考えれば、ちょうど晴樹と葉月の結婚式の前日だった。
晴樹の全身が強張り、唇が震えている。恐怖が極限に達していた。
「は……葉月……」
葉月も笑った。
「おめでとう」
その言葉が、晴樹の心を生々しく切り裂いた。
彼は震えが止まらない。
この瞬間、はっきりと悟った。
自分の手で、すべてを壊した。葉月が自分を愛することは、もう二度とない。
「晴樹、行きましょう。飛行機に間に合わなくなるわ」寧音が晴樹の腕を取る。
葉月はその姿を見つめ、ゆっくりと言った。
「あなた、本当にもう逃げ道はないのね」
寧音の落ち着きは、その言葉で崩れかけた。
葉月は口角を少し上げ、もう一度繰り返した。
「おめでとう」
そう言って、彼女は背を向けて歩き出した。
寧音が共に沈むことを選んだのなら、それは彼女の意志。
選んだなら、その結果もすべて受け入れるべき。
葉月は足を早めた。茂人をこれ以上待たせたくなかった。
晴樹と寧音が帰国してから、葉月は二人のことを一切気に留めなくなった。夏帆も再び名前を出すことはなかった。
葉月のキャリアは順調そのものだった。たった九ヶ月で、彼女の名前は大学の「優れた卒業生」の欄に載り、茂人と並んでいた。
休暇を利用して、葉月は茂人と共に帰国し、両親に挨拶した。
茂人がどれほど準備を重ねたのか知らないが、彼の両親は彼女の好みも苦手なものも完璧に把握しており、最初から非常に打ち解けた空気だった。
大晦日、家族と一緒に食べ終えたあと、茂人が彼女を連れて外へ出た。
そして、花火を打ち上げる中で、葉月はふと声がこぼれた。
「茂人、結婚しない?」
茂人はその場で固まってしまい、手に持っていたスパークラーで火傷しそうになってから、ようやく我に返り、駆け寄ってきた。
「本気で言ってるの?」
葉月自身も、なぜあんなことを言ったのか分からなかった。
でも、口に出してしまったその言葉に、後悔はまったくなかった。
わざとおどけて言ってみた。「本気……かもね?」
「いや、違っても本気にする」
茂人の目元が赤くなっていた。
「ずっと待ってたんだ。君がまだ迷ってるかもしれないって、怖かった。
でも、葉月、君に先に言わせるなんて、俺としては情けないよ」
そう言うと、茂人は片膝をつき、本当に指輪を取り出した。
「葉月、俺と結婚して」