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3-3 抜け出せない絶望

Auteur: 青サバ
last update Date de publication: 2026-07-22 19:02:00

 放課後。

 駿は近々ある大会の為にも部活に向かおうとする。

◆◆◆

 本来なら部活へ向かう時間で、近々大会もあり、休む理由なんて無い筈だった。

 だけど。

 この状態で部活をやっても、集中出来ないし、ミスを繰り返して部員たちに迷惑を掛けるだけだ。

 何より。

 今はテニスをする気力そのものが残っていなかった。

 重い足取りで教員室に居る顧問の今江(いまえ)先生の元へと向かい、体調不良と嘘をついて部活を休むことにした。

「今江先生、体調が悪いので今日、部活休ませてください……」

 自分で言っていて分かった。

 その声には全く力が無く、嘘をついている罪悪感もある。

 けれど、本当の理由なんて説明できるはずもなかった。

 今江先生は少しだけ俺を見つめて、何かを察したようだった。

 だが深くは聞いてこない。<
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     その日の夜。 駿はベッドの上で今日の試合のことを振り返りながら寝転がっていた。 ◆◆◆ 勝てた試合もあれば、悔しさだけが残った試合もあった。 そして何より、隆二と交わした約束。 新人戦では、必ず二人で代表になる。 その決意を胸の中で静かに噛み締めていると、不意にスマートフォンが震えた。 画面を見ると、送り主は果奈だった。『今から電話しても大丈夫?』 果奈からそんなメッセージが送られてくるのが珍しく、嬉しさあまり、反射的に返信する。『大丈夫』 送信した直後。 着信画面へ切り替わり、急いで通話ボタンを押した。「果奈から電話なんて珍しいけど、何かあったの?」「何かあったって訳じゃないんだけど、ただちょっと話がしたくて」 果奈は少し照れくさそうに笑う。「実は今日、美生と一緒に料理の特訓してたの」「そうなんだ、何を作ったの?」「肉巻きときんぴら」 その瞬間だった。 頭の中に、あの日のお弁当が鮮明によみがえる。 見た目は完璧だった。 けれど、一口食べた瞬間に広がった、予想以上の塩辛さ。「へ、へぇ……」 なんて返せばいいのか分からなくなり、ぎこちない返事になる。「絶対今、前回の弁当のことを思い浮かべたでしょ!」「そんなことないって」「本当に?」「本当に本当」「でも大丈夫」 果奈の声色が少しだけ柔らかくなる。「美生に教わったところもあったけど、上手くいったよ」 その一言に、胸が温かくなる。「……そうなんだ」 少し間を置いてから、口に出す。「美生の教えがあったとはいえ、二回目で出来たのは凄

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     三日後の放課後。 美生は駿と共に週に一回ある大きな買い物をして、駿の家へと向かった。 ◆◆◆ 夕暮れの空はまだ淡く、手に提げた袋が小さく揺れる。 する曜日は決まっていないけれど、この時間は私にとって当たり前になっていた。 家に着くと駿君の父親である、浅村健介(あさむら・けんすけ)が帰ってきていることに気付いた駿君が驚く。「父さん!?なんで居るの?」「なんで居るの?は酷いな~たまにはこういう日もあってもいいだろ」 そのやりとりを見て、自然と頬が緩んだ。 健介さんは普段、仕事で二十二時過ぎに家に帰り、今日のような時間に帰ってくるのは年に数回あるか、無いかだった。「美生ちゃん、いつも夕飯作ってくれてありがとね。今日は買ってきた食材でおじさんが作るから駿たちと一緒に待ってて」「いえいえ大丈夫ですよ。健介さんこそ、家族とのひとときを楽しんでください」「まぁまぁそんなこと言わずに、たまには美生ちゃんにも息抜きが必要なんだから、今日は任せて」  そう笑いながら言う健介さんだったが、 その笑顔の奥に、ほんのわずかな疲れが見えた気がした。「では、少しだけお手伝いさせてください」「美生ちゃんがそこまで言うなら、野菜とか切るのお願い出来る?」「はい、分かりました」 そう言って、共に台所へと向かい、調理を始める。 まな板の上で包丁が小気味いい音を立てて野菜を切っていると、健介さんが話しかけてくる。「美生ちゃん、改めてありがとね。平日の夕飯の調理だけじゃなくて、日用品の買い物や結の勉強に付き合ってくれたりしてくれて」「大したことないですよ。健介さんも毎日平日の夜遅くまで働いているのに、休日も駿君や結ちゃんの為に頑張っているじゃないですか。私は、本当に少しお手伝いしているだけです」 健介さんは何も言わず、私の話を聞いていた。

