LOGIN目が覚めたら、異世界で奴隷商人の娘に転生していた。ちなみに前世では男で、社畜で、多分だけど過労死したっぽい。 知らない物だらけの異世界で温かい家族や奴隷達に囲まれて過ごしていく内に、俺はすっかりこの人生を気に入っていた。まあ……この世界特有の【適正】やら【職業技能】やらでは考える事は多いけどな。 そんな異世界なんだが、過労死した元社畜の俺にとっては許しがたい点が多すぎてな。色々と手を加えて頑張ってるんだ。その過程で奴隷達の扱いなんかも変えたりしてな。 まあ、なんて言うか……とにかく今世も過労死だったり奴隷の反乱なんてのはごめんなので、できる限りホワイトな経営目指して、奴隷達と頑張って生きてくわ。
View More「クハハハッ! よくぞ我が魔王城まで辿り着いたな、選ばれし〝勇者〟タテワキの一党よ!!」
「〝魔王〟バルタザールよ! 貴様の野望もこれまでだ! オレとオレの仲間達とで、貴様の命運を断ってみせる!!」
ここは剣と魔法の世界〝エウレーカ〟。人間、亜人、魔族、魔物が入り乱れ、血で血を洗い覇権を競う、命の価値の低い世界。邪神教の狂信者の手により悠久の眠りから目覚めた魔王バルタザールは、人類を支配せんと配下と共に戦乱を巻き起こした。
対する人類側は、 両陣営が
「そう言うアンタ達こそ、魔王に雇われてたのね?」
何故か足を止め、武器を下ろす魔王配下の四天王と勇者の一党。 「ぬっ!? どうした四天王達よ! 戦うのだ!!」「みんな、一体どうしたんだ!?」
訝しむ勇者と魔王。 そんなそれぞれに、彼らの配下と仲間は振り返り口を開いた。 「すみません、魔王様。俺達、アイツらとは戦えません」「ぬなっ!!??」
驚愕に目を見開く魔王。 「ごめんね、タテワキ君。私達も、彼らとは戦えないわ」「え……!? ど、どうして!?」
開いた口が塞がらない勇者。 「どうしてって、なあ?」「ねえ?」
何やらただならぬ雰囲気に陥った決戦の舞台。 そんな雰囲気を一刀両断するがごとく、魔王配下の四天王達と勇者の一党の面々は、口を揃えてこう言った。 「「「社則だから」」」 それだけを言い残し、四天王も勇者一党も、突然ハッと我に返った勇者が、懐から一枚の紙を取り出した。そこには、こう記されていた。
『社員同士による戦闘行為は、その一切を拒否できるものとする。またそのような事態が発覚した場合はその時点で契約を終了とすることを、承知するものである』 それは、ある商社と交わした契約書だった。 「むっ!? 勇者タテワキよ、その紙はもしや……?」 それを見た魔王が、その紙は、勇者が持つ契約書と寸分違わず同じ物であった――――
◇ 「いやぁー、まさか魔王軍と勇者パーティーと、どっちにも俺らが雇われてたとはなぁ」「ホントよね。でもこれで良かったのかしら? 〝社長〟のことだから、きっとこれも想定内なんだろうけどさ」
黄昏に染まる街道を、つい先程までは敵対する勢力に属していた男女数名が、仲良く談笑しながら歩いていた。 種族も性別も、容姿も装備もバラバラな彼ら。そんな彼らの唯一の共通点といえば。 「いいんじゃねぇの? 〝お嬢〟の目に偽装は通じないし、全て知った上で契約したってんなら、案外こうやって毒気を抜くことが目的だったのかもだしな」「それもそうよね。だいたいが派遣された兵力の私達が最高戦力って、どういうことだって話だしね」
「
「私達だって。勇者君に人望が無いのか、人類側にやる気が無いのか……。とにかく使えない奴らしかお供に居なかったからねぇ……」
彼らの装備の何処かしらか一箇所には、その所属を示す印が存在していた。それは、この世界でも有数の版図を有する帝国の、とある大商会の刻印である。手広く手厚く人材を集め、依頼があれば優秀な人材を派遣し、どんな仕事をも完遂してみせるその商会。
戦闘員でも、職人でも、料理人でもなんでもござれと豊富な人材を抱え込み、貴族や皇帝ですらその人材達で助けた実績を持つ、その名も、〝人材派遣会社〟ワーグナー商会。
