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Home / 恋愛 / 高杉社長、今の奥様はあなたには釣り合わないでしょう / 第1064話

第1064話

Author: 龍之介
綿は何度か後ろを振り返ったが、輝明は常に二メートルほど距離を取り、控えめに後ろを歩いていた。

「なんでそんなに後ろにばっかりいるの?私と並んで歩くの、そんなに恥ずかしいわけ?」綿は不思議で仕方なかった。彼はなぜこんなにも不器用になったのか、まるで彼女がわざと距離を取っているかのように見えた。

輝明はまたも綿の一言に胸が痛んだ。

彼女が黙って後ろをついてきていたあの頃、彼は一度も「隣に来い」と言ったことがなかった。

たぶん、それが原因だったのだろう。だから彼女は、いつも後ろにしかいなかった。

静寂の中、輝明はふいに尋ねた。

「アイスクリーム、食べたい?」

綿はその時、初めて隣に小さなスイーツショップがあることに気付いた。

最初は断ろうと思った。

けれど輝明の顔を見て、綿は結局「うん」と小さく頷いた。

まあいいか、彼にチャンスをあげても。

女はこうして、つい優しくなってしまうものだった。

でも、男は違う。

輝明は甘いものが苦手だった。

それでも今日は珍しく、二つ注文した。一つは綿に、もう一つは自分用に。

綿は思わず驚いた。

「写真撮ろうよ」綿は輝明の袖を引っ張った。

輝明「?」

「だって、珍しいじゃん。高杉社長がアイスクリーム食べてるなんて」綿はからかうように笑った。

輝明は手に持ったアイスクリームを見下ろし、ぼそっと言った。

「君の楽しみを、ちょっと体験してみたかっただけだ」

綿はスマホを構え、アイスを口元に近づけた。

彼女は眩しいほどに美しく、その輝きの前では、どんなに端正な顔立ちの輝明でさえ、ただの背景に成り下がった。

輝明は伏し目がちに綿を見つめた。

二人の距離はとても近く、彼の吐息が彼女の肌に触れそうなほどだった。

「美味しい?」綿が顔を上げた瞬間、彼はその熱い眼差しで彼女を見つめ返した。

輝明はまだ食べていなかったが、彼女の一言に誘われるように、一口かじった。

悪くなかった。

「これから、もっと試してみてもいいかもな」輝明は答えた。

綿は笑った。

「次は違う味にしてみようよ」

「その時は、君が案内してくれ」輝明は真剣な顔で言った。

綿は眉を上げた。

「もちろん、私の世界へようこそ」

——もちろん、私の世界へようこそ。

その一言に、輝明は一瞬、彼女が自分を受け入れてくれたのだと錯覚した。

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