皇帝の命令が下ると、高原がT国で生き延びようという甘い夢は完全に粉々に砕け散った。それだけではなく、王室は今回の事件をきっかけに軍からさらに権力を奪い、その勢力を削ぎ、闇の勢力に厳しい打撃を与えようとしているようだった。今回の件は本質的には王室と軍との力比べで、水面下では不穏な潮流が渦巻いていた。そうでなければ、高原のような取るに足らない男のために、ここまで大騒ぎするはずがない。これらは後になって優子が桜子に伝えたことだが、桜子は聡明で機敏なので、すでに見抜いていた。そして彼女がさらに気にかけていたのは、和彦が名前を挙げた片岡という軍の官僚だった。この件を思えば思うほど疑いが残り、実に奇妙だった。しかし今、彼女にはそんなことを考える余裕はなかった。頭の中は、隼人がいつ危険を脱し、昏睡から目覚めてくれるかでいっぱいだった。高原は一時的に牢に放り込まれ、送還を待っていた。一方、盛京では椿が上司に指示を仰ぎ、夜通し飛行機で部下を率いてT国へ飛び、身柄引き取りの準備を進めていた。夜明け前。病院の廊下には皆が集まっていたが、空気は静まり返り、ひんやりとしていた。優希と檎はずっと外で電話をしていた。ひとりは駆けつけている椿と状況を伝え合い、もうひとりは家にいる千奈に無事を伝えながら、ビデオ越しに愛しい妻の寝顔を眺めていた。優希は画面の初露をじっと見つめ、抑えきれない強い想いに胸が締めつけられ、思わず泣きそうになった。赤く潤んだ目で指先をそっと妻の頬に滑らせ、目を閉じて我慢できずに画面にキスした......「うわっ、携帯の画面にキスするなんて?きもい、吐きそう」と檎が突然イケメン顔を寄せてきた。その勢いに優希は「わっ」と声をあげ、慌ててビデオ通話を切った。眠っている妻を起こしたくなかったからだ。「ちょっと......お前、何なんだよ?俺のすること全部に突っ込むつもりか?」優希が不満をぶつけると、檎は肩をすくめた。「だって、お前はツッコミどころ満載だからな」と耳の穴をほじりながら答えた。「恋愛がみんなお前みたいに気持ち悪かったら、俺は一生独身でいい」と続ける。「そんなネズミの毒より毒のある口を持ってるお前なんか、独り身でちょうどいいよ。お前と付き合う女は怒りで乳腺や子宮に病気ができるぞ!」と優希も負けじと反撃した。「もう一回言ってみろ
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