幼稚園の門の前で立ち尽くし、手足が凍りついたように冷たくなった。
高橋宏一と中村美咲が息子の手を引き、親子イベントに楽しそうに参加している。その姿はまるで本当の家族のようだった。
宏一が私の幼馴染で、結婚もした夫であっても。
悠斗君が、私が十ヶ月間妊娠して産んだ息子であっても。
彼らは私を必要としていない。
悲しみが足元から全身に広がり、私は自分の運命を予感していた。
その時、その冷たく機械的な声が響いた。
「ホスト、任務は失敗しました。あなたは抹消されます」
元の世界では、私は幸せな生活を送っていたはずだった。だが、交通事故により植物状態となった。
システムが現れ、30歳までに誰か一人の男を攻略できれば、1億円の報酬と健康な身体を与えると言われた。
私は同意した。
しかしこの30年間、どんなに努力しても、中村美咲が現れると、すべての視線が彼女に集まってしまう。
もう、今度こそ、私は諦めた。
男を攻略することを諦め、一番豪華なスイートルームに横たわり、死を静かに待つことにした。
この世界では、私は親に大切に育てられたお嬢様で、莫大な財産を相続していた。それなのに、男を攻略するために、どれだけの金を使い果たしたことか。
今では、スイートルームの宿泊費を支払えるだけの残りしかない。
この状況がバカらしく思えてきた。
「愛」という名のもとに始めた攻略で、最初に失ったのは私自身の心だった。
涙が一筋頬を伝い、心臓が痛む。
しかし、待てど暮らせど、死は訪れなかった。
私は不思議に思い、システムに尋ねた。
システムはしばらくの間、雑音を発し、やがて冷たい声でこう言った。
「ホスト、本当にもう一度試してみないのですか?もう少し頑張れば、成功するかもしれませんよ」
「今度こそ成功できるかもしれないです」
いつも無機質だったその声が、今回は少しだけ惜しむような、同情の色を帯びていた。
「ありがとう、システム」
美咲が現れた後、唯一私を慰めてくれたのはシステムだった。
「でも、私はもう疲れ果ててしまったの。誰かを愛することは、私の命を削るようなものだった。ましてや、私の薄っぺらい30年で、4人も愛してしまったんだもの」
システムは沈黙した後、ゆっくりと声を出した。
「ホスト、もし誰か一人の男に殺されば、元の世界であなたの家族に会わせてあげます」
私は驚いて起き上がった。
もう一度、両親に会える?
すぐに、誰に殺されるのがいいかを考え始めた。
その時、ドアが開き、佐藤海斗が険しい顔で部屋に入ってきた。
「佐藤桜子、お前、誰とここにいるんだ?」
彼は怒りに満ちた顔で部屋を隅々まで調べ、クローゼットやベッドの下まで確認した。
しかし、誰もいないことが分かり、ようやく息を吐いた。それでも、顔にはまだ険しい表情が残っていた。
「俺に恥をかかせるなよ。今は高橋氏病院との協力が大事な時期なんだ。もし台無しにしたら、お前をこの手で殺すからな」
高橋氏病院、宏一の病院だ。
その冷たい目を見て、私は思わず笑ってしまった。