しかし病室に入ってきたのは、寧音だった。
「ようやく目を覚ましてくれた。ほんとに、死ぬかと思ったんだから!」
寧音は駆け寄り、泣きながら喜びをあらわにした。
だが、彼女が晴樹の手を握ろうとした瞬間彼はその手を力強く振り払った。
「なんで君なんだ?」
寧音は、彼の冷たい眼差しに心をえぐられ、笑顔を消した。
「誰に来てほしかったの?葉月?
三年間も準備して、もう少しで社長に昇進するところだったのに、葉月のために、全部投げ出したってわけね。
そんなに捨てて、葉月は振り向いてくれた?」
「黙れ!」
晴樹のこめかみに青筋が浮かび上がった。「君がいなければ、全部うまくいってたんだ」
寧音は、笑っていたのに、そのまま涙を流した。
「晴樹、本当に人間なの?私に手を出したのはあんたでしょ?葉月に対しては責任があるだけ、本当に結婚したいのは君だけだって、そう言ったのは誰?」
だが、晴樹はまったく動じなかった。
「被害者ぶるな。最初から自分の立場がどういうものか、わかってただろ?今さらこんな状況になって、誰のせいにするつもりだ」
雷に打たれたかのように、寧音はその場で固まった。
病室は、息が詰まるほど静まり返った。
長い沈黙の末、寧音が歯を食いしばって言った。
「ビザも切れる頃でしょ。私と一緒に帰国しよう。葉月のいない国で、二人でちゃんとやり直せばいい」
晴樹は黙ったまま。口の中には血の味が広がっていた。
だが彼には、葉月を失うことなどできなかった。
過去のあの美しい日々を、どうしてあっさり手放せるものか。
晴樹の無事は、夏帆から葉月に伝わった。
寧音がグループに参加してからというもの、しばらく静かだったグループがまた騒がしくなった。
そして今度は、寧音が事実を歪め、被害者ヅラをしながら投稿したことで、葉月と茂人が一気に非難の的となった。
葉月と茂人はほぼ同時期に海外で仕事を始め、その直後に交際を公表。
それに対し、晴樹が入院していたという話が添えられ、コントラストはあまりにも鮮烈だった。
まるで、葉月が晴樹を「裏切った」かのように。
【二年前、浅田と八木は上下関係だったんだよね?今またすぐに付き合ってるってことは、ずっと繋がってたんじゃないの?】
【杉浦が一番可哀想だわ。八木に5年間も踏み台にされたんでしょ?】
【こんな女と結