常に冷静で沈着なはずの姑も、ついに衝撃から立ち直ったようだった。
若江和嘉には目もくれず、その顔には何とも言えない複雑な表情が浮かんでいた。
滅多に見せない取り乱した様子で、わずかに声を震わせながら私に尋ねた。「雨音、本当にそうなの?」
彼女のこんな姿を見ると、私の目には思わず涙が浮かんできた。
「本当」
若江和嘉はそんな彼女の反応が気に入らず、姑の腕を掴んで激しく揺さぶった。
「母さん、早く若江格を後継者だと宣言してくれよ!」
しかし、姑は既に気持ちを落ち着けていた。彼の手を払いのけ、冷静に尋ねた。
「あなた、雨音の元彼が誰か知っているの?」
若江和嘉は焦ったように頭を掻きむしった。
「誰だろうと関係ないだろ!とにかく詩織は若江家の子じゃないんだ!」
「雨音の元彼はね、あなたの兄、若江康彦よ。つまり、詩織は若江家の子どもであり、唯一正当な後継者ということ」
姑の一言は爆弾のようにその場に落とされ、周囲を震撼させた。
「若江家の伝統を皆さんもご存じでしょう。長男の正妻の子どもだけが家督を継ぐ資格を持ちます。この一族が途絶えない限り、庶子が継ぐことはありません」
彼女は鋭い眼差しで若江和嘉を睨みつけ、厳しく言い放った。
「康彦が事故に遭ったとき、仕方なくあなたを家に迎えたのよ。和嘉、あなた、自分の身分を忘れないで」
この一言で、若江和嘉の顔は血の気を失い、青ざめた。
若江和嘉の母親は、彼が家に戻ることをずっと願っていた。
かつて、舅がまだ若かった頃、女性秘書に策略を仕掛けられて若江和嘉を産ませることになった。
だが、若江家は血筋の純潔を重んじており、どこの誰とも知らない女性が産んだ子どもが若江家の家族になる資格はなかった。
舅が認める子どもは、彼と教養ある名門出身の姑が生んだ長男の若江康彦だけだった。
舅は扶養費だけは払ったものの、若江和嘉には一切目を向けることがなかった。
だが、運命のいたずらで、舅が心血を注いで育てた後継者の若江康彦が、工事現場の事故で植物人間となってしまった。
仕方なく、舅は若江和嘉に目を向け、条件を出した。
「若江家に戻りたいのなら、私の恩人の娘である桐雨音と結婚しろ」
若江和嘉は私に対する愛情はなく、心の中には初恋の白井雅絵がいたため、最初はこの結婚を拒んでいた。
だが、若江家に戻る