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第495話

Auteur: 似水
陽射しが柔らかく降り注ぎ、白い病室の壁に斜めに差し込み、穏やかに散らばっている。

二宮おばあさんはベッドに座り、夏実が隣で果物を食べさせていた。

里香は少し離れた位置に立ちながら、淡々とした声で「おばあさま」と言った。

しかし二宮おばあさんは里香を一瞥もせず、夏実に向かって「今ちょうどいいから、外に出て少し散歩してくれる?」と微笑みかけた。

夏実はうなずき「はい」と答えた。

そして看護師と一緒に、二宮おばあさんをベッドから車椅子に移し、すぐに病室を後にした。

里香の横を通り過ぎる時、夏実は彼女を一瞥し、その瞳には冷ややかな笑みが浮かんでいた。

里香は眉を少しひそめ、ついていこうとした瞬間、入り口にいるボディガードによって立ち止められた。

「おばあさまの指示です、ここでお待ちください」

里香の胸の中に、突然悪い予感が押し寄せてきた。彼女は数歩後ろに下がり、病室のドアが閉まるのを確認すると、急いでスマホを取り出して誰かに連絡しようとしたが、圏外だった。

この病室には電波遮断装置が設置されていた。里香の顔は急に険しい表情になった。

二宮おばあさんは何を考えているの?なぜ私をここに閉じ込めるの?全く理解できなかった。

ボディーガードは里香を外に出すこともなく、彼女は待つ以外にどうすることもできなかった。

ソファに座りながら、時間だけが過ぎていく。夕日が徐々に沈んでいく中、二宮おばあさんは一向に戻ってこなかった。

里香は立ち上がり、窓辺に立って外の交通の流れをじっと見つめた。このフロアはとても高い、飛び降りることなんてできない。

再びドア前に向かい、外に出て行こうとしたが、ボディーガードは相変わらず彼女を止めた。

里香は直接尋ねた。「おばあ様はどこに行ったの?」

ボディーガードは「知りません」とだけ答えた。

里香は「それなら、おばあ様を探しに行くことくらいできるでしょう?」と再び問いかけた。

ボディーガードは答えず、その場から動こうともしなかった。その態度は非常に堅固だった。

里香の顔はますます暗くなった。

このボディーガードたちは雅之の部下ではない、だから里香はむやみに何かをしようとは思わなかった。仕方なく再びソファに戻り、じっと待っているしかなかった。

疲れると、里香はベッドに横になって眠ることにした。ここは環境自体は悪くない。
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