All Chapters of 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん: Chapter 741 - Chapter 750

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第0741話

さらに、彼女の名義の実験室は消防基準に達していないという通報を受け、是正処置を講じられている。今もまだ完了していない。その間、当然ながら学術的な成果など出せるはずもない。だから定例会で、奈津のチームはこれまで以上に静かな様子だった。浩史はこれまで、毎回牙をむき出しにして、いつでも噛みついてきそうな野犬だったのに。今は異常に大人しい。那月の顔色も良くない。実験室が是正処置を受けたため、彼女がようやく奈津から勝ち取った研究課題も水の泡となってしまった。奈津に別の課題を割り当ててほしいと頼んだが、逆に叱責された――「課題!また課題だと!私だって課題が欲しいわ!今は実験室が是正を要求されている。どの課題も手がつけられない。どこで課題を探せというの?!」「それに、仮に私の手に課題を握っていたとしても、あなたは本当に進捗についていけて、実質的な成果を出せると思う?」「能力以上に要求しないで、人間は自覚を持つことが大切よ!大学院生なら誰でも学術に向いているわけじゃない。学術をやる者が皆成果を出せるわけでもない。本当に自分を学術の天才だと思っているの?自分を雨宮凛だと思ってるの!?」この一連の叱責で、奈津の唾が彼女の顔にかかりそうになったくらいだ。幸い那月は素早く身をかわし、嫌悪の表情も隠さずに言った。「上条先生、私に設備を買わせた時は、こんなことを言ってませんでしたよ!一点はっきりしてほしいですが、この研究チームに参加する件は、私からのお願いでも相談でもなく、最初から取引だったんです」「私が金を出す。あなたが課題を提供してくれる。互いの合意によるものです。今私は金を払ったのに、あなたは約束を破りました。商売にはなりませんわ」那月は今や奈津に対する幻想を完全に失ってしまった。この人はただの「俗物」「貪欲」「心が狭い」、つまり学術界のニセモノだ。少しも尊敬する価値がない。「それから、そんな言葉で私を戒めようとするのはやめたほうがいいわ。なぜなら――」彼女は一言一言区切って言った。「私にはそんなの通用しないから!」「半月以内に研究チームを見つけて私に入らせてちょうだい。その課題があなたのものでも他人のものでも構わない。とにかく、私を入れなさい!わかった?!」彼女には学術上の経験が必要で、もちろん最も重要なの
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第0742話

奈津は言った。「行きたければ行ってみたら、私がいなくなったら、あなたもいい思いはさせないから!」「今から行くわよ――」「那月、あなた、院に合格した時のこと忘れてるんじゃない?」那月は足を止める。奈津は軽く笑った。「もともとあなたは合格してなかったのよ。私が裏で助けてあげなかったら、あなたには今日があると思う?」「いいわよ、告発したければするといい。止めないから。どうせ死ぬなら一緒でいいわ。私がクビになったら、あなたのような賄賂で入ったニセ院生も連座で処分されるんだから、ちょうどいいわ」那月は全身を震わせながら怒った。「この卑劣な老いぼれ魔女め!」「卑劣?」奈津は嘲笑って続けた。「お互い様よ」課題の加点がなければ、那月の期末試験の点数は見るに堪えないほどひどい。3科目が不合格、他の専門科目の平均点数は70点台。こんな成績、人に話したら笑いものになるレベルだ。あの浩史ですら彼女より良い点数を取っている!美琴が期末のGPAを聞くたび、那月は言葉を濁したが、結局隠しきれずに本当のことを話した。美琴は学歴偏見だけでなく、成績偏見も持っている。彼女の認識では、娘はすでにB大の院生に合格した優秀な人間で、試験など当然問題ないはずだ。まさか……「私を殺す気か!?」那月は慌てて言い訳をした。「今回の期末試験、専門科目の問題は特に難しかったの!私だけじゃなく、みんなできていなかったわ」「なら雨宮凛は?」「……」「黙っていないで!」「……すべてAだった」美琴は、言葉を失って黙り込んだ。真由美も最近はうまくいっていない。まずは奈津が、本当に扱いにくい。奈津の前では、できるだけ慎重に振る舞っているが、それでも毎回怒鳴られる。怒られても、泣くわけにはいかない。実の叔母なのに、奈津にまるで人間扱いされていない。次に、学術的な成果がなくなったこと――実験室が是正処置中で、彼女は一の論文を自分のものにすることもできない。何しろ実験室が使えないのだから、彼女の能力がどれほど高くても、論文を無から生み出すことなど不可能だ。ましてや、一の研究テーマも停滞状態で、論文を書くなど到底無理なことだ。幸い、以前に書いた何本かはまだ見せられるレベルだったから、彼女の期末試験の点数は那月よりずっ
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第0743話