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   2-2 幸せな余韻

     果奈に流されるまま、駿は映画館へと向かった。 ◆◆◆ 映画館は休日ということもあり、様々な人たちで賑わっていた。 「私、観たい作品があるのだけどそれでもいい?」「いいけど、どんな作品?」「恋愛もの。ラスト泣けるって友達が言ってたから気になってたんだよね」「そうなんだ」 特に観たい作品も無かったし、一緒に見られればそれでいいと思い、この作品を観ることにする。  作品のタイトルは『失いたくない』。  主人公がヒロインへの告白から始まる恋。 想いが通じ合い、幸せな結末へ向かう筈だったが、ヒロインが通り魔に刺されてそのまま死んでしまう。 絶望していた主人公がヒロインの真実

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   2章 様々な初めて 2-1 初めてのお出かけ

     週末。 午前中の部活を終え、駿は家に戻るとすぐシャワーを浴びた。 ◆◆◆ 髪を洗って、流して。  念のためもう一度首元にシャワーを当てる。 絶対に汗の匂いが残らないよう、念入りに身体を綺麗にする。 (気にしすぎだろ) そう思ったが、手は止められない。   今日は、果奈と二人きりで出かける。 考えるだけで、落ち着きを保てなくなっていた。   シャワーを終え、家にある姿鏡の前で服を広げる。 候補が何着も並んでおり、着てみては脱ぎ、鏡を見る。 しっくりくるやつもあったが、すぐに違う気がして、また着替え直す。「……何やってんだ、俺」 服選びがただの繰り返し作業へ

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   1-4 大切な時間と変化

     駿が倉庫裏に着いた時、早川さんの姿はまだなかった。 ◆◆◆ 夕焼けに染まった校舎の影が、静かに地面へ伸びており、風が吹くたび、木々がかすかに揺れていた。 スマホの時間を確認するが、まだ数分しか経っていない。  本来なら、早川さんが所属するバドミントン部はテニス部よりも早く終わって、待っているはずだった。(……練習、長引いてるだけだよな) そう思おうとするのに、別の考えが勝手に浮かんでくる。  疑いたくないのに、疑ってしまう。(何考えてんだよ、俺) 頭では分かっている。けれど、不安は理屈じゃ止まらない。 胸の奥に、小さな黒いものが広がっていく。   その時だった。 「

  • もう一度、やり直せるなら 〜告白成功から始まる、それぞれの選択〜   1-3 膨らむ期待

     翌朝。 駿は目覚ましが鳴る少し前に、自然と目が覚めた。 ◆◆◆ カーテンの隙間から差し込む朝の光が、やけに眩しい。    ぼんやり天井を見上げながら、小さく息を吐く。    胸の奥が落ち着かない。だけど、嫌な感覚ではなかった。 むしろ逆だ。 何かが始まってしまった後特有の、ふわつくような高揚感。  昨日の放課後。  夕陽。  震える声。  思い返した瞬間、身体が熱くなる。 枕に顔を埋めたくなるくらい恥ずかしいのに、何度も思い返してしまう。 (……付き合ってるんだよな、俺たち) まだ実感は薄いけど、昨日の出来事を頭の中で繰り返すたび、少しずつ現実が輪郭を持

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