Chapter: 17.慰労会「どうしてこうなったんだろう」 家庭科実習室のお客様席で、『学園パトロール隊慰労会』の垂れ幕を見ながらリュークに問いかける。金をかけている学園だけあって、テーブル席エリアまで用意されている。 「たぶんお前のせいだろ?」「リュークたちは台車レースの時、先に戻ったじゃないか。むしろ、その時になんかあったんだろ?」「特には……あの侯爵家の次男、セヴォルトに『ベル子とルリルリの親衛隊をつくってもいいか』と聞かれたくらいだな」「それだろ! 早く言えよ!」 思いっきりファンクラブじゃないか! しかもルリアンまで!? やはり前世で人気のあった二人は男心をくすぐるのだろうか。「冗談だと思ったんだよ……」 原因をつくったのはお前だろうという目で見られる。あのあと、どんな会話があったんだ。 無事、変顔選手権イベントは起こらなかったようだ。顔が固定してしまった奴らが仲間と共に旧校舎に駆け込んでくるはずが、まったく来ない。おそらく俺たちの知らない間に、ただ皆で変顔をして遊ぶだけのイベントに変化したのだろう。 問題は、ロシアンルーレットお団子事件だ。これが……おそらく、この学園パトロール隊慰労会に変化した。 慰労されるほどの活躍はしていない。なにせ俺らは入学したばかりだ。単に「ルリルリとベル子に美味しいお団子を選んでもらおう審査会」とあからさまにするのはよくないと、パトロール隊を巻き込んだのだろう。「ルリルリさん、もうすぐできますからね!」「はい、楽しみにしています」「ベル子さんっ、たぶん会心の出来ですよ」「うん。頑張って」 隙あらばあの二人に話しかける料理好き男子たち……。俺たちと同学年の侯爵次男、セヴォルトが友人に呼びかけたようだ。 今回は一年生の方が多い。ちょうど新入生たちが仲よくなってきたところで、可愛い同学年の女の子と仲よくなれるチャンスをセヴォルトが持ってきた、というところだろう。 そんなわけで、慰労会だというのに最初に自己紹介までした。そしてどうやら、しゃべる猫であるトラを気になっていた奴も多かったらしい。「ほんとにトラさんは、なんでも食べられるんです?」「にゃーは特別な猫にゃん。なんでも持ってこいなのにゃん」「だそうよ。私が保証するわ」 トラもマスコットキャラとしてチヤホヤされている。丁寧語で話しかけられているのは、オリヴィアが
Last Updated: 2026-07-24
Chapter: 16.カミングアウト「よし、皆行ったな! それじゃ、オリヴィアとラビッツとトラ、交互に乗りな。俺が押してやるぜ!」「「結構よ」」「乗らないにゃん」「なんでだよ!」 自分も遊びたいと言い出せなかった貴族でありお嬢様でもある二人のために、トラはああ言ったんじゃないのか!? 天才的な俺の察知能力で理解して、このメンバーで残れるよう促したのに、なんで全員に断られるんだよ!「悪いわね。あなたたち二人と少し話がしたかったの。トラがああ言えば、残ってくれると思ったから」 なんだ。オリヴィアがトラにお願いしたのか……って、めちゃくちゃ仲よくなってんな。それに、俺の天才的な察知能力まで加味していたのか!?「単刀直入に聞くわ。二人とも、中身だけは違う世界から来たのよね? 元はこの世界の人間じゃない。違うかしら」「えっ」 ラビッツと顔を見合わせる。「……トラから聞いたのか?」 トラが別世界から来たのは疑う余地もない。そしてトラがもし同じゲームをプレイしたことがあるのなら、俺たちがゲームとは別人だと察することは容易い。「ニコラ様は以前のあなたとは全く違います。仲間思いではあったけれど、今ほど他の方を気遣えるような方ではなかったわ。ラビッツさんも、そんなニコラ様を気に入っている。そうでしょう?」「えっ、わっ、わたっ、えっと、そんなことっ」「答えなくてもいいわ。とにかく、おかしいと思ってトラに相談したの」「……なるほど」 トラがふふんと得意げに体を揺らした。「にゃーは最初から分かってたにゃん! あんなに変な目でにゃーを見る二人は、この世界の住人じゃないにゃん」「変な目ってなんだよ」「変な目は変な目にゃん」 それがどんな目かって聞いてるんだけどな。 「それに、二人がラブラブなんておかしいにゃん」 やっぱりゲームはプレイ済みか。「そっ、そんなっ、ラブラブなんて、そ、そんなこと、な、ないし!」 うぉぉ。赤い顔してツンツンするなっ。さっきからラビッツが可愛すぎる。正常でいられなくなるから話を変えよう。「にゃーにゃーうるさいな。お前、男か女かハッキリしないよな。ついてんのか?」「うにゃにゃ!? ついてるわけないにゃん! こんなに可愛いドレスを着て男なわけがないにゃん!」「猫にドレスっておかしいだろう」「丸出しにする方がおかしいにゃん!」「ってことは、元は女性か。
Last Updated: 2026-07-22