期末試験の平均点数がわずか70点で、いくつかの科目がかろうじて合格点だったとしても、心配していないようだ。結局のところ、なぜそんなに努力しないといけないの?女性としては、いい男性と結婚して後半の人生を豊かに生きるために、一生懸命勉強して、名門大学の学位を取るのではないか?今、彼女は真由美と那月の間に座っていて、不安や焦りもなく、部外者のように落ち着いた表情をしている。真由美は、亜希子には金持ちの恋人ができて、学業には全く関心がなく、ただ裕福な家庭に嫁ぎたいだけなのだと知っている。彼女は、こんな金持ちの男に頼り、男に依存するような「良い妻になりたい女」を軽蔑している。しかし、一は亜希子と同じく驚くほど落ち着いてるのを見て、真由美は本当に困惑している。なぜなら、奈津以外で、実験室が是正処置を受けたことを最も心配すべき人は彼なはずだ。国家プロジェクトを含む、いくつかの重要なプロジェクトが棚上げされている。このままでは、来年も成果を出せないだろう。しかし、一が全く慌てていないとは?これまで、真由美は何度も彼を試そうとしたが、相手は単に無視しただけだった。学校に留められていた間も、彼は何もすることがなく、学校外の実験室でアルバイトをしていた。毎日朝早く出て夜遅くに帰ってきて、ほとんど姿を見せなかった。彼女は奈津に一が外でお金を稼いでいることを話したが、奈津はたった一つの言葉を言った――「貧乏臭い」そして、そのまま放っておいた。「……?」真由美は呆気にとられた。「一さん」耕介は一を引っ張る。「実験室の是正はどれくらい時間がかかるんだ?」「わからない」「全く急いでないみたいだけど?」「急いで意味があると思うか?」耕介は2秒くらい黙って、首を横に振った。「……無駄だ」「じゃあ何を急ぐのか?」耕介はしばらく黙っていた。「……ずっと聞きたかった質問があるんだけど」「言って」「雨宮さんたちの実験室は、是正処置を受けた時、隣にある工大の実験室を借りたよね。僕たちも借りたっていいだろう?」一は目を伏せ、皮肉っぽく口角を上げた。「理論的にはね。借りられるならの話だが。誰かが試していないとでも思ってるのか?」彼の冷たい視線が、最前列の奈津に注がれる。簡単に言ってくれる。実験室は野菜じゃない
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第0744話

