Chapter: episode.03 夜会の襲撃私達が向う先は王城。本日は大規模な夜会ということもあり馬車が何台も連なっていた、馬車を降りる人達を見るとこの国の重鎮たちの顔がいくつか見受けられた、これらを前にして何事もなく終えれたらいいのだが。私が乗っていた馬車も足を止め、外へと身を乗り出す。|お継母様《おかあさま》とソフィアは既に会場に向かっているようで周囲にはいなかった、お父様の姿も見えないがどこへ行ってしまわれたのだろうか。探す余裕もないので会場につながっているレッドカーペットに足を踏み入れる、周囲が急に騒がしくなり辺りを見渡すが何か起こった様子もみられない、緊張感からか足が重たく感じるが前に前に歩みを進める。「大丈夫、最高の鎧を身に着けているのですから」小さく、アリサの言葉を胸に抱く。「わぁ、凄い……」会場の中へと入ると、まさに豪華絢爛といったような巨大なシャンデリアや美しい花々、煌めかしい灯りと、天井にある大きなドーム型のガラス窓と周りのガラス窓から入る月明りが幻想的な演出を作り出していた。見たことないものばかりで目が眩みそうになる。「お父様のドレスがあって良かったわ」当初のドレスでは萎縮して周りから変な視線を向けられていた事でしょう、にしては先程から変な視線をそこらじゅうから感じるので、私はその視線に耐えれなくなり会場の端の方へと向う。すると、足下が何かに引っ掛かり大きく転倒してしまった、一気に恥ずかしい感情に襲われながらも、誰かの足を引っ掛けたのかと焦りながら目線を向けるとソフィアの足が伸びていた事に気がつく。周りの人はざわついていたが、ソフィアだけが笑みを浮かべている。「ソフィア……」「あら|お異母姉《おねえ》様、大丈……」ソフィアが私に手を伸ばそうとした瞬間、周囲がさらに騒がしくどよめきだした。その視線の先は私ではなく、隣の人物に注がれていた。「大丈夫ですか?」男性の声が聞こえ、見上げると誰もが知っているこの国の王子殿下が手を差し伸べていた。私は惹き寄せられるかのように差し出された手に触れる。白髪でとても優しい雰囲気をまとっておりこの会場で一番の存在感を放っている、噂の通り誰に対しても分け隔てなく優しく接し、誰からも愛される人物であるその噂は間違っていないのだろうと感じさせてくれていた。「あ、ありがとうございます……王子殿下」「いえお怪我はありませんか?」
Last Updated: 2026-10-22
Chapter: episode.2.5 ディンズ家私の名はルーゼン・オーエンス。このオーエンス家に嫁いできてはや十数年。私と血の繋がったソフィアに、オウル・オーエンスが連れていた忌々しい|灰かぶり《エレナ》、母親はおろか出自すらも明かされずその見た目から悍ましさすら覚える。一度家から追い出そうとしたが、我が子可愛らしさにオウルが何度も何度も阻止しようと動き回り思い通りにいかなかった、私の実家より位の劣る分際で灰かぶりにも似て生意気に。「それが今度の夜会で変わるかもしれないわね」オーエンス家から選ばれるとすれば私の可愛い可愛いソフィアでしょう、あんな見た目の灰かぶりが選ばれるはずもないのだから。そんな事を考え自室で思案を広げていると扉のノックする音が聞こえる、部屋にいたメイドに扉を開けさせると珍しい二人が断りもなく部屋の中に入ってきた。「これはこれはお母様、お兄様。急な来訪ですわね?」「ふふふっ、|ルー《娘》に会いに来たのに急もあれへんやろ」「可愛い妹がこんな家で辛い思いをしていないか心配で心配で、お兄ちゃんはたまらないよまったく」「そう言うなザンラ。あれでも武功を上げて成り上がってきてんから、嘘でも褒めるぐらいはしたりな」入ってきた二人は私の母と兄。母の方は【グレア】といい何代にも渡ってこの国を支え、商いで今の地位を築き上げてきた。鋭く相手を値踏みするかのような目線と頭の回転に畏怖の念を抱かせる者も少なく、私自身も娘ながらその内の一人である。兄の方も母に見た目がそっくりで名は【ザンラ】と言い、良くも悪くも母の全てを受け継いだ次期当主。掴みどころのない飄々とした態度は昔から変わらない。この二人が足を運ぶ事は余程の事なのでしょう、二人を目の当たりにした瞬間から頭を回転させ緊張の糸を張り詰めさせ、悟られないようにと軽い抱擁を交わし私は二人を部屋のソファに案内し対面に座る。「それでお母様、お兄様。何用ですか?」「全くお前は、急に本題て‥‥少しは親子の会話をしようとならへんのかいな」「"時は金なり"、お母様の教えですわよ?」「それもそうやなぁ……本題、お前に用件があったのは王子殿下の次期王妃選定についてや」その言葉に部屋の空気が冷たくなったように感じる、私ですら先ほど聞かされた話を何故この二人が知っているのか。疑問に思わなくはないがそれを成し得るだけの力を持っているのは間違いない、この国中に
Last Updated: 2026-10-22
