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佐藤紗良
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Novel-novel oleh 佐藤紗良

あやかし百鬼夜行

あやかし百鬼夜行

鬼より人の方が鬼ではないか。 一千年生きる鬼へ嫁いだ人の物語。 容姿端麗、凛乎とした鬼と幼い頃に出会った佐加江(さかえ)。佐加江がΩと分かっていた鬼は、村での神事を危惧し、一生に一度しか使えない、人には見えない鬼の番(つがい)の証である仮紋をそのうなじへ刻んだ。 仮紋には大病から守り、Ωにとっては発情を抑制する効果がある。 Ωが成熟して再会すると仮紋は消え、番となるために発情が起こり、本紋を刻む事となる。 再会しなければ仮紋のまま、発情とは無縁に生きて行ける。 鬼は、後者を佐加江の幸せと思っていた。自分はいずれ忘れ去られる存在だと思っていた。が、二人は再会してしまった。
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Chapter: 終章⑥
次の休み、青藍と佐加江は早い時間の新幹線に乗り、電車を乗り継いで鬼治の隣村にある駅へと向かう路線にやっと辿り着いた。 青藍は霊力を失ったわけではない。あの世経由で祠に出ればすぐだったのだが、それでは閻魔に怒られてしまう、と律儀に人として電車に乗っていた。 思えば、青藍と旅行をしたことがない。 駅弁を買ったりおやつを食べたり、この遠出を少しだけ満喫していた。 「また、耳鳴りがする」 「近くなって来たから、良く聞こえますね」 人がまばらな車両内で、青藍の肩にもたれた佐加江は目を閉じていた。 迷子になった時の為にと、先日買ったばかりのお揃いの紺色のダッフルコートを着ている。同じ服を着ていたって迷子になったら、スマホで連絡を取り合えば良い。単に、青藍が同じ服で出かけたかっただけなのではと佐加江は思っていた。 「同じ鬼笛が聞こえるという事は、私達はやはり番なのですね」 ボソッと呟いた青藍の言葉に、佐加江は目を閉じたまま赤くなった顔をフードで隠した。 「次ですよ、佐加江。先に寺へ行きますか」 「お寺は行かなくてもいいんだ。あの洞窟へ花を手向けたい」 「佐加江、あそこは……」 「僕の命が一度、終わった場所」 「知っていたのですか」 「全部、知ってるよ。だから大丈夫」 電車を降りた佐加江は、大きく深呼吸をした。少し懐かしい匂いがする。鬼治よりも少し発展した隣村。駅舎は木造建てで、駅前のロータリーにはタクシーが何台か止まっていた。
Terakhir Diperbarui: 2025-06-22
Chapter: 終章⑤
「音が鳴るって事は、誰かが吹いてるって事だよね」 中途半端な食事になってしまい、 近くのコンビニへ立ち寄って少し高いアイスをふたつ買った。 「鬼治の住人は隣村へ引っ越したので、そちらかもしれません。これだけ距離があると特定が難しい。あの世からなら、すぐわかるのですが」 「近くまで行けば、分かる?」 「ええ」 「次の休みにでも行ってみようか」 「しかし、佐加江……」 「大丈夫だよ。笛、取って来ないと。この音、苦手」 「あの時、天狐様が全ての村人の記憶から佐加江を消したのです。誰かに会っても、佐加江に気付くことはないでしょう。それは辛くはありませんか」 「覚えていられたら、もっと嫌だから……。お母さんとお父さんのお墓参りしたいの。ずっと胸の奥に引っかかっていて」 佐加江は神事のことをほぼ、思い出していた。両親の遺体が洞窟の中に土葬されていたことも。 「隣村にある寺に骨は引き取られたと聞いています。無縁仏として弔われているはずです」 「無縁仏か」 越乃がどうしているのかも、佐加江は気になる。 「……青藍は僕のお父さんとお母さん、知ってる?」 「もちろん。村で一番の好き同士でしたよ」 「好き同士ってわかるの?」 「ええ。見ていれば分かります」 ほろ酔いの青藍が、自転車を引く佐加江の肩を抱いて歩く。 「結婚しよう、と父上が母上へ伝えたのは鬼治稲荷の境内だったのです」 「僕と同じだ」 「血は争えない。胸のあたりがポカポカして不思議な感覚でした。……佐加江、少し昔ばなしをしましょうか」
Terakhir Diperbarui: 2025-06-21
Chapter: 終章④