全国大学生生命科学コンテストは、年に1回開催される。3年前に高等教育学会の大学コンテスト評価・管理システム研究組織が発表した「全国大学生コンテストランキング」に正式に選定され、研究機関が新たに認めた全国大学生生命学科コンテストとなった。また、生命科学分野で最も認知度の高い国家レベルの大学生コンテストでもある。科学探究とイノベーション起業の2つのカテゴリーに分かれ、同時期に異なるコースで行われる。目的は、学生の独創力と実験研究プロセスを評価すること。言うまでもなく、凛たちは当然参加するつもりだ。ニュースを聞いたばかりの早苗と学而は、早くも興奮して腕まくりをしている。他のことはさておき、期末試験の加点という点だけでも十分魅力的だ。何と言っても、凛のように8つの専門科目中、5つが満点、残りの3つも95点以上という人はそうそういない。今回の期末試験で、早苗の点数は85点だったが、学術成果と論文発表があったため、加点を申請して、最後のGPAは4.0、つまり平均90点となる。学而は加点込みで4.2、つまり平均92点だ。二人は加点のありがたみを実感していたからこそ、今こんな好機を逃すはずがない。凛については……彼女の目的はコンテストに挑戦すること、加点に関しては……ついでに貰えればといった感じだ。「……」早苗はちょっと傷つくと思った。「……」学而は自分が浅はかだと思った。彼らが意気込む中、奈津のチームメンバーも同様に興奮している。那月は目を輝かせる。真由美も安堵の息をつく。暫く論文の成果はないが、全国規模のコンテストで賞を取れれば、彼女の天才少女キャラを維持するには十分だろう。定例の報告会が終了後、一同は解散する。みんなそれぞれ、話題はほぼ全てこのコンテストに関することだ。翌日、雨宮・川村・小林の3人チームは正式にエントリーシートを提出しにいく。登録する時、ふと奈津チームの資料が目に入る。凛は驚いたことに、一の名前もそこにあるのを見つけた。ただし、プロジェクト責任者の欄には真由美の名前が記されている。一はプロジェクトメンバーとして参加しているだけだ。しかし考えてみれば、一は今年で修士三年生だ。このようなコンテストに参加する必要はなく、チームで指導顧問のような役割を担っている
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第0745話

「私は論文も発表したことがないし、研究成果もないけど、真由美の名義になってる実績って、いったいどうやってできたのか、あなたにも心当たりがあるんじゃない?」奈津の目がきらりと光る。「何を言ってるのかがわからない」「忘れてるみたいだけど、入江家の娘として、私が一番困らないものがお金と人脈よ。ちょっとお金を払って、真由美一人を調べるなんて、簡単なことだわ。それで、何がわかったと思う?」奈津の目が一瞬にして疑念に満ちる。「世の中って、こんな偶然があるのかしら?先生も上条さんというし、真由美も上条さんだわ。まさか親戚とかじゃないでしょうね?」「それがどうしたというの!?」この問い返すは強気に見えるが、実は弱気を見せたようなものだ。那月が唇を曲げる。「どうしたって?真由美の中学時代は成績がひどかったのに、高校に入った途端、才能が爆発したみたいに、いろんなコンテストで賞を取るだけではなく、授業以外でも学術論文を書いて、トップクラスの総合誌に掲載されたのよ。この裏にある事情、私が調べてあげようか?」「あなた――」奈津は怒りで全身が震える。彼女はこの時点で、那月を生徒にしたことを後悔し始める。頭が空っぽで騙しやすいお嬢様だと思っていたら、まさか意地悪で陰険なやり手だった!那月は言った。「私をコンテストプロジェクトの第二責任者にしなさい。さもないと――あなたとあなたの姪っ子を両方ともぶち落とすわよ、わかった!?」そう言い残すと、そのまま振り返って去っていった。奈津が罵倒する隙も与えなかった。こうして、申込書の「プロジェクト責任者」欄に、那月の名前も追加された。耕介はまたしてもこの操作に驚き、呆然として一を見た。「……一さん、なんでだよ?」「理由なんてない。この世は、最初から不公平なんだ」彼は冷静で、まるでこういう事にはもう慣れ切っているようだ。耕介はさらに深い困惑に陥ってしまう。……コンテストのルールは研究テーマを自由に設定し、規定期間中に審査に提出し、審査委員会がいくつかのスペシャル賞と一等賞・二等賞・三等賞などを選出する。凛たち三人はすぐに研究テーマと方向性を決めた。プロジェクト責任者を誰にするかという問題で、早苗と学而はほとんど考えることなく即座に答えた。「もちろん凛さんが責任者でしょ!」凛は
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第0746話

