一時間後。紗枝と鈴は、背中を柱にくくられ、目隠しをされていた。黒い布が外された瞬間、紗枝は周囲を見渡し、状況を把握した。そこは、人気のない廃工事現場。鈴は隣で柱に縛られ、青ざめた顔で必死にもがいていた。「お義姉さん、これ......どういうこと!?」一時間前、道端に突然現れた車。降りてきた数人の男たちが、言葉も交わさず彼女たちを強引に車に押し込んだ。鈴はまだ状況を理解できず、半ばパニック状態だった。紗枝は眉をひそめ、ぴしゃりと叱りつけた。「黙って」こんな状況でも分からないのか。これは明らかに誘拐だった。紗枝の脳裏にまず浮かんだのは昭子。あの女がまた、青葉にやらせたのでは。だが次の瞬間、ギィィ......と、古びた鉄の扉が軋む音を立てて開いた。高いヒールの音が、コンクリートにこだました。入ってきた女を見た瞬間、紗枝の目が驚きに見開かれた。「葵?」女はゆっくりと歩み寄り、紗枝の前に腰をかがめ、意地の悪い笑みを浮かべた。「今日、自分がこんな目に遭うなんて、思ってもみなかったでしょ?」たしかに、予想すらしていなかったが、同時に紗枝は疑問を覚えた。どうして葵が、こんな真似を?誰の助けを借りた?なぜ、今?そのときだった。突然、鈴が声を上げた。「葵さん!私です、斎藤鈴です。覚えてますか?」葵は一瞬、目を細めて鈴を見た。「斎藤、鈴?」明らかに、想定外だった様子。どうやら余計な人物を誘拐してしまったらしい。鈴は慌てて畳みかけた。「ええ、以前お会いしましたよね。黒木家にいた時に。私は......いとこの鈴です」「あなたが、あの鈴?本当に?」「はいっ、私です」鈴はまるで救いを求めるように微笑みかけたが、次の瞬間、葵は無表情のまま彼女の前にしゃがみ込み、顎を乱暴につかんだ。「まさか、あの時高飛車だった鈴さんまで、こうして縛られて現れるなんてね」「痛っ!」鈴は葵の爪の食い込む痛みに、顔を歪めた。「葵さん、私はあなたの味方です、ずっと......昔から、葵さんのこと、尊敬してました!」「へえ?」葵の目が細まり、顎にかける手の力がさらに強くなった。「私のこと、バカだと思ってる?」紗枝は、隣で無言のまま、その様子を観察していた。妙な愉快さを覚えながら。「あの時
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