Chapter: 15.親衛隊結成の前触れ「ベル子、大丈夫か?」 リュークが気遣うように声をかけた。ベル子はすぐにいつもの調子に戻ったように見えた。「平気」 そう言った声は落ち着いていたものの、どこか無理をしているような感じもする。 この様子……やはりリュークは既にベル子の事情を知っているのか。「私、吹っ飛んでいった方たちの様子を見てきますね」「私も行く」 ルリアンは治癒魔法が得意だからな。ベル子も、怪我の具合を見たいんだろう。「リューク、二人をよろしくな」「お前は?」「残った生徒たちに話を聞くよ」「頑張れよ、王子様っと」「肩書きだけはビッグな雑用係だよな。記録はラビッツに頼もう。この前のも綺麗にまとめてもらったしな。顛末を覚えといてくれ」 チラリとラビッツを見る。「し、仕方ないわね」 このツンデレ感! たまらない!「じゃ、あとでな」 リュークたちを見送ると、一度眠っていた見張りも指パッチンをして起こした。チョイチョイと親指で背後を差し「暴走していたから止めたんだ」と伝え、一緒に彼らのところへ行く。見たところ、一人を除いて全員先輩だ。「やぁやぁ、俺たちは学園パトロール隊だよ」「はい……ニコラ様、申し訳ありませんでした」 二十人くらいいる中で、スッと一人が前に出てきた。やはり貴族。俺の相手をするのは自分しかいないという自負があるんだろう。侯爵の息子で顔見知りだ。後ろにいる彼の弟が唯一の俺たちとの同学年だな。兄に誘われて羽目を外しに来たのだろう。「備品を勝手に使うのはよくないな。台車の持ち出し許可は?」「メンバーに園芸部の者がいまして。届いた備品を運ぶのに台車を使うと、倉庫の鍵をお借りしました」「なるほど。見張りもいたよね。静音魔法も張っていた」「……はい」「いいことをしている自覚はなかったと」「もうしません。すみませんでした」 楽しいことに水を差してる気分だな。「いっそのこと、競争クラブとかサークルでもつくればいいんじゃないか?」「へ???」「楽しそうだったしな。身分関係なく皆で遊ぶ、多いに結構だ。君はいい生徒だよ。ただ、嘘はよくない。放課後に特定の場所で何かの競争でもするサークルでもつくればいいじゃないか。ルールも決めて届けを出せばできる」「あー……」「速度メーターを備品で買ってもらって、危険回避の方法も明示すれば許可も下りるさ」 一定範
Last Updated: 2026-07-20
Chapter: 14.台車でゴー!「はぁ……」 気が重い。黒子には俺の力を使うことは既に伝えてある。「よ! さっすが王子!」「うるせーよ」 リュークが茶化してくるが、乗る気すら起きない。憂鬱だ。しかしやるしかない。 今日は例の、生徒が持ち込んだ面倒事への対処……ではあるが、ゲームとは展開が少し変わっている。 魔力を見えない空間から自分へと戻すイメージで集める。柔らかく自然な光が俺を包み込んでいく。自分だけの力ではない。間違いなく外からの神のような何かに守られているのを感じる。 俺の内部に光が吸い込まれ、不自然な力を持つのが分かる。女神に祝福された、王族直系独特の力……あまり好きではない感覚だ。 よし、行くか。 皆に持っていてくれと手で合図すると、俺だけが校舎の裏へと進む。「やぁやぁ、ご苦労さま」「……あっ、ニ、ニコラ様」「大変だね。皆が遊んでいるのに君たちだけが見張りなんてね」「え」「悪いけど少しの間、眠っていてくれ」「…………っ。ぐう」 あー、疲れた。 おかしな力が手の平から放たれたのを感じると同時に身体の芯から倦怠感が湧いてくる。見張りはあっという間に地面に崩れ落ちた。催眠魔法だ。二人だから大したことはないけど、疲れるものは疲れる。 火や水や風を使うような基本的な魔法は、ほとんど疲れない。自然界と一体化しているような感覚で、腕や手を動かすくらいの意識だ。 特殊魔法は成長期が過ぎて大人になれば疲労感は減るらしいものの……俺のは特殊すぎるからな。どうなるのかは分からない。 さて、と。 俺はチョイチョイと手招きをして、隠れていた皆を呼び寄せた。「静音魔法も切れたよ。それが得意な奴が交代で見張りをしているのかもな……。あっちでワーキャー声がする。だるいけど行くか」「お疲れ様でした、ニコラさん」「ああ。俺は疲れたからあとは皆に任せるよ」「お任せくださいっ」 校舎裏といっても、ここはとんでもなく広い学園。道具入れや木々に挟まれた道を抜ければ、開けた場所が広がっている。 そこで生徒たちが羽目を外していた。「ぶっちぎりぃぃぃ!!」「うおおおおお! 追い抜いたるぞー!」「負っけねー!」 ゲームより平和だ……。俺達に気づいていないようなので、しばし見守ろう。「んっふーにゃん。にゃーがアドバイスしたお陰で平和な催し物になったにゃんね」 後ろから、思い
Last Updated: 2026-07-18