凛はスマホを握りしめ、少しぼんやりしている。すると向こうで軽く笑い声がした。「どうした?『お兄さん』って呼んでくれたじゃないか、会うのをそんなに躊躇う?それとも……今の俺たちの関係を受け入れられないか?あの時言った言葉は全部嘘だった?」「わかった、待ってて。今降りるから」凛はすぐに承諾する。時也の言う通り、二人の今の関係に気を遣う必要はない。彼女のあっさりした態度に、向こうの男は完全に言葉を失う。しばらくしてようやく口を開いた。「おじいさんとおばあさんが臨市から帰ってきたんだ。お前が最近プロジェクトを終えたばかりで時間があるかもと思って、俺を迎えに行かせて、実家に連れて行って食事をしようって」久雄と靖子は臨市に暫く滞在していたが、居心地が良すぎて、ますます帰りたくなくなっている。毎日娘に会える上に、慎吾という気配り上手で頼もしい婿の世話まで受け、この上なく快適な日々を送っている。ところが、敏子が出版社からの招待を受け、G市でサイン会を開くことになり、続けて魔都で読者との交流会に参加することになる。慎吾も当然同行する。出版社側は、敏子先生の家族の食事も宿泊も航空券も、とにかく全て負担すると言っていた。何としても敏子先生に快適な旅と最高の体験を提供したいと。そうすれば、今後も何度かサイン会に参加してくれるだろうから。出版社が敏子のオフラインイベント参加を促すために、色々と苦心をしているのは間違いない。両親も同行したかったが、長旅で靖子の体が持たないかもしれないから、敏子が真っ先に反対した。元々は自分だけでG市へ向かい、慎吾には家に残って、久雄と靖子の面倒を見てもらうつもりだった。慎吾も問題ないと答えた。しかし、久雄と靖子は慎吾には同行して、敏子の世話をしてほしいと考えた。お互いが相手を思いやっている。慎吾はどちらにも必要とされていて、有頂天な気分だった。教壇に立っている時以外で、これほど自分が必要とされたことはない、と内心喜んでいる。結局、敏子は両親の意に逆らえなかった。慎吾は彼女と同行することになった。娘夫婦が出発すると、老夫婦もついでに帝都へ帰ってしまう。何しろ家はこちらにあるし、出かけてからも結構日数が経っていた。将来臨市に引っ越して、娘夫婦の近くに住むと計画していたと
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第0747話

そして、言葉を飲み込んだ。男はぴったりとした黒いコートを着て、そのシルエットが広い肩と細い腰の良い体型を浮かび上がらせている。しかし頬は……痩せたようだ。ほっぺが少しこけている。ますます色濃く、計り知れない瞳が際立っている。時也は口元を引きつらせ、湯呑みを手に取る。カップの壁を通して伝わる温度が、掌を灼くように熱くした。「お茶の種類は気にしないよ。ありがとう」凛は言った。「ちょっと待ってて。部屋に物を取りに行ってから出発しよう?」「わかった」時也は彼女の後姿を見送って、再びグラスカップに注がれた透き通ったお茶を見下ろす。以前、何度も冗談半分に「お茶を飲みに上がらせてくれないか」と誘ったが、例外なく凛に断られていた。今、彼は堂々と入り、彼女はお茶を淹れて、手元まで差し出してくれた。時也は泣くべきか笑うべきかわからない。こんな変化を、彼は数え切れないほど願っていた。そして今叶ったが、それは二人の関係が変わったから――恋人になったではなく、兄妹になったから?はぁ……なんて皮肉なことだ!舌先に苦みが広がったが、その苦しさを吐き出せず、飲み込むしかない。今日はマイナス3度だ。寒がり屋の凛は淡いピンク色のミドル丈ダウンジャケットを着て、内にはベージュのカシミアセーターとウールのミニスカート、ジャケットと同じ丈の恰好だ。ロングブーツと合わせ、全体的に若々しく華やかに見える。小顔で顔立ちがくっきりしている上、昨日よく休んだおかげで血色も良く、目も輝いている。「準備できたよ、お兄さん。行こう」その声は彼の胸を軽く撫でていく。むずむずと痺れるような気分だ。「……お兄さん?」時也ははっと我に返り、慌ててソファから立ち上がった。「ああ、行こうか」そう言うと、真っ先に玄関に向かっていく。振り返った瞬間、喉が勝手に動き、口の中が乾いているのを感じる。体の両サイトに垂らした両手も、ゆっくりと握り拳になる。控え目で抑圧的な。凛はその後を追い、食卓の余った二つのサンドイッチがふと目に入って、冷蔵庫にしまおうとした。時也はそう言った。「もらうぞ」「?」「サンドイッチ。昼食をまだ食べてないんだ」「何個がいい?」時也は軽く咳払いをした。「一つで十分だ。ありがとう」ドアを開
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第0748話

