Chapter: 第47話 お留守番をするマリア あたしマリア、十二歳の女の子。 今は両親がお出掛け中で、お|家《うち》で書類整理をしながらお留守番なの。奴隷商はしばらくの間休業だよ。まあ、奴隷達は変わらずに日々の業務をこなしているけどね。 今週頭に家を出て早五日になる両親のお出掛け先は、隣接する侯爵領。 《《あの日》》、あたしの〝嫌いなものリスト〟に堂々のランクインを果たした大伯父――前セイラム男爵の隠居ジジイから、隣り領の都市〝ファステヴァンブルグ〟の聖堂にて、|お父さん《スティーブ》の弟さんの葬儀が行われたと、手紙が届いたのだ。 お父さんの弟さん――〝アーロン〟という名前らしい――は、七歳で受ける〝鑑定の儀〟で職業適性を【聖騎士】と示され、有能な人材を家門から輩出したいジジイ男爵によって、養子として奪われたの。そして年月が流れ――――数ヶ月前に行われた、あたし達が住む〝フォーブナイト帝国〟と東の隣国〝ジルサバル王国〟との戦争に参陣して、帰らぬ人となった。 その事を一月前の男爵家の来訪時に突然|報《しら》されたお父さんは、男爵家を追い返してみんなが寝静まった頃に、一人涙していたらしい。 あたしは話したことも会ったことすらもない叔父さんだけれど、お父さんの弟なんだから、きっとイケメンで優しい人だったんだろうな……。 |僅《わず》か七歳という少年が家族から離され、貴族として騎士として育てられ、政略の駒として身を立てて最期は戦場に散った。 |叔父《アーロン》さんの気持ちやそれを|喪《うしな》ったお父さんの想いは、あたしなんかにはとても推し量ることはできやしない。ただやっぱり、訃報を知った後のお父さんは元気が無く寂しそうだったし、たとえ中身が成人済み日本人男性のあたしであっても、身がつまされる思いだった。 そんな、それこそお通夜のような雰囲気だった我が家にその手紙が届いた次の日……つまり五日前だけど、お父さんは早速とばかりに、|お母さん《ジョアーナ》を連れて墓参りへと旅立ったってワケよ。「お嬢様。書類は先程の物で最後でございます」「ありがとバネ
Última atualização: 2026-09-20
Chapter: 第46話 父親を見直すマリア「それで、ご隠居様。本日は、一体どのようなご用向きでお|出《い》でに?」 |お父さん《スティーブ》は、実の弟の突然の訃報にも感情を押さえ込み……心の中で切り替えたらしく、話題を変えた。 |隠居ジジィ《前男爵》は一杯目のお茶を飲み干してからソーサーにカップを置いて、伸びきらない背中を伸ばして酒焼けしたような、|嗄《しゃが》れた声を出す。「我が孫がの、そこのロクサーヌじゃが……|此度《こたび》十二の歳を迎えて|披露会《デビュタント》となるのでな。護衛に誰ぞ、有能な者を見|繕《つくろ》ってやろうと思ってのう」 そう言って先程までとは全く違う|好々爺《こうこうや》然とした柔らかい笑みで、ジジィの孫……ロクサーヌとやらに顔を向ける。「おじい様、感謝いたしますの!」 ……なんて言うか、いかにも箱入り娘ですって感じの|娘《コ》だね。 伸ばした濃紺色の髪は|艶《ツヤ》良く揺れ、白い顔にはあどけない好奇心に揺れる大きな茶色い瞳。男爵令嬢にしては華美に過ぎるように思えるドレスの裾は、根がお転婆なのか振られる足でパサパサと踊っている。 ……ふぅん、同い歳なんだ。 先程までのあたしたちの怒りにも気付いてすらおらず、無邪気に祖父と向かい合ってキャイキャイとジジ孫トークで盛り上がっている。「ですがお|義父《とう》様。本当に奴隷などに、あたくしの娘のロクサーヌちゃんの護衛が務まるとお思いですの? 奴隷など、|所詮《しょせん》は身を持ち崩した愚か者達でしょうに……!」 そんなあたしにとっては全然微笑ましくないジジ孫コミュニケーションに、鼻につく香水の匂いを振り撒いて高飛車な声が差し挟まれる。男爵夫人――キャッキャとはしゃいでいるロクサーヌの母親だ。 つーか……あんだとこのクソババァッ!? テメ今なんつ
