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白浪まだら
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Romans de 白浪まだら

時空勇者 〜過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました〜

時空勇者 〜過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました〜

 ある日、勇者として覚醒した青年セリュオスは、各地で仲間を集め魔王エレージアに挑んだ。だが、圧倒的な力の前に彼らは追い詰められ、ついには衝撃の真実を知らされる。 「ーー私の命は過去の文明に七つある。過去の時代に遡って、すべての魔王の命を滅ぼさなければ、現代に生きる私の命が尽きることはない……」  仲間たちが絶望する中、セリュオスだけは一人諦めていなかった。禁忌の魔術《時空追放(テンプス•エクシリウム)》を発動して過去の時代に遡る決断をする。  そこで彼を待っていたのは、かつての歴史にふうじられた全く別の世界だった。勇者と魔王、宿命に導かれた二人の長き戦いの物語がここに始まるーー。
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Chapter: 第77話「決意と鼓舞」
 今度こそ|辿《たど》り着いた遺跡の最深部は、不気味なほど静まり返っていた。  風の音はなく、ある存在を除いて生き物の気配を感じることはできない。 空気は|澱《よど》んでおり、呼吸をするたび、喉の奥にザラザラとした違和感が残るようだ。  誰であっても、こんな場所に長く留まりたくはないだろう。 そして、砕けて跡形もなくなった祭壇の奥。  かつて封印されていたであろう存在が、そこに|佇《たた》んでいた。 ラウシュだ。  圧倒的な威圧感によって、その正体が理解できてしまう。 輝く宝石の欠片が周囲に散らばり、ラウシュの体には宝石でできた鎖が絡みついている。  無数の豪華な箱が積み重なり、まるで生き物の肉体のように形を成していた。  それは人の姿を模しているようにも見えるが、どこか|歪《いびつ》であり、鳥肌が止まらない。「あれが……ラウシュの本当の姿なのかァ……」  ガドルの声は低い。  だが、その表情には怒りと嫌悪と僅かな動揺が|滲《にじ》んでいた。 その手前には、宝石の鎖に|繋《つな》がれたディリダが宙に浮かんでいた。  着せられているのは、白を基調としたドレスだ。 布地には幾多の宝石が縫い込まれ、光を受けるたびに、冷たく|煌《きら》めく。  それを花嫁衣装と呼ぶには、あまりにも重そうで、ラウシュの趣味が全開になっていた。「ディリダ……! 今、助けてやるからなァ!」  ガドルがその名を叫ぶ。  だが、ディリダは|俯《うつむ》いたまま、答えない。  彼女の代わりに返事をするように、縛っていた鎖が|軋《きし》む音を立てた。『やあやあ、来てくれて嬉しいよ』  ディリダの向こうで、ラウシュの影が揺れた。  ラウシュの腕が彼女に伸び、楽しげに顔を|歪《ゆが》める。『おかげでボクも準備ができたんだ。……彼女との、結婚式の準備がね!』  その言葉に空気が凍りついた。  しかし、ガドルは一歩も引いていない。「ディリダと結婚……そんなこと、あっしらの前でさせるわけねえだろォ!」  ガドルは勢いのままにディリダに向かって駆け出した。『ああ、だからダメだってば――勝手に近づいたら困るよ』  すると、即座に宝石の鎖が暴れ始めた。  冷たい宝石の光を散らしながら、ディリダの首元を締め上げる。「
Dernière mise à jour: 2026-06-17
Chapter: 第76話「戯れ」