「でもまあ、おかげでケガすることもなくさっさと帰れることになったし、〝お嬢〟様様だわな」「ホントね。勇者君には悪いけど、会社でみんなと過ごしてる方がよっぽど楽しいしね。料理も美味しいし」
「あッ!! 料理で思い出したが、そういや〝あの日〟が近いんじゃねぇか!?」
「ハッ!? そういえばそうだったわ!! 月に一度の〝カレーの日〟まであと三日しか無いわ!?」
「こうしちゃ居られねぇ!! おうお前ら、急いで〝お嬢〟の居る本社へ帰るぞ!!」
「私達も急ぐわよ!! 〝社長〟手ずから作ったカレーライス……! 絶対逃す訳にはいかないわ!!」
片や魔王軍に雇われ、最高幹部である四天王として君臨していた戦士達が。片や勇者にその実力を見初められ、魔王討伐の旅の一党として同行していた戦士達が。夕焼けに染まる街道を、我先に帰らんと駆け出していく。
目的は一つ。
彼らに〝お嬢〟と。〝社長〟と呼ばれ親しまれている、一人の少女の元へと帰還するためであった――――決算報告、任務報告、調査報告、人事考課報告、備品稟議書、消耗品発注書、手当申請書、遠征費請求書、etc、etc……「書類が……減らない……!」 あたしマリア。十二歳の女の子だけど、本当の海でなくて書類の海でダイビング中。「マリア会長。こちらは来月度の勤務表の草案です。確認をお願いします」「おっふ。カトレアさぁーん、ちょこーっと書類仕事手伝ってかない?」「マリア会長。残念ながらそれらの書類は全て、会長の最終確認のみとなった物です。わたくしに手伝える事はありませんよ」「マジかー」「マジです。優先度の高い物はこちらの山にまとめてありますので、そちらから確認をお願いしますね」「あーい、ガンバリマース。ねえ、今日のお夕飯は何か聞いてる?」「確か、マリア会長のリクエストだとムスタファが言っていましたよ? 何なのかは出してからのお楽しみだとも」「ホントっ!? 遂にやったのねムスタファ! 流石は【料理職人】!」「それはわたくしも認めるところですが、一体何を注文したのですか?」「え? 内緒に決まってるじゃんっ。書類を半分減らしてくれたら教えてあげないこともないけど?」「では結構です。夕食までの楽しみとしておきますね」「取り付く島もない!?」 最後に『頑張ってくださいね』と微笑みながら言い残し、カトレアさんはにべも無くあたしの部屋を後にしていった。 おのれカトレアめーっ! いたいけな十二歳の女の子に任せる量じゃないでしょー!?「はぁ……! まあ、カトレアが〝総務部〟の方でだいぶ減らしてくれてるのも、分かっちゃいるんだけどねぇ……」 一通り無意味な抵抗をしてみたものの、やはり書類の山は消えてはくれないわけで。「今は…&h
「……非常に、過激な思想と解釈だと思います。ともすれば奴隷制度に反発……いえ、国の法律や慣習に反旗を翻していると受け取られても、否定は難しいですよ?」 彼女は優秀な部下として、ワーグナー商会の〝総務部〟の部長として組織の根幹を掌握している。しかもそれは仮の姿。本来の彼女の立場は、俺の商会を監視するために領主である大貴族、ムッツァート伯爵から送られて来た監督官だ。 大貴族である伯爵閣下の、その直属の部下であるカトレアにこんな内容の話を聞かせるなんて、ハッキリ言って狂気の沙汰だろう。彼女が一筆認めれば、『危険思想あり』と伯爵に報告すれば一発で我が商会は取り潰しになる。俺は晴れて、天涯孤独の家なき子デビューを果たすだろう。 だけどさ。「別に、世間様を変えようだなんて大それた事は考えてないよ。あたしはただ、止むに止まれぬ事情で奴隷に身をやつしたヒト達を、ヒトとして受け入れてあげたいだけ。他所で仕事のためだけに生かされているだけの奴隷達に、生きる手段としての仕事と教育を与える、その受け皿になりたいの。そんな風に、この商会を変えていきたいの。