Última atualização: 2026-09-19
Chapter: 第45話 衝撃の事実を知らされるマリア『いいこと、マリアちゃん? 失礼さえ無ければそれで良いから、すぐに済むからね。無理はしないでね?』 そう言って心配する|お母さん《ジョアーナ》は別室へと晩餐の指揮を執りに行き、あたしは緊張しながらも応接間の扉を叩く。『入りなさい』 中からくぐもった|お父さん《スティーブ》の声で、入室を促される。「失礼します」 バネッサに開けられたその扉の向こうには、男爵家御一行が皆上座となるように配置換えされた応接セットから、無遠慮な視線をこちらに向けている姿が見える。 入室して数歩行った所、男爵家の面々の下座に当たる良く見える位置で立ち止まり、バネッサが教えてくれた礼儀作法の授業を思い出しながら一礼する。この面会のためにあたしの服装は、|他所《よそ》行きの物でも仕立てが良く、且つ華美でない物に着替えてある。「前男爵様にして大伯父上様、お初にお目にかかります。スティーブの娘、マリアと申します。男爵様、そして奥方様やご令嬢もご機嫌麗しく。どうぞ、お見知り置きをお願いいたします」「ほう……」 スカートの裾を摘んで軽く持ち上げ、片足を後ろに引いてクロスして腰と目線を落とすあたしに、老人特有の若干の|嗄《しゃが》れた声が届いた。「これが私の娘です、ご隠居様。マリア、こちらへ」「はい」 うひー、緊張したぁーっ! 許しが出たので、あたしはボロを出さない内にお父さんの近くへと避難する。もちろんあたしの席は、最下座だよ。「遠路をお越しでお疲れでしょう。今、お茶を用意させます」 お父さんが入り口横で待機しているバネッサに指示をすると、彼女は一礼して退室し、代わりに応接間の外で待機していた別のメイドさんが茶器を載せたカートを押して入って来る。 なるほど。この場ではバネッサもお父さんの奴隷として振る舞うワケね。そしてこの部屋には、用付けのために一人以外の使用人は置か
Última atualização: 2026-09-18
Chapter: 第44話 客人を迎えるマリア「どうしてみんながピリピリしてるのか、教えてちょうだい」「かしこまりました」 バネッサが自分のカップを脇に|退《ど》かして、揃えた脚の上に両手を置く。相変わらず惚れ惚れする所作だよね。自然とあたしも居住まいを正して、傾聴する姿勢になっちゃった。「恐らくは、旦那様より昼食時にお話があるとは存じますが……本日いらっしゃるお客様は、旦那様の|伯父《おじ》上様御一家でございます」「おじ上……おじさん? つまりお爺様の、ご兄弟の?」「はい。旦那様のお父上であり先代会長のワーグナー様、その兄上様でございます」 そんな人が、わざわざどうして……?「その……お嬢様のご親戚筋のお方ではございますが、こう申し上げては何なのですが……少々、身勝手なお方でございまして……」 ええぇぇ…………|使用人《バネッサ》に言われるとか、相当じゃない? しかも、これでも言葉を選んでる感じがヒシヒシと……!「普段はお付き合いは全くございませんが、御本家……先代様のご実家で何かが有りますと、こうして突然訪問なさるのです」 なんだそれ…… 金の無心とか、厄介事の|類《たぐ》いを持ち込むつもり? ん……?「御本家……? 先代会長――お爺様のご実家って……?」「はい……ご察しの通り、お貴族様にございます。御本家は〝セイラム男爵家〟。ムッツァート伯爵領の隣りの領主であられる、〝ファステヴァン侯爵〟閣下の部下の方です」 うげぇ&he
Última atualização: 2026-09-17
