別に私を個人的に恨んでいるわけではない。ただ、納得できないのだろう。
どうして私のような何の後ろ盾もない人間が、彼女たちと同じ立場に立てるのかと。
それでも私は微笑み続けた。
まるで全てが自分とは関係ないかのように振る舞い、欲張りもせず、争いもせず、ただ「穏やかな近藤夫人」を演じていた。
智也は眉をひそめ、「あの連中、どこの家の人間だ?礼儀がなってない。追い出せ」
警備員が数人をつかみ、外へ連れ出していった。
その場は一気に騒然となった。
智也は私の横に立ち、腰に手を回しながら私の体をくるっと向けた。
「ほら、ベビー、見るなよ。目が汚れる」
近藤家の両親は、表面上は体裁を保つように微笑んでいるが、私を快く思っていないのは明らかだった。
とはいえ、今や私は彼らの正式な嫁なのだ。
ただ、今回の騒ぎは少々目立ちすぎた。
案の定、近藤母は私に不満げな視線を送ってくる。
智也は私の手のひらを軽くなぞり、褒めてもらおうとするように聞いてきた。
「ベビー、俺、さっきカッコよかっただろ?」
智也のこうした優しい行動は、ほとんど私が教え込んだものだ。
付き合い始めたばかりの頃は、こうした些細なことでよく喧嘩をした。
私は彼が気が利かないと文句を言い、智也は甘やかされて育った坊ちゃんだから、人を愛する方法を知らなかった。
一番ひどい喧嘩のとき、私は決意して別れを切り出した。
智也は私の足にしがみつき、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら泣いた。
「別れるなんて嫌だ。もし別れるなら、俺は死ぬ」
彼は涙に濡れた瞳で私を見上げ、懇願してきた。
「ベビー、教えてくれよ。どうやって君を愛せばいいか教えてくれないか?」
「君に捨てられたくないんだ」
「俺、頭いいんだからさ。絶対にちゃんとできるようになるから」
結局、二人で抱き合って泣いた。
今思い返すと、少し笑える話だ。
宴会が終わると、近藤家の両親が私を書斎に呼び出した。
智也は心配そうに一緒に入ろうとしたが、
近藤父は茶碗を机に叩きつけ、怒りをぶつけてきた。
「何だそのだらしない姿は!毎日女の後ろをついて回るなんて情けない!」
私は心の中でほっと暖かい気持ちになった。
智也が私を気にかけてくれているのがわかったからだ。
彼の両親が私を嫌っているのは周知の事実だ。
書斎から出たとき、膝に青あざができていたことも何度かあった。
それでも智也は負けずに両親に言い返す。
「そうだよ、俺はダメ息子だ!そんなに嫌なら、もう一人子ども作ればいいだろ!」
「俺がこうなったのはそっちのせいだろ?俺だって好きで息子やってるわけじゃない!」
「俺が誰といようと、あんたには関係ないだろ!」
私はそばで父子の口論を黙って聞いていた。
ある程度言い合いが収まったところで、私は静かに口を開いた。
「もうやめなさい。お父様に向かってそんな口の利き方はダメよ」
智也はふてくされながらも、私のそばに寄ってきた。
それ以上言い返すことはしなかった。
私は彼に安心するような視線を送り、ようやく彼は部屋を出た。
近藤父の鼻息が荒くなる。
彼の目には、息子が完全に私に手玉に取られているように映っているのだろう。
まるで犬の調教みたいに。
Palawakin