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もう一度、やり直せるなら  〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜

もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜

告白に成功し、理想の彼女ができた。 これで全部、上手くいくはずだった。 けれど―― ずっと当たり前だった幼馴染は、 その日から、自分の気付かないうちに、少しずつ距離を変えていく。 今まで気づかなかった想い。 変わってしまう関係。 これは 「彼女ができた日」から始まる、 青春と後悔の物語。
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Chapter: 1-4 大切な時間と変化
 駿が倉庫裏に着いた時、早川さんの姿はまだなかった。 ◆◆◆ 夕焼けに染まった校舎の影が、静かに地面へ伸びており、風が吹くたび、木々がかすかに揺れていた。 スマホの時間を確認するが、まだ数分しか経っていない。 本来なら、早川さんが所属するバドミントン部はテニス部よりも早く終わって、待っているはずだった。(……練習、長引いてるだけだよな) そう思おうとするのに、別の考えが勝手に浮かんでくる。 疑いたくないのに、疑ってしまう。(何考えてんだよ、俺) 頭では分かっている。けれど、不安は理屈じゃ止まらない。 胸の奥に、小さな黒いものが広がっていく。  その時だった。「ごめん!練習が長引いて遅くなった」 弾むような声に振り向くと、果奈が駆け寄ってきた。 少し乱れた髪。 肩で息をしている姿。 その瞬間、全身からふっと力が抜け、自分でも驚くくらい、安心してしまっていた。 早川さんの声が聞こえた瞬間、強い安心感に襲われる。「……安心した顔してるけど、どうしたの?」「と、特に何もないよ」 不安になっていたことを勘付かれないように話したつもりだったが、ぎこちない返答になってしまった。 そして、早川さんはじっとこちらを見つめてくる。 逃がさないみたいに。「もしかして……私が来ないと思ってた?」 言葉に詰まり、否定しようとして、できなかった。 その沈黙だけで、十分伝わってしまったのだろう。「私がそんなことするわけ、ないでしょ!」 早川さんは眉をきゅっと寄せた。  怒っている。 最初はそう思った。  でも、違った。 その表情の奥にあったのは、傷ついたみたいな寂しさだった。 「ごめん、こういう経験が初めてで、嬉しい気持ちと同時に不安な気持ちもあって……」「私も初めてなんだから……」 ぽつりと落ちた声は、思ったよりずっと弱かった。「今まで、何回も告白されてきた。だけど……」  一度、視線が落ちる。 言葉を探しているみたいだった。 「“可愛いから”とか、“好きだから”とか……そういうのばっかりだった」 夕陽が、早川さんの横顔を淡く染める。「ちゃんと私のこと見てくれてるって、思えなかった」 何も言えず、視線を逸らすことしかできない。「でも、駿は違う気がした」  真っ直ぐな声だった。 「ちゃんと、
Last Updated: 2026-06-11
Chapter: 1-3 膨らむ期待
 翌朝。 駿は目覚ましが鳴る少し前に、自然と目が覚めた。 ◆◆◆ カーテンの隙間から差し込む朝の光が、やけに眩しい。  ぼんやり天井を見上げながら、小さく息を吐く。  胸の奥が落ち着かない。だけど、嫌な感覚ではなかった。 むしろ逆だ。 何かが始まってしまった後特有の、ふわつくような高揚感。 昨日の放課後。 夕陽。 震える声。 思い返した瞬間、身体が熱くなる。 枕に顔を埋めたくなるくらい恥ずかしいのに、何度も思い返してしまう。(……付き合ってるんだよな、俺たち) まだ実感は薄いけど、昨日の出来事を頭の中で繰り返すたび、少しずつ現実が輪郭を持ち始めていた。 制服に袖を通し、家を出る。 空気は少し冷たくて、それが逆に心地よかった。 いつもと同じ通学路のはずなのに、世界の色がほんの少し違って見える。 学校へ着き、教室へ入ると、まだ席は半分ほどしか埋まっていなかった。 朝特有のざわめき。 窓際で話す女子の笑い声。 机に突っ伏したまま眠っている男子。 その中を歩いていると、まるで自分の告白が成功したかのように、直己がウキウキしながら話しかけてくる。「おはよー!駿。どうだ1日目の朝は?」「いつもの朝と変わんないよ」 そう答えたはずなのに、直己は肩をすくめた。「表情からはそう見えないけどな」 普通に答えたつもりだったが長い間、関わってきた直己にはバレバレだった。「直己には敵わねぇ」「まぁーな」 直己との軽口に夢中になっている時だった。 教室の扉が開き、早川さんが入ってくる。 いつも通りの制服姿。 肩の辺りで揺れるポニーテール。 友達と自然に挨拶を交わしながら、自分の席へ向かって歩いてくる。 ただ、それだけのことで、昨日までと何も変わらないはずなのに、何故か落ち着かない。 そして。  一瞬だけ、目が合う。  その瞬間、早川さんの瞳がわずかに揺れた。 すぐに視線を逸らされる。 けれど、耳が少し赤かった。  その小さな変化だけでも、嬉しかった。 昨日の告白は夢じゃなかった。 ちゃんと現実なんだと、ようやく実感が追いついてくる。  気づけば、自然と口元が緩んでいた。  だが結局、いつもと変わらない一日を過ごして、気づけば放課後になっていた。  ため息をついた後、教材をしまおう