Chapter: 第43話 スイーツ女子マリア「それでは行って参ります、お嬢様」「行ってきますっ!」「うん。二人とも気を付けてね。無茶しちゃダメだよ?」「お二人共、お嬢様がご心配なさらぬよう、くれぐれもお気を付けて」「安心しろバネッサ。ルーチェも久し振りの現場なのだから、様子を観ながらやるさ」「わ、わたしもミリィお姉様の足を引っ張らないように、頑張りますっ!」 今日はミリアーナの冒険者活動の日。今回の依頼は何を受けるのか、今から冒険譚……報告を聞くのが楽しみなの。 ただし、今回はいつもと違う点がいくつかある。 一つは、あたしが保護して奴隷としたルーチェの、冒険者としての|復帰戦《リハビリ》だということ。 もう一つが、普段ソロ冒険者であるミリアーナが、正式にパーティーを組むということ。もちろんその相手はルーチェだけどね。 職業適性が【魔法戦士】のミリアーナに、【賢者(偽ってるけど)】のルーチェが組んで、連携を確かめる目的もあるんだよ。まあ適性の組み合わせだけなら、相性は良いはずだ。現場を知らない|素人《あたし》の机上の空論且つゲーム知識だけどね。 ちなみにルーチェの【賢者】の適性については、今のところ知っているのはウチの家族とミリアーナとバネッサ、あとはこの街〝アズファラン〟の冒険者ギルド、そこのギルマスのハボックさんだけ。 あたしはルーチェを手放すつもりも国に渡すつもりも無いし、本人もそれは望んでいない。両親やハボックさんも、一度保護したルーチェの適性を今さら国に報告するつもりも無いとのことで、満場一致で秘密にすることと決まったの。 そのことを改めてルーチェに伝えたら、また泣いちゃったんだけどね。なんでも、〝鑑定の儀〟が近付いたある日、両親が希少な適性が出れば高く買い取ってもらえると話しているのを聴いてしまったらしい。 確かに国にとって【賢者】や【勇者】、【聖女】などの希少な適性持ちは、喉から手が出るほど求めているし、親に支払われる雇い賃とも支度金ともとれる報奨金は莫大で、さぞかし魅力的だろう。 だからって
Última atualização: 2026-09-16
Chapter: 第42話 天国を味わうマリア ――――カッポーン♪ 木製の浴槽に木の|桶《おけ》が当たって、耳に心地好い音が反響する。 うん。ごめんね、バネッサ、ルーチェ。二人がキレイにしてくれたのは分かってるんだけど、やっぱり吐いてしまった後でお風呂に入らないのは気持ち悪いの。 あたし、(魂は)日本人だから!! と、いうわけで。あたしは急遽お風呂を沸かしてもらって、まだ夕方に差し掛かる頃合からの優雅な入浴タイムと洒落込んでいるのです! とりあえずは脱ぐ物を脱いで浴室へと駆け込み、バシャバシャと掛け湯をしてからまずは浴槽へ。「あふぁああああ〜〜〜……」 さすが我が家自慢のお風呂だね。日本の|檜《ヒノキ》風呂とは違う木材なんだけど、それでもお湯の中に木材の柔らかい香りが混じって、凄くリラックスできるの。 あ、この世界にも普通にお風呂の文化は有るよ。ただ一般家庭に普及はしてなくて、家に風呂が在るのは王侯貴族や裕福な家庭だけかな。一般の人は入ろうと思ったら、銭湯みたいな公衆浴場に行くみたいだね。ローマのテルマエみたいなもんかな? 知らんけど。 |家《ウチ》は……ねえ? 奴隷商ってことで嫌われ者だからさ。お金にも余裕はある事だし、|お母さん《ジョアーナ》の熱心なお願いで、|お父さん《スティーブ》が湯殿を建てたんだって。 そんな事を考えつつ、お湯を手で|掬《すく》ってはパシャパシャと顔に掛けていると、脱衣所から声が掛かった。「お嬢様。お湯加減は|如何《いかが》でしょうか?」 バネッサの声だね。ホント、有能なパーフェクトメイドさんで至れり尽くせりだよ、あたしゃあ。「うん、最高だよぉ〜!」 お世辞抜きに返事を返す。 この気持ち熱めの温度が良いんだよね。身体の芯に熱が染み込んでくるこの感覚……! やっぱりあたしの中身は日本人なんだなぁと、しみじみ思うよ。「それは良うございました。では、失礼い
Última atualização: 2026-09-15