綿は何度か後ろを振り返ったが、輝明は常に二メートルほど距離を取り、控えめに後ろを歩いていた。
「なんでそんなに後ろにばっかりいるの?私と並んで歩くの、そんなに恥ずかしいわけ?」綿は不思議で仕方なかった。彼はなぜこんなにも不器用になったのか、まるで彼女がわざと距離を取っているかのように見えた。
輝明はまたも綿の一言に胸が痛んだ。
彼女が黙って後ろをついてきていたあの頃、彼は一度も「隣に来い」と言ったことがなかった。
たぶん、それが原因だったのだろう。だから彼女は、いつも後ろにしかいなかった。
静寂の中、輝明はふいに尋ねた。
「アイスクリーム、食べたい?」
綿はその時、初めて隣に小さなスイーツショップがあることに気付いた。
最初は断ろうと思った。
けれど輝明の顔を見て、綿は結局「うん」と小さく頷いた。
まあいいか、彼にチャンスをあげても。
女はこうして、つい優しくなってしまうものだった。
でも、男は違う。
輝明は甘いものが苦手だった。
それでも今日は珍しく、二つ注文した。一つは綿に、もう一つは自分用に。
綿は思わず驚いた。
「写真撮ろうよ」綿は輝明の袖を引っ張った。
輝明「?」
「だって、珍しいじゃん。高杉社長がアイスクリーム食べてるなんて」綿はからかうように笑った。
輝明は手に持ったアイスクリームを見下ろし、ぼそっと言った。
「君の楽しみを、ちょっと体験してみたかっただけだ」
綿はスマホを構え、アイスを口元に近づけた。
彼女は眩しいほどに美しく、その輝きの前では、どんなに端正な顔立ちの輝明でさえ、ただの背景に成り下がった。
輝明は伏し目がちに綿を見つめた。
二人の距離はとても近く、彼の吐息が彼女の肌に触れそうなほどだった。
「美味しい?」綿が顔を上げた瞬間、彼はその熱い眼差しで彼女を見つめ返した。
輝明はまだ食べていなかったが、彼女の一言に誘われるように、一口かじった。
悪くなかった。
「これから、もっと試してみてもいいかもな」輝明は答えた。
綿は笑った。
「次は違う味にしてみようよ」
「その時は、君が案内してくれ」輝明は真剣な顔で言った。
綿は眉を上げた。
「もちろん、私の世界へようこそ」
——もちろん、私の世界へようこそ。
その一言に、輝明は一瞬、彼女が自分を受け入れてくれたのだと錯覚した。