「何しに来たんだ？」
「俺が言ったよな。もう二度と俺の前に現れるなって」
涼介は上半身裸で、手首に包帯を巻き、拳にグローブをはめたまま、黙々とサンドバッグを殴り続けていた。私が入ってきても、彼は一瞥すらくれなかった。
「サンドバッグ殴って何か変わると思ってんの？」私は鼻で笑った。「あなたみたいな負け犬、どうして高橋に挑まないんだ？美咲を取り返してこいよ！」
「あなたが私の兄だからって、それが何だって言うの？親だってどうせ海斗ばっかり可愛がってるでしょう？
それにあなたが美咲に先に会ったところで、彼女は私の夫と息子と幼稚園の行事に参加してるんだよ？お前のことなんか眼中にないくせに
ほんと、どこまでも負け犬だね！」
彼の拳が私の耳元をかすめ、壁に叩きつけられた。だが私は微動だにせず、挑発を続けた。
「殴れるもんなら殴ってみなよ。ただのハッタリじゃ何も変わらないでしょ？」
昔の涼介なら、絶対に私に手を出すことなんてなかった。しかし、美咲が現れてからというもの、彼は私を見るたびに疑うようになった。
「なんであいつらはお前ばかりをいじめるんだ？他の誰でもないのに」
「お前、本当に何も悪くないのか？」
被害者の唯一の過ちは、ただ弱いことだと思う。だから、私は一度だけ強気に出た。美咲が私に泥棒の濡れ衣を着せたときに。
「桜子、お願いだから返してくれませんか？このヘアピン、涼介さんにもらった誕生日プレゼントなんです」
美咲が涙をぽろぽろ流しながら訴えると、周りのクラスメイトが私を取り囲み、反論する余地はなかった。
そのとき、涼介が駆けつけてきた。私は彼がいつものように私を信じて守ってくれると思っていた。だけど、彼は美咲の後ろに立ち、騎士のように彼女を守るポーズを取った。
「桜子、出せよ。嫉妬で美咲の物を盗むなんて、そんなこと許されると思うなよ」
笑っちゃうよね。私を一番信じてくれていた彼が、今は私が嫉妬で盗んだと言い出すんだから。
それ以来、私をいじめる奴らはますます調子に乗った。
今、こんな風に涼介を辱めた私に、彼は鋭い目を向けたけど、結局無言のまま背を向けて出て行こうとした。
それでも私はしつこく追いかけ、言葉の攻撃を止めず、ついには彼を突き飛ばした。
怒れよ、もっと怒って。そして私を殴り殺してみせろ。そうしたら、私は家に帰れる。
「
