「いいよ。明日、天気が良かったらね」舞子の言葉に、由佳は歓声を上げ、すぐに答えた。「じゃあ、お店予約したら連絡するね!」舞子は少し呆れたように苦笑し、問い返す。「私がどこにいるか知ってるの?もし別の街にいたら、どうするつもり?」「私は錦山にいるよ。あなたが錦山の桜井家のお嬢様だって、ちゃんと知ってるもん。まさか、また逃げ出したとか?」その言葉に、舞子はどう反応すればよいのか一瞬迷った。けれど、ひとまず安心して答える。「逃げてなんかないわ。まだ錦山にいる」「それならよかった。同じ街にいるなら、何とかなるものね」「うん」舞子が相槌を打ち、何かを言いかけたその時だった。不意に腰をぐっと引き寄せられ、背中に男の硬く熱い胸板が押し当てられる。賢司がわずかに身を屈め、吐息が耳にかかったかと思うと、薄い唇が耳たぶをそっと食んだ。「んっ……」舞子は思わず、くぐもった声を洩らした。電話口の由佳は黙り込んだが、すぐに気配を察して慌てて言った。「あの……お邪魔みたいだから、また明日!」そう告げると、早々に電話を切ってしまった。気まずさに頬を染めながら、舞子は振り返り、原因を作った張本人をむっと睨みつける。「なにするのよ」賢司は彼女の首筋に優しく唇を落としながら答えた。「キスしてる」「でも、私いま電話してたんだけど」賢司は構わずキスを続け、低く囁く。「女と話して、何が楽しい」舞子は無理やり顔を反らし、彼の熱い息遣いを感じながら、自分の呼吸まで乱れていくのを覚えた。「じゃあ、男の人と話せばいいの?」賢司は甘く、そして少し強引に彼女の肩を噛みながら言う。「ああ、俺と話せ」その言葉に、舞子の体がびくりと震える。次の瞬間、短い悲鳴が口をついた。賢司が突然、彼女を抱き上げたのだ。舞子は思わず彼の首に腕を回し、頬を薔薇色に染めながら見上げる。「なにするの」賢司は彼女を抱いたまま二階へ上がりながら、平然と答えた。「食べ過ぎたから、腹ごなしだ」舞子の顔はさらに赤くなる。こんな腹ごなしがあってたまるものか。寝室のドアが開かれ、舞子はダークグレーのベッドにそっと降ろされた。その雪のように白い肌は深い色と鮮やかな対比をなし、桃花のように染まった頬は、ひときわ艶やかに映えた。
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