Last Updated: 2026-06-11
Chapter: 1-2 夢みたいな現実
 帰り道。 駿は告白が成功したことを実感できないまま、家に向かって歩いていた。 ◆◆◆ 果奈と途中まで一緒に帰っていたのだが、正直何を話したのか覚えてない。 それどころか、ついさっき告白が成功したという事実を、まだうまく受け止めきれずにいた。 夕暮れの街を歩きながらも、足元がどこか浮ついている。 通り過ぎる自転車の音も、信号機の電子音も、妙に遠かった。 頭の奥では、さっきの声が何度も繰り返されている。 ――「……いいよ」 あの小さな返事。 照れたような表情。 夕陽に染まった頬。 思い返すたび、胸の奥が熱くなるが、同時に、現実感が薄かった。(……本当に、付き合うんだよな) 夢を見ているようだった。少しでも気を抜けば、全部消えてしまいそうで。 嬉しいのに、落ち着かない。 誰にも知られてはいけない秘密を抱え込んでしまったような、くすぐったい感覚だけが残っている。 それを引きずったまま歩いていると、家に到着していた。 居間に向かうと、台所から妹である浅村結(あさむら・ゆい)が顔を覗かせる。「兄さん、おかえり」「結、ただいま」 その後ろから、黒髪のボブを揺らしながら、もう一人の少女が現れた。「駿君、おかえり。今日の夕飯は肉じゃがね」 彼女は、島内美生(しまうち・みお)。 美生は父親同士が仲が良かったことと互いに母親を亡くしており、幼い頃から深い関わりがあった。 今は互いの父親が仕事で帰る時間が遅いため、平日は毎日のように美生が浅村家に来て、夕飯を作っている。 それもあって、美生は幼馴染というよりは、一人の"家族"に近しい存在だった。「ただいま、色々あって疲れて、お腹ペコペコ」「今日、部活無かったのに帰るの遅かったけど何かあったの?」 幼馴染としてのいつもの問いかけなのに、一瞬、心臓が変に跳ねた。「ちょっと、寄り道して遅くなった」 何故か、告白のことは言わずに、話を流してしまう。 その後、三人で夕飯の準備を済ませ、食卓を囲む。 肉じゃがの甘い匂いと、湯気の立つ味噌汁が食欲をそそる。 いつも通りの夕食だった。「美生姉さん、後で数学教えてもらってもいいですか?」「いいよ」「たまには俺が教えようか」「美生姉さんの方が分かりやすいから、結構です」 遠慮のない一言が、地味に刺さる。「結ちゃん、そんなこと言
Last Updated: 2026-06-11
Chapter: 1章 変わる日常 1-1 全ての始まり
「早川さん……俺と、付き合ってください」 放課後の教室には、もう二人しか残っていなかった。 今日は全ての部活がなく、窓の外では、下校する生徒たちの声が遠くに混ざり合っている。 けれど、その喧騒はガラス一枚隔てただけで別世界みたいに遠かった。 上野高校二年四組。 夕陽が斜めに差し込み、机の影を長く床へ伸ばしている。 オレンジ色に染まった教室の中で、浅村駿(あさむら・しゅん)の声だけが、不自然なくらいはっきり響いた。 ◆◆◆ 喉が熱い。 心臓がうるさい。 指先にはじっとり汗が滲んでいた。「……」 彼女、早川果奈(はやかわ・かな)は、一瞬だけ目を見開き、何かを隠すみたいにゆっくり俯いた。 印象的な茶色のポニーテールが肩の横で揺れる。 返事はない。だけど、机の端を掴んだ細い指が、かすかに震えていた。 教室の時計が、かちり、と鳴る。一秒一秒が、永遠みたいに長かった。 やっぱり無理だったかもしれない。 急すぎた。 今の、忘れてくれって言えば。 弱気な考えが次々浮かぶ。 逃げ出したかったし、この沈黙ごと、なかったことにしてしまいたかった。  でも。 ここで引いたら、きっと一生後悔する。 そんな気がした。「……入学式の日」 俺でも驚くほど、声は静かだった。「学校で迷っていたところを早川さんが案内してくれて」 あの日の光景が脳裏に浮かぶ。 まだ慣れない学校のなか、どこに行けばいいのか分からず、途方にくれていた時、声をかけてきたのは早川さんだった。 早川さんは初対面の俺に、教室の方向を指差しながら、丁寧に案内してくれた。 そして、別れ際に見せた太陽のような明るい笑顔が今でも鮮明に残っている。 一目惚れだった。「それから意識するようになって、気づいたら、好きになっていました」 言い切った瞬間、胸の奥が空っぽになる。後は返事を待つだけだ。  沈黙。 窓から差し込む夕陽が、早川さんの横顔を淡く照らしている。 伏せられた睫毛。 赤く染まった耳。 制服の袖を小さく握る指先。 その全部が妙に綺麗で、だから余計に怖かった。 やがて。 本当に長い時間のあとみたいに感じた数秒後。「……付き合っても、いいよ」  消えてしまいそうなくらい小さな声。けれど、その言葉は確かに俺の胸へ届いた。 「……え」 間
Last Updated: 2026-06-11
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