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第16話

Author: 毒リンゴ
今の晴樹は、まるで飼い主に捨てられた犬のようだった。だが、葉月の心には微塵の同情も湧かない。

「想像してる通りよ。そもそも、気づいてたでしょ?」

そう言い残して、葉月は視線を外すと、そのまま扉を閉めた。

部屋の中では、茂人がダイニングテーブルで彼女を待っていた。

葉月が近づくと、茂人はごく自然に箸を差し出す。

その手を受け取った瞬間、葉月の指先がかすかに震えた。

「さっき、なんで出てこなかったの?」

それは、茂人らしくなかった。

恋人関係になったばかりの頃、彼は積極的に彼女への宣言をしていた。今や支社の誰もが、茂人が葉月のために海外に来たことを知っている。

「葉月、俺も怖かったんだ」

茂人は穏やかに笑った。

「でも今はもう、怖くない」

「どうして?」

「葉月、君のことはわかってる。君は絶対に振り返らない人だ」茂人の目は、まっすぐに彼女を捉えていた。「今、俺のことをそんなに好きじゃなくてもいい。でも君は責任感のある人だ。いずれきっとあいつより、俺のことを好きになる。俺は、その価値がある」

その言葉は、ごく静かだったけれど、葉月の心に小さな波紋を残した。

「なんで責任なんて話になるのよ?」

「君に一度振られてからも、俺は君だけを好きでいた。君以外の誰にも目を向けなかった。その想いが、君の責任として返ってきたなら、それは、俺の勝利だ」

茂人の笑顔があまりにまぶしくて、葉月は一瞬、視線を奪われた。

ふと、昔どこかで読んだ言葉が、頭に浮かぶ。

潔白さは、男の最高のものだ。

葉月と茂人は、本当に相性が良かった。価値観も、その他のあらゆる面でも。

彼女の心に誰かがいる限り、他の恋は芽生えない。晴樹を完全に手放せたからこそ、彼女は茂人を選んだのだ。

「茂人」

「ん?」

「もう、彼のこと好きじゃない」

茂人の瞳が、ほんの少し明るくなった。

葉月は視線を伏せる。「今、私が好きなのはあなただよ」

数秒後、茂人は低い声で言った。

「まずは、食べよう」

お腹を満たしてからじゃないと、やることもやれないから。

その頃、外。

晴樹は、何度もドアを叩こうとしては、手を引っ込めていた。

ほんの数分だったが、そのやり取りで彼のすべての希望は粉々に砕かれた。

いつからだろう。自分が、葉月にとって最も嫌いな人間になっていたなんて。

彼はた
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