 セリュオスたちが遺跡の奥に|辿《たど》り着くと、一気に視界が開けた。  通路を抜けた先に広がっていたのは、円形の大広間だった。 天井は異様なほど高く、闇の中へ吸い込まれるように伸びている。  本当に遺跡の中だったのか、疑わしいほどに。 その中央には、かつては封印の中枢だったであろう巨大な柱が並び立ち――いや、正確には立っていた痕跡が残っているだけだった。  柱は半ばから砕け、宝石が埋められ、封印陣が刻まれていたであろう表面は剥がれ落ち、内側の核が剥き出しになっている。 床には放射状の亀裂が走り、それを縫うように魔力が脈打っていた。  シエルハだけでなく、セリュオスでも感じるくらいには強くなっている。「……ここが、最奥か?」  セリュオスが低く|呟《つぶや》き、周囲を見渡す。  剣を構えたまま、足の裏で床の感触を確かめるように警戒しながら、一歩踏み出した――その瞬間だった。「……ッ!」  空気が|歪《ゆが》んだ。  まるで水面に石を投げ込んだかのように、視界の端が揺らめく。 次の瞬間、遺跡の中に存在する影という影が、ゆっくりと剥がれ落ちるように形を成し始めた。  人型に近いものや獣を無理やり継ぎ合わせたような影。  四肢の数すら定まらず、輪郭が常に揺らいでいる不気味な影。 それらは静かに、しかし統率されたような動きでセリュオスたちを取り囲んでいく。  逃げ場はすぐに失われてしまった。「……こいつぁ、ラウシュの|眷属《けんぞく》に違えねェ」  ガドルの声は喉の奥から絞り出すように低かった。  恐怖というよりも、知っているものを見た時の確信に近い声だった。「ああ、数が多いな。だが……」  セリュオスは視線を走らせる。 「一体一体はそこまで強いとは思えない」  ミストヴェラールの魔物たちも退けてきたセリュオスたちにとって、有象無象の影たちは脅威には感じられなかった。「こちらを包囲して、足止めが目的の配置ですね。彼らの目的は殲滅ではありません。……時間稼ぎです」  魔力の流れを読んでいたシエルハが淡々と分析をしている。  すると、レバザが即座に霧を広げて、シエルハを守る壁を作り上げた。「何かあっても、私がいるから安心しなさい」 「とっても心強いです……!」  霧の壁だけでな
Dernière mise à jour: 2026-06-10
Chapter: 第75話「封印遺跡」
 セリュオスたちが見つけた遺跡は、森の最奥で――まるで獣の顎のように口を開けていた。  巨大な石造りの隙間に、樹木の根が絡みつき、|蔦《つた》が何層にも重なって垂れ下がっている。 人の手によって築かれたはずの石組みは、今や自然と区別がつかないほど侵食され、それでもなお、工人たちの意志を残していた。  近づくだけで、胸の奥がざわつき、空気は重く、そして冷たかった。 その場のすべてがセリュオスたちを拒もうとしている。  そう感じさせる圧迫感が、遺跡全体から|滲《にじ》み出ていた。「……少し見ねえ間によォ、なんか変わっちまったなァ」  ガドルが低く|唸《うな》るように|呟《つぶや》いた。  その声は霧に吸い込まれてしまいそうなほど小さかった。 ここがかつてガドルとディリダが子どもの足で踏み入った場所。  無知なままただひたすらに好奇心に突き動かされ、そして――恐怖のあまり逃げ出してしまった場所であり、ガドルの後悔の原点。  そんなガドルの視線は、遺跡の開口部に固定されたまま、動かなかった。「これが……」  シエルハが思わず息を|呑《の》んでいる。  見上げる遺跡の外壁には、所々に宝石のように|煌《きら》めく鉱石が埋め込まれ、淡く光を反射していた。「ラウシュの封印遺跡……。ですが、封印したという割には……随分と、装飾が施されているんですね」  学者の視点から見ても、それは異様な光景ということらしい。  確かに、魔王の幹部を封じるための施設にしては、あまりに色鮮やかで装飾的すぎる。「あの野郎が出てこないようにって、遠いご先祖たちが願掛けしたって聞いてるぜ」  ガドルがぶっきらぼうに答える。  地を這う民の口伝では、そう伝わっているらしい。「宝石一つ一つに、祈りと呪文が刻まれてる。見た目は綺麗かもしれねえが、その中身は恨みつらみってやつだなァ……」  ガドルは言葉を切り、一歩前に出た。  遺跡の開口部付近で立ち止まると、セリュオスの方を振り返る。「中に入る前に言っとくが、この遺跡は、絶対にショートカットができねえんだァ」  その表情は冗談を言っているようなものではなかった。 「中に足を踏み入れたら、とにかく罠と仕掛けのオンパレード。壁、床、天井……全部が敵になっちまう」「……それなら、どうや
