葉月も、あの同窓グループのメッセージを見ていた。
その中のひとつが、彼女の視線を少しだけ長く留めさせた。
【結婚写真を撮った日、晴樹は出張だったんだよ。葉月だって知ってたはず】
ひとつの嘘を、また別の嘘で塗り固めるだけ。
可笑しいという感情以外、もう何も湧いてこなかった。
誰もが「葉月は必ず戻ってくる」と信じて疑わない。違いは、戻ってくるのが半月のうちのどの日かという点だけ。
葉月はグループ通知をミュートにした。
待ちたければ勝手に待てばいい。彼女は戻らないし、影響も受けない。
二年ぶりに茂人と再びタッグを組んだ。けれど、まったくブランクを感じさせなかった。まるで昨日まで一緒に働いていたかのように、スムーズだった。
たった半月で、二つのプロジェクトを完璧にまとめ上げた。
彼が自分への想いを見せたのは、最初の一日だけ。それ以降は、一線を越えるような素振りは一切なかった。
そのため葉月は、あの日の出来事は思い込みだったのではとさえ感じ始めていた。茂人は、もともと自分に興味なんてなかったのでは、と。
そんなある夜、彼はいつものように一緒に散歩し、途中まで家まで送ってくれた。
そのとき、葉月のスマホに夏帆からメッセージが届いた。
【あのグループ、全然見てないでしょ?】
久々に同窓グループを開くと、一番下には朝方、茂人が送ったメッセージがあった。
それは、半月前の投稿に対する返信だった。
【口は悪いけど本音で言うね。葉月、君の条件で晴樹以上の相手はまず無理だよ】
【俺は、彼よりマシだと思っていい?】
葉月の足が止まる。心臓が一拍、打ち損ねたような感覚だった。
茂人も立ち止まり、彼女のスマホ画面をちらりと見た。
「グループなんか見てなかったよ。今朝、友人に言われて、初めて開いたんだ。
「わざわざ反応しなくても良かったのに、何か言われるかも」
「好きに言わせとけばいいよ。俺は気にしない」
茂人は向き直り、街灯の下、長く伸びた影が葉月の足元に落ちる。
「でも、君のことは別だよ。葉月、君のことは、大切に思ってる」
夏の夜風が肌をなでるように吹き抜け、彼女は頬の熱が一気に上がる。
葉月は思わず顔をそらし、何も言わずに歩き出した。
茂人も、それ以上は言わず、静かに隣を歩く。
葉月は唇を軽く噛んだが、視線は何度も茂人のくっきりとした