二人が彼の方へ目を向けた。ただ弘次が静かに彼を見つめているだけだった。「まずは処方を出せ」家庭医としてもう何年も診てもらってはいるが、そこまで親しいわけではなくても、互いに知らぬ仲ではない。弘次の言葉を聞いたその医者はしばし沈黙した後に口を開いた。「余計なことを言うつもりはありませんが、先ほど私が言ったことを聞いていましたよね?彼女は病気じゃないんです。そんな彼女に薬を出せだなんて......飲ませたらかえって問題が起きますよ」弘次は冷ややかに彼を見据えた。「心の病気だと言ったな?だったら心の病に効く薬を出せ」「それは...... 心の病気に効く薬なんて、私に処方できるはずがないでしょう」そばにいた澪音は目の前のやり取りにすっかり呆気にとられていた。彼女はずっと弘次が弥生のことをとても気にかけていると思っていた。なのに、医者が心の病だから薬を飲ませられないと言った矢先に、なおも薬を出せと迫るとは一体どういうことなのか。「先生はすでに霧島さんのことを......」「お前に口を挟む権利があるのか?」だがその言葉は最後まで言い終える前に、鋭く遮られた。弘次の目が冷たく澪音を射抜いた。「ここはもうお前の出る幕じゃない。出ていけ」澪音は弥生のことが心配で仕方なかった。たった一言余計なことを言っただけで、弘次に部屋から追い出されそうになるとは思ってもいなかった。唇を噛みしめ、悔しさを覚えた。医者がきちんと状況を説明していたのに、弘次はそれを無視した。まるで弥生を害そうとしているではないか。このところ弥生は澪音に優しくしてくれていた。その思いもあって彼女は思わず庇おうとしたが、そのとき医者が言った。「分かりました。薬を出しましょう」「先生!」澪音は思わず目を大きく見開いた。「だって先生がさっき......」「黒田さんの言葉が聞こえなかったのか?薬を出せと言われたんだ」澪音は言葉を失った。先ほどまでは弘次が狂っているとしか思えなかったが、今はこの医者まで狂ってしまったように見える。弘次は素人だから仕方ないとしても、医者までどうして......しかし彼女に発言権はなく、ただ医者が薬を処方するのを見届けるしかなかった。そして医者は顔を上げ、澪音に言った。「彼女をゆっくり休
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