出張だったのか。
優里はそう思いながらいると、翔太が淡々とした声で言った。「他に用は?」
優里は首を振り、それから尋ねた。「長墨ソフトで働き始めてから結構経ったけど、ちゃんと馴染めてる?」
「問題なくやってるよ」翔太はそう答え、続けて言った。「用がないなら、先に上がるね」
そう言い終えると、翔太はそのまま背を向けて歩き出した。
一度も振り返らずに去っていく背中を見ながら、優里はわずかに眉をひそめた。
以前、彼の居場所を家族に漏らしたことに腹を立てた翔太は、それ以来、彼女からの電話を何度も無視し続けていた。
今日こうして会って、彼が話しかけに応じてくれたから、もう怒りはおさまったのかと思っていた。
けれど、その態度は以前よりもずっと冷たかった。
彼女は苦笑した。まだ完全には怒りが収まってないのかもね……
そんなことを思っていた矢先、見知らぬ番号から電話がかかってきた。相手は長墨ソフトの弁護士だと名乗り、礼二からの依頼で契約解除について話したいという内容だった。
優里の表情が沈んだ。
礼二は彼女の電話には出ず、代わりに弁護士を通して契約解除の話をしてくる。つまりもう、事態を覆す余地はほとんど残されていないということだ。
そう悟った優里は、くるりと踵を返してロビーを出た。
優里が去って間もなく、辰也も長墨ソフトに到着した。
彼が長墨ソフトに来たのは、業務上の打ち合わせのためだった。
玲奈は彼の到着を知ると、オフィスを出て応接室へと向かった。
ちょうど彼女がオフィスを出た直後、翔太が彼女を訪ねてきた。部屋にいないことを知り、社員に尋ねたところ、彼女が応接室で取引先と打ち合わせをしていると聞かされた。
最初は普通の取引相手かと思っていたが、相手が辰也だと知った瞬間、翔太は一瞬足を止め、二秒ほどしてから応接室へと歩き出した。
玲奈と辰也が仕事の話をしていたとき、ノックの音が響いた。玲奈は浅井が何か用かと思ったが、応接室のドアが開かれ、入ってきたのは翔太だった。それを見て、彼女は一瞬驚き、口にした。「秋山?どうして——」
「ちょっと話したいことがあって」玲奈に向かってそう言いながらも、翔太の視線は辰也に向けられていた。
「今は手が離せないから、あとにして」
玲奈と辰也の間に距離があり、他にも人がいたのを確認して、翔太はうなずいた。「わか