陽一は淡々と安定して発言を続けた。「これは……卵とコーンのようだね?」時也は黙り込む。「何度か食べたことがあるから、見ただけでわかる」「……」わかる理由を聞いた覚えはないが?勝手に説明するな!余計な話だ!陽一は続けた。「凛はいつもこうで、細やかで気配りができて、誰に対しても心遣いを忘れない」時也は作り笑いで言った。「庄司先生はクールで無口だと聞いたが、思ったよりよく喋るようだね?」「話す量は相手次第。瀬戸社長も普段は無口なはずだが、今日は特に饒舌らしいね。お返しをするのは当然だと言うから、同じようにさせていただくだけだ」時也は黙り込む。「さあ、行きましょう――」凛は残りのサンドイッチを冷蔵庫に入れ、湯飲みを洗ってから出てくる。顔を上げると、陽一がいるのが見えた。彼女は笑顔で挨拶した。「先生、今日もいらしてたんですか?」「ああ」凛に向かって、男の目元は一瞬で柔らかくなった。「瀬戸社長と一緒に出かけるのか?」「ええ、私たちは――」「行く時間だ」時也は彼女の言葉を遮り、自然な動作で凛のバッグを受け取った。「車は路地の入り口に長く停められない。また誰かに怒鳴られる」「そっか、分かった!先生、それでは失礼します。また」初めて「私たち」という言葉を耳障りに感じる。陽一は胸のざわめきを抑えて言った。「また」途中――凛が尋ねた。「おじいちゃんとおばあちゃんはいつ戻ってきたの?」時也は前方を見据えながら、視線の端で彼女を気にかけていた。「先週の金曜日」「途中でスーパーに寄って、果物を買いたい」「誰に?」「もちろんお二人に」時也は言った。「そんな気を使わなくていい。他人じゃないんだから、実家に帰るのに、お土産を持ってく必要はなくない?」「そうは言っても、初めてお邪魔するのに、手ぶらで行くのはやっぱり気が引けるね」「気にすることないよ。持って行ったらあの二人が余計に考え込んで、お前が家族扱いしてないと思われるかもだぜ」「……そうなの?」「俺の言う通りにしてくれ」いいか。守屋家の屋敷は歴史が長く、湖の近くに建てられて、凛の想像以上に広い。内装は流行りの西洋風スタイルとは違い、守屋家の屋敷は和風で、控えめで古風が漂っている。ただし、学而の家のような、伝統的で堅苦しい雰囲
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第0749話