「――佐加江、私たちは兄弟ではないですよ。番です」 「分かってるよ。でも、この世はいろいろ面倒じゃない」 「確かに。断るの大変でした、お見合い。心に決めた人がいるので、と伝えましたけどね」 「心に決めた人……」 「私には佐加江だけですから」 鳥居を抜け、そこへ止めてあった自転車の鍵を探しながら佐加江は頬を染めていた。 「今日は何食べに行く? 青藍、回ってるお寿司好きだよね。テーブルのお茶用の熱湯で手を洗いそうになったところ」 「あの時、私、見ましたからね!佐加江が笑いを堪えてるの。本当に危なかったのですよ」 「あはは」 青藍が佐加江の肩に腕を回し、少し腰をかがめて額をぶつけてきた。 「ところで、佐加江。記念日に回ってるお寿司で良いのですか」 「記念日?」 「すっかり忘れているようですね、佐加江は」 「何を?」 「今日は佐加江と私が初めて会った日ですよ」 「嘘……」 ハロウィンも終わり、街がクリスマスに向かおうとしていた。青藍の顔が目の前にあり、唇を奪われそうになった佐加江は「外では駄目」と小さく言ったが、止める間もなく唇にキスされた。さっきのご婦人方が、まだ近くにいるかもしれないと言うのに、青藍はこの世で無防備すぎて困ってしまう。 「本当です。まだ幼かった佐加江と出会った記念日です」 マフラーを外した青藍は、佐加江の襟元に巻き笑っていた。 いろいろ迷った結果、やはり青藍が気に入っている回転寿し屋へ行き、カウンター席でふたり並んで食べていた。 「最近、おしゃべりが上手になった子がいてね、何でも『まぁま』って言うの」 「佐加江の事もですか?」 「うん。僕もまぁま」 「これも?」 ぬるめの熱燗を猪口に注ぎながら、青藍が笑っている。 「ふふ。たぶん、まぁま」 「このあいだ佐加江が手を繋いでいた子ですか?」 「そうそう。良くわかったね」 青藍がたまたま託児所の近くを通った時、佐加江が子供を連れて散歩していたのを見かけたのだ。 「子供は可愛いです」 「うん」 「年末年始は忙しいですが佐加江も休みに入りますし、そのあたりでなんとか、あの……こ、こ、こ」 「何で急にニワトリ??」 「違います!そんなボケしとらんわ」 「わあ!青藍、関西人みたい」
Terakhir Diperbarui: 2025-06-20
Chapter: 終章③
『今日はお給料日だから、仕事おわったら迎えに行くね。外でご飯、食べよ』 さっきから青藍は氏子のご婦人方に囲まれている。 見合い話を必死に断っているのだ。そんな青藍を尻目に、仕事が早く終わった佐加江は境内の落ち葉掃きをしていた。掃いても掃いても、大銀杏から黄金色の葉っぱが落ちてくる。 ここは鬼治稲荷とは違い、鳥居を出てすぐ交通量の多い通りがある。周りはビルに囲まれ少し息苦しさはあるが、この境内から見上げる空は広かった。 「宮司さん。いつもいる、あの方は?」 「私のつが……」 「弟です! 兄がいつもお世話になってます」 青藍の言葉を遮って佐加江は大声で応え、深くお辞儀をした。 「あら。よく見かけると思ったら、弟さんだったのね。似てなくてびっくりだわ」 「……ですよね、あはは」 つい口から出まかせの嘘をついてしまった。目を丸くしている青藍が嫌いな嘘だと察知した佐加江は、視界の端に天狐の大きな尻尾が見えた気がして、とぼけたふりをして箒を手に追いかけ、その場から逃げ出した。 「天狐様……?」 大銀杏の陰から出てきたのは、人の姿の太郎だ。 「先生!」 「太郎君?!どうしたの? その制服、近くの進学校だよね」 「はい。四月から高校に通ってるんです。一人暮らしはダメって言われて、あの世からなんですけど」 「そっか」 仔狐の成長は早い。人が好きな太郎は、人間社会で生きたいと思っている。が、天狐に一番よく似ている太郎を手元に置いておきたいのが、桐生の本音だった。 「大きくなったね。身長も先生、追い越されちゃったし」 「早く大きくなりたいと毎日、祈ってます。たくさん勉強もしてるし……。これ、桐生から預かって来ました。いつまで隣は空き家なんだって怒ってましたよ」 「はは」 「僕も、先生だけ隣に帰って来て欲しいです!」 「本当?そんな風に思ってくれて嬉しい」 太郎の言い違いに微笑んだ佐加江は、手渡されたドラッグストアの袋の中を見て言葉を止めた。 (桐生さん、……何やってるの!?) いつものように、あちらで流行っている菓子か何かだと思った。 「袋のなか、見た?」 「妊娠検査薬ですよね。捨ててやろうかと思いました。先生、まだ妊娠してないですよね!?」 「う、うん」 「良かった」
