早織は病院を出るとすぐ、正面に見える小さな食堂のような店に入り、空いた席に腰を下ろした。ラーメンを注文したものの、箸をつける気にもなれず、丼はほとんどそのままだった。
日が傾き、空に夕闇が滲み始めるころ、星野と聡はようやく建物の中から姿を現した。すでに二人で二時間近くも過ごしていたのだ。
その姿を見つけた早織は、すぐに立ち上がり、いつでも駆け寄れるように身構えた。
向こう側に並んで歩く二人。その親密そうな雰囲気に、早織の目は嫉妬で赤く染まり、星野を見つめる視線には、悔しさと痛みが渦巻いていた。
この男……絶対に許せない!
星野が聡に何か言葉をかけたかと思うと、くるりと背を向け、少し離れた方向へ歩き出した。
その瞬間を逃さず、早織は目を輝かせ、急いで駆け寄ると、聡の手をつかんで反対方向へ引っ張り、勢いよく走り出した。
不意を突かれた聡は体勢を崩し、転びかける。
相手の顔を確かめた聡は、眉をひそめ、ぐいっと手を引き抜いた。
「何すんのよ」
早織は真剣な目で聡を見つめながら言った。
「星野さんのこと、少しお話があるんです。聞いていただけますか?」
「だったら普通に言えばいいじゃない。引っ張る必要なんてないでしょ」
「……彼の顔なんて、見たくないんです!」
その言葉を聞いた聡にはっきりと見えた。早織の目に浮かぶのは、星野への強い憎しみ。以前は自分に向けられていた敵意さえも、今はすっかり彼に向かっているようだった。
なんで?どうしてこんなに気持ちが変わるのが早いの?
聡は首を小さく横に振った。
「一緒に行く気なんてないわ。話したいならここで話しなさい。したくないなら、それでも結構」
そう言い終わると、踵を返し、星野のほうへと歩き出した。
「……あの男、最低なクズですよ!」
背後から、早織の叫ぶような声が響いた。
聡の足が一瞬止まり、彼女を振り返った。街灯の下、早織の瞳は底知れぬ闇を宿し、まるでその闇が光すら吸い込んでしまうようだった。
一歩前に出た早織は、じっと聡を見つめながら静かに言った。
「……私がどうして彼と知り合ったか、知ってます?あの人が私に近づいてきたんですよ。仕事の悩みだって聞いてくれて、助けてくれた。ぶどう園で会ったときも、彼のほうから『手伝いますよ』って言ってきたんです」
そこまで話すと、早織の目に淡い哀しみの