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第94話

Auteur: こがね
奈々美は、すぐには会いに行かなかった。

まずは稔の居場所を確かめようとした。

だが、何度かけても電話は話し中のままで、一向に繋がらない。

秘書の番号にもかけてみたが、結果は同じだった。

時間は静かに過ぎていく。レクサスの車内には、微かに香水の匂いが漂っていた。明弘が好んで乗るせいか、彼自身の匂いによく似ている。

長く嗅いでいると、胸が詰まるような閉塞感に襲われた。

電話が繋がらないまま、奈々美は後部座席でじっとしていた。

途中、政彦が車を降りてコーヒーを買ってきた。カイロ代わりの、温かい缶コーヒーだ。

「奈々美様」

政彦は急かすような素振りも見せず、低い声で言った。

「これを飲んで、少し温まってください」

奈々美は目を開けて彼を見た。

政彦はもともと、真由紀が奈々美のために雇った秘書だった。最初は、彼女がグループの基本業務をいち早く覚えられるようサポートするはずだった。

だが、奈々美は大学で臨床医学の道を選び、卒業後も病院へ行くことしか頭になかった。経営の仕事には、一ミリの興味も示さなかった。

そうして時が経つにつれ、この秘書は明弘と奈々美の二人で共有する形
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