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第3話

Autor: 水瀬こはる
隣の部屋から、子どもたちの笑い声が聞こえてくる。

その声につられて、私も思わず小さく笑った。

看護師さんが言った。「ちょっとトイレに行ってくるので、ここで少し待っていてください」

私はうなずき、椅子に腰を下ろした。

数分後、周囲がざわつき始めた。近づいてくる足音と抑えた声から、人が集まってきたのだと分かった。見えなくても、皆が私を見ているような気配だけははっきり感じた。

「柳沢さん、どうしてここにいるんですか」

「本当にあなたなんですね。事故を起こして逃げたんじゃなかったんですか?警察が学校まで来たのに、よくこんなふうに平然と現れるなんて」

私は眉をひそめ、落ち着いて答えた。

「私は何もしていません。どうして捕まえられなきゃいけないんですか」

その瞬間、誰かに腕をつかまれ、無理やり立たされた。

「璃子、やっぱりお前だったのか。もう逃げるな。警察に行って、自分のしたことを話せ」

声で、相手が航だと分かった。

私は腕を振り払う。

「航、どうかしてるの?私がどうして自首しなきゃならないの」

茉莉が私の腕をつかむ手に力を込め、いつになく真剣な声で諭した。

「璃子さん、もうこれ以上間違いを重ねないでください。三人も亡くなっているんです。きちんと説明すれば、私たちも情状酌量を願えます。少しでも罪が軽くなるように」

私は彼女の手を振りほどいた。

「何を言っているんですか。私は何もしていません。説明なんてできません」

そのとき、誰かが私の襟を強くつかんだ。

「昨日、あんな無茶な運転をして、赤信号まで無視して……俺の妻を……

ふざけるな!妻は、まだ妊娠が分かったばかりだったんだ。これから家族みんなで喜ぶはずだったのに……全部、お前が奪ったんだよ。俺の家族を返せ。返せよ!」

私は地面に叩きつけられ、全身に痛みが走った。

必死に叫ぶ。

「人違いです!今日はずっと病院にいました。車なんて運転していません。それに、車はなくなったあと、盗難届を出しています!」

男は、私が患者着を着ているのに気づき、わずかに手を止めた。

しかし茉莉が、すぐに口を開いた。

「璃子さん、あなたの家が裕福で、顔も利くことは知っています。病院に頼めば、診断書くらいどうにでもなるでしょう。でも、多くの命が失われているんです。どうして認めないんですか」

航も私を指さし、声を荒げる。

「璃子、お前は人を殺しておいて、よく平然としていられるな。前にお前が言っているのを聞いたんだ。免許を取ったら、市街地でスピードを出して、赤信号を無視してみたいって。刺激が欲しいって。どうせ家に金も権力もあるから、何があっても怖くないって。止めたのに、本当にやるなんて」

その言葉をきっかけに、周囲のざわめきが一気に荒くなった。見えなくても、皆の怒りがますます燃え上がっていくのが分かった。

誰かが手に持っていた物を私に投げつける。

「世の中に、どうしてこんな腐った人間がいるんだ。人を殺しておいて、まだ偉そうにするなんて」

「金持ちは、私たち庶民を踏みにじっても、人の命まで軽んじるのか。あんたなんて死ねばいい」

男が私の首をつかみ、怒りに震える声で叫ぶ。

「金と権力があれば、俺たちの命なんてどうでもいいのか。お前にも同じ目に遭わせてやる」

喉が締めつけられ、息ができない。

そのとき、遠くからパトカーのサイレンが聞こえ、警察官の怒声が響いた。

「何をしているんです!すぐ手を離しなさい!」

男は悔しそうに叫ぶ。

「俺は妻と子どもの仇を取りたいだけだ。こいつのせいで家族を失ったのに、どうしてこいつは無事なんだ!」

警察官が男をなだめ、手を離させた。

首の痛みで声がかすれていたが、私は必死に言った。

「警察の方、間違いです。今日は一日中病院にいました。車なんて運転していません!」

警察官は冷たい目で私を見下ろす。

「柳沢璃子さん、あなたが罪を恐れて逃げ、通報もしなかったせいで、妊婦の救助が遅れ、命を落としたことを理解していますか」

私はかすれ声で答える。

「証拠はありますか?私は運転していません。本当に違います」

警察官はため息をつき、隠しきれない嫌悪をにじませた。

「事故を起こした車は、あなたの家のものです。事故当時の防犯カメラやドライブレコーダーには、あなたが運転して人をはね、そのまま逃げる様子が映っています。目撃者も大勢います」

私は呆然とした。

行っていないのに、どうして映像の中の犯人が私に?

「今ここで素直に罪を認めれば、減刑される可能性もあります」

そのとき、少し離れたところから誰かの声がした。

「これは何の騒ぎですか?」

すぐに、別の人が答えた。

「この女が車で人をはね殺して逃げたんだ。今、警察が逮捕しているところだよ」

誰かが私を引っ張った拍子に、目を覆っていた包帯が外れた。

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