Dernière mise à jour: 2026-06-03
Chapter: 第74話「ラウシュの狙い」
 一行の先頭にはガドルが立ち、森の奥へ進むほどに霧は濃さを増していた。  視界は白く|澱《よど》み、数歩先の木々すら輪郭が曖昧になる。 地中にいる間はこの霧を見ることがなかったから忘れていたが、ミストヴェラールすらも敵となり、道に迷わせようとしてくるのだ。  とは言っても、セリュオスたちがその思惑どおりになることはない。 オルデリウスの意志を宿した|蛍晶《けいしょう》鉱石の首飾りが、道を示してくれるからだ。  それと同時にレバザも霧に混じったディリダの匂いを探ってくれている。 それでも、湿った空気が肺に絡みつき、呼吸のたびに重さを感じさせてきた。  地面を覆う|蔦《つた》は、まるで生き物のように足首へ絡みつき、進行を拒む意思を隠そうともしなかった。 その中で、ガドルの後ろを進んでいたレバザの足が、不意に止まった。  彼女が周囲に|纏《まと》っていた霧の揺らぎが、僅かに変わったように見えた。  彼女は斧槍を構え直すでもなく、ただ静かに立ち止まり、視線を上方へと移す。「……どうしたんだ?」  セリュオスも歩みを止め、仲間たちが自然と周囲を警戒する。 「いや、そこにいるアンタは誰だい? 隠れてないで出てきな」  その瞬間だった。 上方から、葉擦れの音が聞こえてきた。  ごく小さな音ではあるが、本人も姿を隠すつもりはなかったのか、気配を隠そうとしているわけではなさそうだった。「それ以上進めば、罠が待ち構えている」  澄んだ声が霧を切り裂く。  彼女は樹上から静かに降り立ちながら告げた。  淡い緑の衣に身を包み、しなやかな身のこなしで地面に立ったのは樹上の民の少女だった。「お前は確か、アシリィだったか……」  セリュオスがその名を呼ぶと、彼女は小さく|頷《うなず》いた。 「ちゃんと、名前を覚えてるのね……」  エレージアが何か言ったような気がするが、セリュオスは聞こえなかったフリをする。 対峙しているアシリィの表情は変わらないものの、その瞳にはこの森の異変を見逃すまいという鋭さが宿っていた。 「久し振り、勇者。でも――あまり急ぎすぎると、相手の思う壺」「だが、俺たちは魔王の幹部に|攫《さら》われてしまったディリダを助けなければならない」  セリュオスは|躊躇《ためら》いなく言った。
Dernière mise à jour: 2026-05-27
Chapter: 第73話「魔王の幹部」
 |攫《さら》われたディリダの追跡は、地を這う民の街の外縁――普段は堅く封じられているはずの通路から飛び出し、さらに奥へと続いていた。  石の扉の隙間からは、湿った外気がゆっくりと流れ込んでいた。 冷たく、重い匂い。  木々の葉と漂う霧は、地上特有の香りだった。 セリュオスは無意識に大きく息を吸い込んでいた。  胸いっぱいに広がる空気に懐かしさがよぎる。  だが、それは|安堵《あんど》とは違うものだった。「……外まで出ちまったなァ」  ガドルの|呟《つぶや》きは、どこか|掠《かす》れている。  外に出た喜びよりも、焦りと不安が色濃く|滲《にじ》んでいた。 それでも、ガドルは足を前に運ぼうとする。  確かに、立ち止まっていてはディリダの元まで|辿《たど》り着くことはできない。 レバザが斧槍を振り回し、周囲に漂う霧を操りながらディリダの行方を探っている。 