智昭は慌てて病室に駆け込み、ベッドに横たわる父の顔を見るなり、思わずうつむいた。顔色は青白く、唇には血の気がまるでなかった。
彩子は優斗を連れてその後を追って入ってきた。
「このクズが!」
崎村秀夫(さきむら ひでお)の唇は微かに動いたが、その声はかすれていて、喉の奥から絞り出すような声だった。だが、それでも怒りを込めて指を震わせながら智昭を指し罵った。
崎村夫人は慌てて彼の胸をさすりながら、冷たい目で智昭をにらみつけ、不満げに言った。
「智昭、自分が何をしたか分かってるの?」
智昭は頭を上げることができなかった。
秀夫はその様子に歯がゆそうに眉をひそめ、冷たい声で言い放った。
「俺が死んでも、あの女が子供連れてこの家に入ることは絶対にない!」
その言葉は、ちょうど扉の前で立ち聞きしていた彩子の耳に届いた。彼女の目に怒りの色が走り、拳を握りしめて部屋の扉を押し開けた。
「なんでよ!?お腹の子は崎村の血を引いてるのよ!智昭の子なのよ、他の男の子じゃないのに、なんでうちに入れないのよ!」
崎村夫人の目には冷たい怒りが宿り、智昭の腕を強く叩きながら怒鳴った。
「なんであんた、こんな女連れてきたの!?出て行け!今すぐ出て行け!」
彩子は信じられないというように目を見開き、叫び声を上げた。
「ひどい!あんたたち、ひどすぎる!みんなに言ってやる!この崎村家は冷酷で恩知らずの裏切り者だって!あんたもよ、このクソジジイ!自分の孫すら見捨てるなんて、地獄に落ちろ!」
彩子は乱れた髪を振り乱しながら、ベッドに横たわる秀夫を指さして叫んだ。その姿はまるで理性を失った狂人のようだった。
その言葉を聞いた智昭の目に一瞬驚きが走り、顔を歪めると、勢いよく彩子の頬を平手打ちした。
彩子は顔を押さえ、涙を流しながら、それでも笑みを浮かべて言った。
「智昭、あんたそんな人じゃなかったでしょ?妻がいるのに浮気したのはあんたでしょ?自分の奥さんを裏切って、私のベッドに転がり込んできたくせに……」
その瞬間、ベッドの呼吸器の音が急に早くなり、秀夫が激しく咳き込み始めた。白目を剥いた彼の体が痙攣し、病室中にアラーム音が響き渡った。
その場にいた全員が凍りついたように動けなくなった。
「患者危篤です!ご家族の方は外へ出てください!」
看護師が慌ただしく皆を病室の外へ