真奈は話の流れをさりげなく夫婦のことに向けた。案の定、折居夫人の表情にはほのかな哀しみがにじんだ。「今じゃあの人、田沼家のお嬢さんになってますのよ。こんな場でも、私が顔を合わせなきゃいけませんね」真奈が言っているのは浅井のことだった。折居夫人は、真奈と浅井の確執についてはすでに聞き知っていた。さきほど、大きなお腹を抱えた浅井が冬城おばあさんの前に現れたときも、どこか落ち着かない気持ちになっていた。折居夫人は眉を寄せて、こう言った。「冬城家もどうかしてるんですわ。どうしてあんな女を平然と家に入れるのかしら。自分で離婚を拒んでおきながら、あんなふうに堂々と連れ回して……見てられませんわよ」折居夫人が自分と同じ思いを抱いていると知って、真奈はさらに言葉を続けた。「冬城家から招待状をいただいても、折居夫人に久しぶりにお会いできなければ、私も来なかったと思います」折居夫人は真奈の手の甲にそっと触れながら、柔らかく言った。「これからは、ふたりきりで会いましょう。こんな商売じみた集まりなんて、来る必要ありませんわ」「ありがとうございます」真奈は笑顔で頷いた。「瀬川さん、大奥様がお呼びです」そのとき、ひとりのメイドがやってきて、真奈を呼びに来た。折居夫人は顔をしかめると、落ち着いた声でこう言った。「瀬川さんとはまだ話の途中なの。大奥様には、私が少しだけお借りしていると伝えて。終わったらちゃんとお返しするわ」折居夫人の意をくんで、メイドはそれ以上何も言わず、そのまま引き下がっていった。真奈は微かに笑みを浮かべると、折居夫人と並んで少し離れた場所へ移り、会話を続けた。視線の端には、冬城おばあさんと浅井の姿が映っていた。メイドの言葉を聞いた冬城おばあさんは表情を曇らせ、そのそばで浅井が小声でなにやら慰めているのが見えた。思わず真奈は心の中で呟いた。あれほど前回、冬城おばあさんと田沼会長が対立したというのに、まさか浅井を受け入れるとは——冬城おばあさんの性格からして、よほど浅井が弱みを見せて、お腹の子どもを盾に赦しを乞わなければ、こんな場に連れ出すはずがないし、本邸に入れるなど到底あり得ないはずだった。ただ、今のところ田沼会長も出雲も姿を見せていない。それだけは予想外だった。「皆さま、本日お集まりいただいたのは、冬城家が長年お世話
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