「手を焼かせる?どういうこと?」凛は初めて誰かが敏子をこんな風に評価するのを聞いて、思わず好奇心をそそられる。久雄は言った。「お前の母さんは今、おとなしくて教養があるように見えるけど、子供の頃は木に登って鳥の巣を探したり、川で魚を捕まえたり、何でもできたんだよ」凛は本当に驚いた。「本当なの?」「守屋園の回廊には、全部で68箇所の手すりがある。もともとはなかったが、後から付け加えられたものだ」「それってお母さんと関係あるの?」久雄は小声で囁いた。「お前の母さんが外の池に飛び込んで、魚を捕まえないようにするためだよ」凛はただ黙り込むしかできない。「どう?思いもよらなかっただろう?」凛はすぐに首を振った。「確かに信じられないわ」「あはは……後でお前の母さんの子供時代の写真を見せてあげるよ。全部取ってあるんだ、証拠だらけさ」「今すぐ行こうか?」凛の目が輝く。久雄は意外にも頷いた。「いいぞ!」興味津々だ!祖父と孫娘はこうして、二階へ上がっていく。時也が電話を終えて戻ってくると、リビングにはもう誰もいなくなっている。彼は一階を二周探したが何も見つからず、キッチンへ行った。「おばあさん、おじいさんと凛は?」「さっきまでリビングにいたわよ?」「いないよ」靖子は言った。「きっとどこかへ遊びに行ったんでしょう。放っておきなさい。そうだ。あなたは残業で忙しいんじゃなかった?早く会社に行きなさい」時也は言った。「……行かない。俺は忙しくない」靖子は首を傾げる。さっき執事が仕事の電話が家の固定電話までかかってきてる、と言ってたじゃない?時也がさらに探す間もなく、久雄はアルバムを持って、凛と一緒に階下へ降りてくる。ちょうど靖子も料理を終え、キッチンから出てくる。家族全員は揃ってソファに座り、アルバムをめくり始める。「……これはお前の母さんが生まれたばかりの時の写真よ。3.4キロもあって、ぽっちゃりしてたの……これは3歳の時、ひいおばあちゃんが人生初のハイヒールを買ってあげた時の……これは……」老夫婦は娘を溺愛し、敏子が生まれた時から、毎年にたくさんの写真を残し、アルバムに綴じて成長記録としてきた。その後、敏子が行方不明になって、このアルバムは20年以上空白のままだった。しかしそれ
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第0750話

「いいよ。さっき入ってきた時はざっと見ただけで、まだじっくり見ていないから」靖子は腰が悪く、長く座っていると調子が悪くなる。凛はもともと靖子を散歩に連れ出そうと思っていた。ちょうど良いタイミングで、すぐにうなずく。空は灰青色で、太陽は雲の後ろに隠れ、時折かすかな光が通り過ぎるが、またたく間に消えてしまう。帝都の真冬には緑はほとんど見られない。ほとんどの木々は枝だけがむき出しになっている。しかし、守屋家の庭はそうではない。巨大なガラス温室には、季節を問わず咲き誇る様々な花や緑の植物が、冬の中で最も鮮やかな色彩を織りなしている。靖子にはこれといった趣味がなく、普段は植物を育てるのが好きだ。元々は植物を育てる気力もなかったが、久雄が彼女の一日中落ち込んでいるのを心配して、気を紛らわせるためにこの方法を考えた。最初は理解できず好きではなかったが、日が経つにつれ、靖子も本当に興味を持つようになった。靖子は手袋をはめ、服が汚れるのも気にせず、しゃがみ込んで小さな庭の草むしりをし始める。凛も花の枝を剪定したり、植物の土をほぐしたりして手伝う。靖子は横から見て、彼女の手つきが慣れていることに気づき、普段から草花を手入れしている人だとわかる。それだけでなく、彼女は植物の習性にも詳しく、どの植物に水を多くやるべきか、少なくするべきか、やるべきでないかも知っている。靖子は笑った。「うちの凛は勉強ができるだけでなく、花や草を育てるのも上手なんだね」今の若者で草花を育てる根気がある人はほとんどいない。「おばあちゃんが育てるのが上手なんだよ。私はただ手伝っているだけ」特に彼女の足元にある何本のクラリンドウは元気が良く、すでに小さな茂みになっていて、もう少し育てればさらに茂るだろう。靖子は笑って首を振った。「あんたは、私を喜ばせる言葉ばかり言うんだから」「そんなことないよ。私はいつも本当のことを言っているの。ほら、このバラはとてもきれいでしょう。ただ形がちょっと変わっていて、白菜みたい……」凛は眉をひそめ、目の前の異常にふっくらとしたバラを眺め、2秒ほど考えてようやく適切な表現を思いつき、そう言うと自分でも笑いをこらえきれない。靖子も口元を緩める。凛を見る目は優しさに満ちていて、まるで彼女を通して、この年頃の
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