彼等がヒトとして生きられるように、ね」「……労働の概念を、この商会では根本から変える……と?」「そう。手始めに組織の構造を抜本的に改革した。各部署での奴隷達の成長具合は、カトレアも知っての通りだよね?」「はい、どれも目覚しい成果だと思います。奴隷の適性に見合った分野で、その一線級の者達から専門的な知識と技術を伝授される。人材の豊富さでいえば、この商会は下手な貴族家をも凌駕しています」「ありがと。それで次に取り掛かりたいのは、定まった休養なの。カトレアだって、領城で働いていた時は一度は思ったんじゃない? 『あーあ、たまには休みたいなー』って」「……無かったと言えば、嘘になります」 だよね。それが当然なんだよ。ヒトってのは、働き
「なるほど……銅で造られた調理器具には、そのような利点があるんですね……!」「そうなの。熱は均一に広がるし、焼きムラが出来なくなるよ。もしムスタファが料理の見映えも気にしているなら、職人さんに相談してみたら良いんじゃないかな? その分お手入れには注意が必要だけどね」「それは是非、試してみたいです! それで会長サマ? そのように新たな発想を教えて下さったという事は、何かワタシに作ってほしい料理があるんですか?」「流石はムスタファ! 良く分かってるじゃないの!」 あたしマリア。 奴隷商会である、ワーグナー商会の会長をやっているよ。 あたしは現在新たに商会内に設立して、軌道に乗り始めた〝調理部〟にお邪魔しているの。そしてその〝調理部〟の部長として腕を揮ってくれている彼……彼女ムスタファに、入れ知恵をしているところ。「会長サマは、今は亡き奥様にお料理を習っていたと聞いています。奥様も時々、ワタシ達奴隷の指導をされる時に、その様子をお話してくれましたよ」「お母さんがそんな話を……?」「ええ、それはもう楽しそうに、嬉しそうに。以前でしたらワタシ達奴隷の前で笑顔を見せるなんて事、ありませんでしたから」 今は亡き母であるジョアーナは、料理がとても上手だった。普段はおっとりホンワカしてるんだけど、台所に立った時はまるで人が変わったように手際良く調理して、いつもあたしやスティーブのお腹を幸せで満たしてくれた。 そんな彼女は奴隷達の料理にも指導を行っていたらしいけど、あたしはその現場を見た事が無いんだよね。多分〝料理人の朝は早い〟とか、そういう理由で。「そっかぁ……またお休みの時にでも、お母さんのお話聞かせてね!」「ええ、もちろんです会長サマ」 胸元に咲く薔薇の花籠の刺繍の前で手を合わせて、
「身体は男性だけど、心は女の子なんだよね?」 なおも俯いて涙を流すムスタファに、あたしは決定的な言葉を投げ掛ける。そのあたしの言葉に身を震わせて、ムスタファは愕然とした顔でこちらを見詰めてきた。 赤くなっていたムスタファの顔から、徐々に血の気が引いていく。「ど、どうして……ソレを…………!?」「どうだって良いじゃないソレはさ。それで、どうなのかな?」 ごめんねムスタファ。あたしの【人物鑑定】の職業技能の事は、内緒にしないといけないんだ。この街のギルドマスターとも、今は亡きスティーブとも約束した事だから。「…………はい……」 力なく項垂れて、ムスタファが椅子に座ってまた俯いてしまう。 いや、あともうちょっとだから! 別にイジメたいワケじゃないんだよっ!「世間の女の子達のように、可愛い物に興味があるの?」「……はい」「お化粧をしたかったり、女性物の衣服が欲しかったりする?」「…………はい」「その言葉遣いも、無理してるよね?」「………………はい……」 ああああっ!? そ、そんな落ち込まないで!? ホントに責めてるワケじゃないんだからぁっ!?「なるほどね。バネッサ!」「はい、マリア会長」「例のモノをここに」「かしこまりました」 コレ一度やってみたかったんだよねぇ! なんか、悪の組織っぽくてカッコよくない!? …&he