聡はしばらく星野の眉目をじっと見つめていた。ふっと微笑むと、彼に近づき、そっと口角にキスを落とした。
「星野くんって、こういう人だったんだ」
不意にキスを受けた星野の瞳は、わずかに色を濃くした。そして小さく問いかける。
「僕って、どんな人ですか?」
「満足しやすい人」
聡はそう言い切った。
星野は多くを求める人間ではなかった。少なくとも、聡が妻になった今となっては、他人の挑発など取るに足らなかった。
その言葉を聞いて、星野は静かに聡を見つめ返した。けれど何も言わない。
どうやら、彼女は少し勘違いしているようだった。自分は、決して「満足を知る人間」なんかじゃない。むしろ、もっと欲しいと思っていた。
ただ、今の彼女の前では、まだそれを表に出せずにいる。もし逆効果になったらどうしよう?そんな不安が喉元までせり上がる。
後悔で死んでしまいそうだ。
だから、ゆっくりと進めばいい。
二人はもう夫婦になったのだ。これからの時間は、長いのだから。
やがて二人は車を降り、エレベーターへと向かっていく。
そのとき、不意に二つの人影が飛び出してきて、彼らの行く手を塞いだ。
聡の口元に浮かんでいた微笑みが、さっと消えた。
竹本と円華。
どうやって中に入ったのか。
このマンションの警備と管理会社は、一体何をしているんだ。
星野は即座に聡の前に立ち、彼女をかばいながら目の前の二人をにらみつけた。
「あなたたちは、どなたですか?」
竹本は聡を指さし、声を張り上げた。
「俺たちは彼女の親だ!これが親子鑑定書だ!」
そう言って、親子鑑定書を取り出し、聡に突きつけた。
円華も言葉を重ねた。
「希嗣、前は信じてくれなかったけど、今は信じるでしょう?私たちは本当に、あなたの両親なのよ」
その言葉に、星野は眉をひそめながら聡に目を向けた。彼女の表情には、冷え冷えとした感情が浮かんでいた。
星野は毅然とした声で言った。
「親?聞いたこともありません。勝手に侵入したのなら、すぐにでも警備員に追い出してもらいます」
星野はスマートフォンを取り出し、警備室へと電話をかけた。
その動きに竹本の顔色が変わり、星野の手元に伸ばそうとした。だが、星野は素早く一歩引いて、距離を取った。
「何をされるつもりですか?手を出すなら、すぐに警察を呼びますよ」
「くそっ、