Chapter: episode.02 オーエンス家物心付いた頃から理由も分からず屋敷の人たちから毛嫌いされていた、その環境を作っていたのが|お継母様《おかあさま》の【ルーゼン・オーエンス】だった。お継母様の実家は商家の家系という事もあってか人心掌握には長けているように見え、娘のソフィアもそれに乗っかるようにしてやりたい放題。それを諌めようともせず笑っているだけの人達を見ると、気持ち悪いとすら思えてくる。そんな人達と私を結びつけているのが、このオーエンス家現当主である【オウル・オーエンス】。その他にもお父様の弟やお祖母様もご存命との事だが、何故か幼い頃の記憶にしか残っていないほどお会いしていない。そんなオーオンス家が一同に会するのは実に珍しい事で、屋敷の人全員も呼ばれているようで執事やメイド達も壁の方で並び立っているが、私も含め呼ばれた理由については誰も知らないらしく皆が不安そうに目配せしながら、静かにしている。「ねぇ〜、お母様。なんで集められてるのよ」「私も聞いておりません」「ふぅーん‥‥」暫くすると、屋敷用の装いに身を包んだお父様が大部屋の中に入ってきた。こうして改めて見ると我がお父様ながら整った顔立ちに、鍛えられた体つきなど客観的に見てもこの国で上位に入るほどのかっこよさだと思う。髪は|黄金色《こがねいろ》ではなく白銀の美しさをしており、瞳には私以外と同じくサファイア色を浮かべている。私にはお父様と同じような共通点がなく、これがまたこの中で家族の輪に入れていないのだと感じさせられる。「すまんな、皆。急に集まってもらって」「ねぇねぇお父様、何のお話なの?」「そうよ貴方、急に何のお話かしら?」二人の言葉にお父様の目が鋭くなったような気がし、続く言葉に固唾をのむ。空気の読めない二人が少しだけ羨ましくも思える、私にとって不都合な内容でなければいいが‥‥と。「一週間後、王太子主催の夜会が開かれる事となった」「あら、その程度の話?それなら|私《わたくし》も聞きましてよ」たしかにそれぐらいの事でわざわざ全員を寄せ集めるとは思えない、それに私は今までに夜会に呼ばれるどころか声をかけられたこともない。知らぬ間に終わっていることばかりだったから、それなのに何故今回は私も呼ばれているのか続く言葉に耳を傾ける。「表向きは、先日の"大規模魔獣掃討作戦"の成功を祝した会という事にはなっているが、その裏で王
Last Updated: 2026-10-22
Chapter: episode.01 目覚めと過去「あはははは……あーっははははははっ!!!」生きる者を慈悲なく呑み込む闇夜の森、恐ろしげな静けさの中で私は高らかな|産《・》|声《・》を上げたこの瞬間に、世界が生まれ変わっていく音が聞こえる。体を撫でる風が心地良よく感じ、周囲が光り輝き始め、全身を激流の様に巡る血や煩いくらいに高鳴る鼓動でさえ〝はじめまして〟と言いたくなる。空を見上げていた目線を落とし、ほんの少しの冷静さと辺りを漂う死臭が一気に現実へと引き戻してくる。そうして、私の状況を再び認識したその時に、抑えつける事の出来ない|感情《叫び》を解き放たれる。「|お継母様《おかあさま》も、|異母妹《いもうと》も、全員この世界から居なくなってしまえばいい!」内から出る感情が刃のように喉を切り裂き飛び出していく、痛く焼けるようだが溜まっていたものを吐き出すのは気分が良い。「あいつらを取り巻く人間は皆、死ねばいいっ‥‥苦しんで、追い込まれて、絶望するがいい!!」私は今までずっと我慢してきた、抑えて潰して押し殺して、いい娘であろうと良き婚約者であろうと、全てを捨ててでも我慢して耐え続けてきた。もうこれから私を縛るものはない、私は自由だ。生まれて初めての自由を手に入れた。「ふふっ、エレナじゃったか?余程の事があったようじゃのぉ」その声に、私は重たくなった頭で振り返る。この森の中には私以外にもう一人だけ生存者がいた、妖艶な声をかけてきた彼女の声が私の耳を撫でるようで、不思議な雰囲気を纏いながらもどこか懐かしさも覚えていた。「ありがとう、【|魔《・》|王《・》|オ《・》|ル《・》|タ《・》|ナ《・》】。そうね……長いようで短いような、そんな日々だったわ」あの日はもう戻らないと、喜びにも似た哀しみが頬を伝う涙として自然とこぼれ落ちる。感情とはこうも制御が効かないものなのかと、涙を拭いながらオルタナに顔を向ける。「その、|唯《・》|一《・》|抱《・》|き《・》|か《・》|か《・》|え《・》|て《・》|お《・》|る《・》|人《・》|は《・》…」多数の死体が周囲に転がる中、私は動かなくなった一人の男性だけを抱きかかえていた。次第に失われていく温もりに確かな死を感じながら、抱きかかえる手に力が込められる。そうして、絞り出すように声を出す。「あり‥‥さようなら、|お《・》|父《・》|様《・》」言葉を漏らした
Last Updated: 2026-10-22