「黒崎さん、おめでとうございます」綿は丁寧に声をかけた。
キリナは微笑みながら、同じく礼儀正しく返した。「ありがとうございます、桜井さん。ご光臨いただけて感謝しております」
「玲奈が忙しくて来られないから、代わりに私が来ました。黒崎さんから招待状をいただいていませんので、勝手にお邪魔してしまいました。どうぞご容赦ください」綿は柔らかな微笑みを浮かべながらも、一方で招待状が送られていないことを遠回しに指摘し、もう一方では自分がここに来た理由を伝えた。
キリナは少し気まずそうな表情を浮かべる。
実際、桜井家に招待状を送るつもりはなかった。一つは、適切ではないと感じたからだ。綿の母親である盛晴はすでにデザイン業界で名の知れた人物だったが、彼女の専門は服飾デザインであり、キリナのジュエリー展覧とは畑違いだ。
そしてもう一つ、綿との関係が少々複雑だったためだ。さらに、輝明も招待していたこともあり、様々な事情を考慮した結果、綿への招待は見送った。
だが、まさかこんな形で彼女が現れるとは思ってもみなかった。
「気まずがらなくても大丈夫ですよ。黒崎さんには黒崎さんのご事情があるのでしょう」綿はキリナのためにわざと場を和らげる言葉を口にする。
しかし、かえってそれがキリナの気まずさを深めたようだ。「それでは、桜井さん、中へどうぞ」彼女は奥を指し示した。
綿は一声返事をして中に進む。背後でキリナが誰かに話しているのが耳に入った。
「バタフライさんから返事は来た?今日、来るのかしら?外にはたくさんのマスコミが待っているのよ。私が大々的に話題にしたからよ。バタフライさんが来るって」
「社長、バタフライさんからは返信がありません。おそらく、来ないのではないかと……」
「それじゃ、私の面目が丸潰れじゃない!」
キリナの隣にいた男性がすぐさまフォローする。「何をおっしゃるんですか。あのバタフライさんですよ?誰にでも簡単に招ける方じゃないんですから、皆さんだって理解してくれますよ。それに、どうしてもなら、バタフライさんが裏切ってきたとか、ギャラの条件が合わず来られなかったとか、適当に言い訳すればいいんですよ!」
綿は思わず後ろを振り返った。
――ギャラが合わず来られなかった。
なんて適当な言い草だ。
人を貶めるなんて、それほど簡単なことなのか。
綿の顔は冷たくな