Chapter: 13.パトロール隊記録 昨日は夕方には完全に効果が抜けたので、一緒に外へ転移してもらい、早めの夕食を食堂でとった。「いい? 私は変な液体を飲んでおかしくなっていたの。分かった?」 と、ラビッツはちょっと赤くなりながらむくれていた。やはりツンデレはいい。転生最高、転生万歳だ。 ただ、やっぱりゲームで見るのと実際は違う。もっと恋人のような関わりをしてみたいとは思う。 ……どうしても、贅沢にはなる。あんなに期待を持たされるとな。 転移が疲れることは分かっているのでそのまますぐにラビッツを寮へと見送った。俺はポケットの瓶だけはその日のうちに職員へと渡し、夜のうちに軽く報告書をまとめた。今朝はリュークに経緯を話しながら朝食を食べ、すぐに報告書を職員へと渡しに行き、その場で報告も受けた。 ザッと目を通してから、既にげっそりと疲れながら、初授業を受けるために教室へと入る。「ニコラ様、昨日は申し訳ありませんでした」 すぐに、昨日の生徒たちがぞろぞろと謝りに来た。 高校とは違ってここでは講義のたびに教室を移動する。選択授業もあるけれど、今は一年生の必須授業前。ここにいるに違いないと、わざわざ俺を探しに来たんだろう。「気にしなくていいよ。俺も参加したかったくらいだ」「えっ」「楽しそうだよなー、闇鍋ならぬ闇水! 俺だって羽目を外したい」「あ、はは」「でも、あれはよくなかったな。複数の効果がある液体を前例も調べずに混ぜるのは危険だ。どんな副作用があるか分からないし、やめたほうがいい」「はい、気をつけます」「次の授業がもうすぐ始まる。もう行きなよ」「はい、その前に一つお耳に入れたいことが――」「え」「少し教室の外へ来てもらえたら」 そいつらは俺に面倒なことを持ち込んで、立ち去っていった。「なんて言われたの?」 同じ授業を受けるルリアンと一緒にラビッツも来て、俺の右隣に並んで座った。自由席だからな。「……謝られただけだよ。あとは新たな面倒事だな」「面倒事?」「俺たちが今年の学園警備隊――パトロール隊だと認知されたな」 知っているなら自分たちで何とかしてほしいものの……内容はといえば、実は俺もゲームで知っている。つまり、導きのペンデュラムで知ることを単に人づてで聞いただけだ。危ないことをしそうな人たちがいますよ、と。「放課後に皆集まったら話す。また、近いうちにパ
Last Updated: 2026-07-16
Chapter: 12.ラビッツの部屋 ひょぉぉぉぉ!?!?!? ど、どうすんだ、これ……!? 女子寮だ。ラビッツの部屋の中だ。男子寮と家具類は大して変わらない。本棚や学習用の机、ベッドにテーブルセット。その色合いや飾ってある小物類から、女子寮だということはすぐに分かる。「なんか自分の部屋に来たらもっと眠くなってきちゃったなぁ」「待て。早急にカーテンを閉めてくれ」 外から見えないように、俺はすぐに家具に隠れてしゃがんだ。バレたらまずすぎる。「さすが王子様。そーゆーのはすぐ気づくのね〜」 ほわほわしながら、手に持っている紙コップを机に置くと、ラビッツはシャッとピンクのカーテンを閉めた。男子寮はブルーのカーテンだ。 どうする……。俺の黒子はどうにかして来るだろう。最後のラビッツの言葉から場所も分かっているはずだ。天井裏あたりにどこからか潜り込むだろう。あの部屋の片付けも終えた。チャンポンはここにあるし植物はポケットの中で……昼食は抜くとして、夕方になったらもう一度転移してもらって……。 うん、どうにかはなる。 頭の中でシミュレーションして、少し落ち着いてきた。「ごめん、ニコラ。すごく眠い」「転移魔法は疲れるからな」「知らないくせに」「ああ、知らないさ。俺にはできない。もう布団に横になれ」「ん……」 ああ……俺の婚約者で可愛い最推しのラビッツが、トロトロした目をしながらベッドのうえに……。どうしろというんだ。触りたくなるじゃないか。妄想大好き男子なんだぞ、俺は。 はぁぁぁぁ。「なんだか眠いのに眠れない。体が熱くなっておかしいの」 ラビッツの状態が知りたいな。やっぱり少しだけ飲むか。「少し待ってろ」「うん」 わずかにチャンポンを口に含む。 うぉ、なんだこれ。美味いな。確かによっぽど我慢しないと全部飲んでしまいそうだ。あー、酔う。アルコールではないはずなのに、似たような感じだ。洗剤じゃないけど混ぜると危険という意味がよく分かった。飲み合わせの危険性について、研究してもらおう。親父に頼んでおくか。 最後の正体不明のアレは、媚薬に似たものだな。効果は強くないものの、身体は変に熱い。ラビッツ一人で校舎内をうろつかなくてよかった。いきなり襲いたくなるほどではないが……いや、襲いたいけど。 冗談半分、ノリで効果をつけたんだろうな。ちょっと今日はムラムラするかもなー、く
Last Updated: 2026-07-14