秋年はそれを聞くと、すぐに後を追った。
彼は自分を指さしながら、不思議そうに尋ねた。
「俺、そんなに冷静じゃないように見えるか?
俺はめちゃくちゃ冷静だぞ。恋愛に関しては、この世界で一番冷静な男だ……」
綿と輝明はソファに座ったまま、秋年の話を聞いていたが、思わず赤面しそうになった。
恋愛に関して言えば、彼はこの世で最もチャラい男のはずだった。
何をトチ狂って、こんな恥知らずなことを言い出したのか。恥ずかしくないのか?
まったく、目を閉じて嘘をつく才能だけはピカイチだ。
綿はコーヒーを一口飲み、立ち上がった。
「行こう」
輝明は顔を上げ、目の前に立つ綿を見た。
ん?
綿はポケットに手を突っ込み、だるそうに輝明を見下ろして言った。
「二人きりにしてあげたほうがよくない?あなたの友達も、私たちが一緒にいるのは望んでないでしょ?」
「じゃあ、君と玲奈は……」輝明は眉を上げた。
秋年がどう思うかなんて関係ない。彼自身も、綿と一緒にいる時に邪魔者がいるのは嫌だった。
綿が玲奈と一緒にいなければ、それこそ自分にとっては最高の展開だ。
もしこの旅行がうまくいけば、きっと二人の関係に新たな一歩が踏み出せるはずだ。
「玲奈には誰かがいればそれでいい。誰でもいいの」綿はそう言って、さっさと出口へ向かった。
輝明はそんな綿を見送りながら、ちらりと秋年のほうを見た。親友はまだ玲奈に「本気だ」と必死に説明していた。輝明は小さく笑い、後を追った。
承応の通りはとても賑やかで、周囲は華やかに飾りつけられ、まるで春が去り、また春が来るような不思議な感覚に包まれていた。
そよ風が顔を撫で、なんとも心地よかった。
高級ブランド店を出て少し歩くと、賑やかな小さな町に辿り着いた。
綿は町中を歩きながら、承応ならではの文化を肌で感じていた。自然と身体の力が抜け、心からリラックスできた。
承応らしい店が軒を連ね、それぞれの店先には様々な装飾が飾られていた。
綿はどれもこれも、ひとつひとつ気に入った。
「このうさぎ、すっごく可愛い」
綿は手作りのうさぎの泥人形を手に取って言った。
輝明はずっと綿だけを見ていて、道中の景色などまったく目に入っていなかった。
頭上の傘が強い日差しを遮っていた。
その隙間から時折差し込む光が、綿の顔に柔らかく降り注いでいた。