Terakhir Diperbarui: 2025-06-19
Chapter: 終章②
「青藍、馬刺しあるから」 「後で食べます。今は佐加江を食べたいのです」 観賞魚の求愛に触発されるように、二人は肌を重ねていた。 服を脱がされた佐加江は膝立ちになって、人間に擬態するために隠している欠けた角の辺りに唇を寄せる。が、魚が気になるのか青藍に背中を向け水槽を見ていた。 ずいぶんと濃くなった紋を指先で撫でると、佐加江は首をすくめている。 佐加江の背中を見ると、青藍は異常に欲情してしまう。こんな子供のような身体で鬼の紋を背負い、細い腰をくねらせ悦ぶのだから、あやかしの血が騒ぐのは当然だった。 「佐加江……」 「ん、んふ」 肩越しに唇を奪われ、佐加江は余裕のない表情を見せる。 「前は弄らなくて平気、ですか」 「平気。頭おかしくなりそだから、ダメ」 「ふふ」 「な、何?」 後遺症だろう。佐加江は怯えながらも、尿道をいじられることを欲する時があり、癖になるといけないから、と休みの前日だけの約束だった。 「おいで、佐加江」 頬を高揚させ、自ら腰を沈めて行く。 「ん……、気持ちい」 背中を抱き起こし、ツンと勃った乳首を指先で摘んでやると、青藍の肉茎を熱く締め上げる。 被虐的なことを好むようになった佐加江に初めは困惑したものの、鬼の本能的にはこの上ない。歯を立て、うなじに軽く噛み付くと佐加江は雌猫のように脱力し、全てを青藍に預けるようになる。今もそうだ。 会えなかった時にされた事をいまだに考えては嫉妬心のような物が芽生え、手荒にしてしまうのが、このところの青藍の悪い癖だった。 より深く交わるように、佐加江の恥丘を手のひらで強く押さえ込む。と、互いの生殖器が密着し、それだけで二人は達しそうだった。 「ヒ……っ」 ちぎれるほど強く乳首をつねる。青藍の精液を搾取するように内壁がキュウと締まり、紋が波打つ。 「イ……ッ、イク」 「佐加江は、すぐに達してしまいますね」 「だって青藍の……、が」 佐加江は青藍の股座でつま先を縮こまらせ、柔い内腿を震わせていた。 「佐加江、少し我慢なさい」 「……ッ」 甘く耳元で囁き、耳たぶを噛むと佐加江はあっけなく達してしまった。射精はなく、まだ足りないと言う証拠だった。 目の前の水槽では、泡巣の下で雄がじっと卵を守っている。つい先ほ
Terakhir Diperbarui: 2025-06-18
Chapter: 終章①
あなたにも こんな人がいないだろうか。 顔は思い出せるけど、名前が出てこない。 あるいは 名前は覚えているけど、どんな顔だったけな。 僕らは いずれ そう言う存在になる。 ♢♢♢ 「佐加江……、佐加江! 助けてください」 夕飯の支度を終え、あとは青藍が帰ってくるのを待つだけだった。 鬼治より都会の、地方都市での生活ーー。 あやかしが街に溶け込むには都会が良い、と仕事も住まいも閻魔によって決められた。 青藍は神社の宮司として、佐加江は託児所のアルバイトとして働いている。そして、神社からほど近い、日本中が高度経済成長に湧いた頃に建てられた空き家を二人でリフォームして住み始め、もう三年の月日が経った。 佐加江は、うなじの紋と首の傷が見えぬよう常にタートルネックを着ている。が、それより問題だったのは青藍だ。こちらに住み始めてすぐ、油断すると欠けた角が出てしまう事が分かった。 最初の頃、良くしてくれる氏子に誘われた酒の席の帰り道、「迎えに来て」とだけ言って切れてしまった青藍からの電話。何事かと佐加江は近所中を探し回った。なかなか見つからず、公園のトイレの個室を覗くと酔っ払った青藍が角を出した状態で泥酔し、便器を抱えながら安らかに眠っていたのだ。 どんなに肝が冷えたことか。 そのあと、スマホで証拠写真を撮って家へ連れ帰ったのたが、困ったことに鬼の姿では写真に写らないのだ。青藍に事情を説明すると反省はしてくれた。そして、佐加江と一緒のとき以外は飲酒はしなくなったので一安心だったのだ、が。「青藍、おかえり。どうし……って、また?!」 玄関を開けると猫をたくさん引き連れた青藍が、家へ入れなくて困っていた。「こやつらは、私があやか
Terakhir Diperbarui: 2025-06-17
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