「ディリダを攫った痕跡は、この先に続いているみたいだね」    すると、レバザが示した道の先で、エレージアの指先が小さな欠片を拾い上げた。 「これは……鉱物みたいね」  掌の上で光る欠片を見つめ、眉を|顰《ひそ》める。 「でも、なぜ鉱物がこんなところに落ちているんでしょうか? 辺りに山は見当たらないのに……」 シエルハの疑問にエレージアが首を横に振る。 「いいえ、自然にできたものとは限らないわ。魔物が体内で造り出したものかもしれないし」 セリュオスも一歩近づき、欠片を確認することにした。  硬質な鉱物は自然のものとは思えない輝きを秘めていた。 「確かに、これは自然にできたものとは思えない……。ここまで不純物の混じらない鉱物ができるのは|稀《まれ》だからな。……これは、敵が落としたものなのか?」「わからないけど、そもそも……誰がディリダを攫ったの?」  エレージアが周囲を警戒しながら口を開くと、沈黙が落ちた。  誰もが考えてはいたが、口に出すのを|躊躇《ためら》っていた疑問だった。「あっしにも、わからねェ。こんなことは……初めてだ」  ガドルの視線は前方から逸らしていなかった。  これまで魔物が侵入することのなかった地を這う民の街が、外部から明確な敵意を向けられることなど、ほとんどなかっただろう。  ましてや、特定の個人を狙った誘拐など、誰の仕業と考えたら良いの
Dernière mise à jour: 2026-05-20
Chapter: 第72話「誘拐」
 地下街の朝は、光ではなく音で始まった。  鉱石や金属を打つ乾いた響きが洞内を駆ける。 水路を流れる水は一定の調子で岩肌を|撫《な》で、遠くで誰かが呼び交わす声とそれに応じたであろう人々の足音が聞こえてくる。  地を這う民の街は、奇妙なほど静かに明るくなり始めた。「地上では鳥が朝を知らせてくれるが、やっぱり地下の朝は静かな気がするな」  お世話になったディリダの家を出たセリュオスは通りを歩きながら、動き出す街を眺めていた。  だが、昨日と同じはずの風景、灯具、石畳、生活の気配にも関わらず、何かが|噛《か》み合っていないような違和感を拭えずにいた。「……んー。でも、妙ですね」  首を傾げながら足を止めたのは、シエルハだった。  彼は壁面に刻まれた古い紋様の前に立ち、それをなぞるように指先を動かしている。  触れるというよりも、何かの流れを追っているように見えた。「何が妙なんだ?」 「この街全体がおかしいと言いますか、昨日と比べて明らかに魔力の流れが変わっているんです」 「魔力の流れが変わった? どういうことだ?」  魔力の流れと言われても、正直ピンとこなかったセリュオスが問い返す。「ええっとですね。昨日が晴れだとしたら、今日は嵐みたいに流れが乱れていると言いますか。……つまり、何かが外から触れたような違和感と言えば良いでしょうか。少なくともこれは、内部からの変化ではありません」  シエルハは確かめるように|頷《うなず》いて、慎重に言葉を|紡《つむ》いでいく。  言いたいことがわかるようで、わからなかった。「この街に対して、外から干渉があったということ?」  シエルハの言葉を|噛《か》み砕くように、エレージアが聞き返す。 「はい、その可能性が高いと思います。しかも……これはおそらく、昨夜のうちに起こったものに違いありません」  そのやり取りを、ガドルはただ黙って聞いていた。 彼の視線はセリュオスたちには向いていない。  通りの先――街の奥へと続く道を、ただじっと見つめている。 そこでは、ちょうどディリダが歩いていた。  作業用の|鎚《つち》を肩に担ぎ、昨夜まで、彼女の背中に張り付いていた|棘《とげ》のような緊張は、今は感じられない。  だが、それが逆にセリュオスの胸をざわつかせた。
Dernière mise à jour: 2026-05-12
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